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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
エピソード スフィア・フロイア
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第百十九話 閑話 初任務④

 

「隊長たちは東側に向かったから僕たちは西側に行くぞ」


 北側は王都がある。

 スフィア達は王都から平野を駆けて来たのだ。もしそんな集団がいれば目に留まっても不思議はない。


 対して南側には整備された大きな街道に繋がる道がある。

 これもまた大勢の村人が歩いていたとすれば、行き交う商隊などに遭遇する可能性もあるので探すのは後回しにした。


 そしてアーサーが向かった東側は大きな谷があるところ。人目に付きにくい場所であるので、アーサー達はそこを目指していた。


 西側には森林と小さな山があるのでスフィア達はそこを捜索することにしている。


 そうして平野を駆けながら周囲を見渡すのだが、どこにも人の気配が見られない。


「……サキュバスか」

「どうしたの?」


 馬を駆けながらスフィアが考え込むように呟くと、アスタロッテが不思議そうに首を傾げる。


「ううん。自分で言っておいてなんだけど、本当にサキュバスなのかな、って」


 探しながらボーっと考えるのは、現状が示す異常性。


「ウチもスフィアちゃんの話を聞いて納得したけどなぁ。でももしそうだとしたらめんどくさくない?」

「ええ。男性の比率のことよね?」

「うん」


 サキュバスの特徴は知っている。

 男が圧倒的に割合を占めるのがそもそもの相性として良くない。

 起きている時にサキュバスに遭遇する方が睡眠時に襲われることに比べれば遥かにマシ。しかし、仮に個体数が多いとなるとどう対処するのか考えを巡らせる。


「(もし魅惑状態なればその時は仕方ないわね)」


 強制的に睡眠状態にされることが考えられるのだが、女性は対象外なのでその間に自分達がサキュバスを倒せば問題はない。

 もしかすれば他の騎士達が魅了されて役立たずになることも視野に入れるが、これも自分とアスタロッテであるならば魅惑状態の騎士を強制的に寝かせてサキュバスを討伐することに問題はないだろうと考えた。


「隊長たちは大丈夫かなぁ?」

「(ダメかもしれないわね)」


 そうして考えるのは、自分達はまだしももう一つの班がサキュバスを発見した場合にはどうなるのかということ。


 軽薄そうなアーサーがとてもサキュバスの魅了に耐えられるとは思えない。


「……はぁ」


 初日から厄介ごとに遭遇したものだと溜め息を吐く。



 それからしばらくして西にある森林に着いたので、森の入り口の木に馬を縛り歩いて周囲の捜索をするのだが、どこにもそれらしい人影が見当たらなかった。


「どうする?」

「うーん、まだ時間もあることだし、もう少し探してみるか」


 アルスとマルスが二人で残り時間を逆算しながら相談をしている。


「ここにはいないんじゃないのかなぁ?」

「……そうね」


 アスタロッテと話している中、スネイルとロシツキーは周辺の捜索を続けていた。


「――おい!あっちに洞窟を見つけたぞ!」


 捜索から戻って来たロシツキーが声を発する。


「洞窟……か。一応見ておこうか」


 洞窟の中を見たら一度引き上げようという結論に至った。



 小さな森の中にある小さな洞窟。

 警戒する様に中を覗き込むのだが薄暗い中はほとんど何も見えない。


「どうする?」

「とにかく入ってみよう」


 アルスの判断の下、ランタンに火を灯してゆっくりと中に入って行く。

 先頭をアルスとロシツキー、その後ろをスフィアとアスタロッテ、最後尾にマルスとスネイルが歩いていた。


 聞き耳を立てながら歩く中、スフィアはそこで妙な違和感を覚える。


「――何か聞こえる……?」


 小さく呟くのは、微かに遠くから衣擦れの音が聞こえてきた。


「ハッ、なに言ってやがんだ!なんも聞こえないっつの!」


 何も聞こえないスネイルはスフィアを小馬鹿にしており、その言葉を聞いてムッとするのはアスタロッテなのだが、アスタロッテにも何も聞こえてこない。


「本当に何か聞こえるのよね?」

「ええ。間違いないわ。警戒を緩めないでね」

「わかった」


 アスタロッテにとってはスフィアが断言するその言葉、それだけで警戒するに十分に価した。


「何か聞こえるか?」

「いや、何も?」


 前を歩くアルスとロシツキーは首を傾げている。


「(……おかしいわ。音が少なくなっている?)」


 その音が徐々に減っていっているように感じた。

 そこでアスタロッテと目が合うと小さく頷かれるのは何があっても即時対応できるようにするということ。


 次第に道が細くなり、人が一人だけ通れる程度になっていた。


 そこで最後尾を歩くスネイルが通り抜けるために近くの岩に手を掛けると岩が欠けて地面に落ちると洞窟内に欠けた岩の落ちた音が反響する。

 無音の中で一際大きな音を立てたことで思わずスネイルを見たのだが、スネイルは自身に非はないとばかりに不機嫌そうな表情を浮かべた。


「な、なんだよ!オレが悪いわけじゃないだろ!それよりももう何もないんだからそろそろ出ようぜ!」


 これ見よがしに即座に話題をすり替える。


 アルスが周囲を見ながら顎に手を当て考え込んだ末に決断した。


「わかった。そこが少し広くなっているからそこまで確認してから一度引き返そう」


 時間的にもそろそろ限界であり、アルスもスネイルの提案を承諾する。


「ねぇスフィアちゃん」

「ええ。もしかしたら……」


 アスタロッテと意思疎通を図るのは、先程スネイルが欠けた岩を落とした時に感じた反響音の時のこと。

 明らかに前方から妙な気配を得た。


 それは、どこか慌てて隠れるかのような気配。


「マルスさん」

「……なに?」

「さっき妙な音、聞こえませんでしたか?」

「いや?」

「……そうですか」


 やはりこの人たちに聞いても仕方ないかと諦める。

 元々戦力としての計上はしていない。


 それからすぐに細道を抜けて小さな広場に出た。

 それ以上奥に続く道はなく、行き止まりで、周囲を見渡しても特に目立った様子は見られない。


「……何も、ないな」


「フンッ!だから無駄な時間だって言っただろ!早く帰ろうぜ」


「あいつ、ほんとふてぶてしいわね」


 スネイルが不満を露わにしながら振り返り、元来た道を帰ろうとしたところでスフィアの目の前に小さな布片が落ちて来てどこから落ちて来たのかと見上げようとしたところで強烈な気配を得た。


「待って!」

「あん?」


 スネイルが立ち止まった瞬間、目の前に大きな岩が落ちてくる。

 ドスンと重量感を伴う音を立てて、土埃を立てた。


 スネイルは突然の衝撃に驚き、思わず尻もちをつく。


「チッ、もう少しで潰せたのに余計なことをしおってからに」


 広場に突然響き渡ったのは、ここにいる誰のものでもない声だった。



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