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第百二十七話 閑話 対価

 

「フゥ。勘違いするでなイ。以前の時とは状況が違うワ。今回は無理な戦いの強要はせヌ」


 目の前の漆黒竜、グランケイオスから好戦的な様子が見られないことでアトム達は顔を見合わせ小さく息を吐いた。


「なんだよ、ったく脅かすなよ。(おりゃ)またてっきり前の時みたいに急に襲われるかとドキドキしたじゃねぇか」


 剣から手を離したアトムは肩の力を抜く。


「フハハッ、嘘を言うでなイ。お主がアノ時一番殺気だっておったではないカ。アレには我も思わず身震いしたゾ。人間であれほどの強者がおるのかト」

「いやまぁあん時は若気の至りだ。恥ずかしいからあん時の話をするのは勘弁してくれ」


 それはかつての若竜との一騎討の時の事。

 当時グランケイオスが停戦協定締結の為の条件、アトムが戦った時の事だった。


 満身創痍で若竜を討伐したのだったが、涙目のエリザの制止を振り切り、ひどく傷付いたその身体のままグランケイオスに対して剣を向けたアトム。


 その時の目、鋭い眼光は確実にグランケイオスに向けられていた。


 実際のところ、当時のアトムにはグランケイオスを倒す力は残っていなかったし、仮に全快の状態であったとしても独力では倒せなかった。


 それでも直前の戦いと合わせて、気力と胆力のみでグランケイオスを認めさせたその出来事が退屈を持て余しているグランケイオスには強く印象に残っている。


「では、対価とは?」

「別に我はお主等ナラ無条件で情報提供しても構わぬと思っておるのだガ、他の竜の為に示しもつけねばならんのでナ。タダで情報を提供したとなればどんな反感を買うやら」


「なるほど、苦労を掛けておるようじゃの。それにしても対価のぉ……――――」


 ガルドフが顎に手を送り、髭を触って何を対価として提供できるかと思案した瞬間――――。


「――!?」


 バッと背後を振り返り、拳を強く握り身構えた。


「……何か……物凄い勢いで来るの…………」


 ――ゴォオオオオオ。


 入り口の方から、翼の羽ばたく音と共に翼が巻き起こす突風が広場に起こる。

 それが示すのは、外から竜が入って来たということ。


「おいッ!てめぇッ!やる気はないっていったじゃねぇかよ!」


 アトムも既に剣を抜いて戦闘態勢に入っており、そのまま横目にグランケイオスを睨みつけた。


「余所見しないでアトム!」

「フム、こういう時エリザの方が冷静なのは変わっておらんの」


 エリザとシルビアは魔法障壁を展開しており、衝撃――――竜が放つ息吹(ブレス)に耐える準備が整っている。


「早まるでないッ! 剣を引けイッ!」


 ビリビリと空気が振動するほど広場に響く怒声、壁の岩から欠けた小石がパラパラと落ちるほどの咆哮。


「へ?」


 それはグランケイオスのものだった。


 キョトンとしたまま、アトムは言われるがまま剣を納め呆気に取られ、エリザとシルビアも顔を見合わせて障壁を解除する。


「どういうことだ?」

「ソレは今から我も確認するところダ」


 一体グランケイオスは何を言っているのだろうかとアトム達はお互いに顔を見合わせるのだが、すぐにその言葉の理解が出来た。


 目の前に姿を現したのは、先程外を飛んでいた若竜に睨みを利かせていた金竜。

 翼を収め地面に下りると同時にグランケイオスに頭を下げる。


「モ、モウシワケアリマセン! 先程、飛竜が一体ソトに出て行ってしまいまシタッ!」

「ナッ!?」


 青い目を見開くグランケイオスなのだが、金竜の報告が続けて行われた。


 金竜が行った報告。

 人語を話すことができない飛竜、竜種同士でも意思疎通をすることができない知能の低い竜種、ワイバーンと呼ばれる飛竜がアトム達の姿を見て尚も手を出させてもらえないことに不満を抱えて出て行ってしまったのだという。


 これまで興味本位で竜峰コルセイオス山を訪れた者には問答無用で手を出させてもらえた。それに関してのお咎めはナシ。


 なのに今回はそれがダメ。


 金竜が説明しようにも、知能の低い飛竜にはどうにも理解できなかったのだという。


「ドウ致しますカ?追いますカ? 恐らく奴はワレ等の追跡を恐れ近隣には手を出さないはずでス。ドコか遠く、ワレ等の目の届かないところで手を出すかト」


 金竜がグランケイオスに確認するのは、飛竜は確実に人間に手を出すということ。むしろそれが目的で出て行ったのだから。


 その飛竜は人間の世界でワイバーンと呼ばれる竜種。

 通常のワイバーンなら人間の被害が出たとしても、ワイバーン自体が雑多にいる場所もあるので討伐できないこともない。


 だがここで問題があった。


 竜峰コルセイオス山にいたのはただの飛竜(ワイバーン)ではなく、その大きさが桁違いに大きい。


「あいつか……」


 そのワイバーンに覚えがある。あの一際大きな殺気を向けて来た飛竜。

 ただのワイバーンなら放置しても人間が勝手に討伐をするだろうが、桁違いの大きさの飛竜は甚大な被害を人間に及ぼすだろうということは容易に想像ができる。


 停戦協定がある中でそんなことが起これば竜側が協定を反故にしたと思われかねない。

 それに、他の竜が追いかけるにしても、追いかけた竜も仲間だと判断されてしまうだろう。


 そうなれば戦争にもなりかねない。


「――おい、それお前ならすぐそいつに追いつけるのか?」


 それまで静かに経過を聞いていたアトムが金竜に問い掛ける。


「ワレカ? ワレならばそれほど時間を掛けることなく追い付けるはずだガ?」


 突然の話に金竜はわけもわからず返答した。


「……フム。なるほど、そういうことか。アトムの割には良い思い付きじゃ」

「だろ?って一言余計だっつーの」


 アトムの問いの意味をガルドフも理解する。


「さてグランケイオスよ。儂らがそやつを倒しても問題はないの?」

「ン? ソレは無論ダ。勝手をしおったヤツは討伐されても仕方なイ」


 種族としての繋がりはあっても、竜種の大半は仲間意識が薄い。

 そもそもとして、人間とは価値観が大きく違う。


「ならば、先程の話。その飛竜の討伐が対価ということでどうじゃ?」


 グランケイオスはガルドフの提案に目を見開くのだが、すぐさまその意を汲み取った。


「フハッハッハッ!よく知恵が回るノォ。わかった。ソレで良イ」

「では、早速魔王に関する情報を教えてもらおうか。こちらとしてもあまり時間がないようなのでな」

「よかろウ」


 そうしてグランケイオスはガルドフ達に、魔王に関することを話すことになる。



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