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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
エピソード スフィア・フロイア
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第百十六話 閑話 初任務①

 

 翌日、騎士団本部にある詰所にアスタロッテと向かった。


「そういえば騎士団の任務って何するんだろう?」

「あなたは授業で何を聞いていたのよ?」

「じゃあスフィアちゃんはわかるの?」

「そんなの……」


 一般的な騎士団の任務は知っている。

 王都内の見回りや要人の護衛、有事の際には戦場に赴く最前線の役割を担い、そのための遠征訓練や乗馬や武技などの日常的な鍛錬。


 他には遠征物資の確認や書類などの事務的な業務があったりするのだが、具体的に何をどうするのかは知らなかった。


「そういえば何をするのかしら?まさか中隊長がそんな雑務をするとは思えないしね」


 上下関係の厳しい騎士団内部で、隊長職自ら雑務を行うとは思えない。

 そういうのは下の人間の仕事。


 中隊長だけの書類仕事はあるのだろうけど、今後自分達がどういう業務を行っていくのかと考えながら昨日訪れた第一中隊の詰所をノックして入る。


「――えっ!?」

「なにしてるんだろね?」


 詰所に入るなり、目の前の光景に思わず目を疑った。


 目の前には中隊長専用の机に座っている長い赤髪の人物が視界に入って来る。

 その赤髪の人物は机の上に長い足を伸ばして椅子の背もたれに目一杯もたれて天井を見上げていた。


 それだけで収まらないのは、その人物の目の前で床に正座をさせられているのは白みがかった金髪が目を惹く人物。


 アーサー・ランスレイ中隊長に他ならないのだから。


「あの?隊長?」


 後ろから声を掛けると、正座をしたまま顔だけ振り返ったアーサーは涙目をしていた。


「おおっ、やっと来たか!」

「やっと来たって、時間よりも早く来ましたけど?」

「いやいや、結構待っていてだね――」


 時計に目を送ると時刻はまだ八時四十分。予定よりも二十分早い。


「それに、その人は誰ですか?」


 アスタロッテが疑問符を浮かべて問い掛けるのだが、その赤髪の人物の近くに来て小さな寝息を立てているのが聞こえて来た。


「ああ、この人はな――」

「――んっ……」


 アーサーが女性を紹介しようとしたところで女性は小さく声を発して目を開ける。


「おおっ、来たか。おはようさん」


「お、おはようございます」

「おはようございまぁす」


「もう自由にしてもいいですか?キリュウさん」

「しゃあねぇな、いいぞ」


 キリュウと呼ばれた女性がふてぶてしく声を掛けるとアーサーは安堵の息を吐いた。


「――ふぅ、やっと解放される」


 アーサーがゆっくりと立ち上がる中、アスタロッテと二人ひそひそと話をする。


「確かキリュウって……」

「ええ。第七中隊の隊長のはずよ。キリュウ・ダゼルド」


 昨日入団式でアマルガスによって名前だけ紹介されていた人物のことだと理解できた。


 キリュウ・ダゼルドは、数が少ない女性騎士の中で唯一中隊長まで登り詰めた人物。


 ただ、わからないのはその人物が何故今ここにいて、アーサーが正座をさせられていたのだということ。

 話によると第七中隊は遠征に出ていたと聞いていた。


「――おっとすまない」


 そんな疑問を抱いていたところで、アーサーが足の痺れからふらついてスフィアにもたれかかった。


「き、きゃああああ!」


 鋭い破裂音が部屋中に響き渡る。


「な、何をするんですか!」


 スフィアの強烈なビンタを喰らったアーサーは床を転がった。


「ったああああ」


「スフィアちゃんそれはさすがに……」

「あっ…………」


 アスタロッテはスフィアの行動に呆気に取られる。


「な、何って、キリュウさんのせいで足が痺れていたのだよ。それよりも、隊長を叩くだなんていけないことなのだよ?」


 頬を擦りながら立ち上がるアーサー。


「そ、それは確かに申し訳ありませんでした!で、ですが…………」


 抱き着かれたことで勢い余って叩いてしまったのだが、当事者のアーサーはまだしも、チラリとキリュウの方に視線を向けると鋭い目つきで見られている。


 言い訳をしようにも目の前で上司を殴ったことの言い逃れはできない。


「おい、アーサー?」

「なんですか?」


 目を瞑り、どうしようかと肩を縮こめる。


「貴様、先程の行動をわたしのせいにしたな?」


「(えっ?)」


「だ、だってキリュウさんが私を一晩中正座させているからこんなことに――――」

「だから女性に抱き着いたのはわたしのせいだと?貴様はそう言いたいのだな?」

「――ぐっ……。い、いえ。自分の注意不足です」


 下を向くアーサーに対して、キリュウは立ち上がり、アーサーの肩をポンと叩いた。


「うむ。わかればいい。わかれば。で、そっちが噂の新人だな」


 そうしてキリュウがスフィアとアスタロッテの前に立つと、ジッと観察する様に二人の全身を見る。


 どう反応したらいいかわからず、困惑しながらアスタロッテと二人目を合わせた。


「あ、あの……」

「うん?」


 そこで上を、スフィアの顔を見上げるキリュウと目が合う。


「い、いえ、どうして第七中隊の隊長であるキリュウ様がここにいるのかと思いまして」


「そんなもの、二人に会いに来たに決まっているだろ。 うん、っよしわかった。よく鍛え上げられているようだな」


 そうして立ち上がり、キリュウは笑顔で二人を見る。


「初めまして二人とも。わたしが第七中隊隊長のキリュウ・ダゼルドだ。よろしく」


「よ、よろしくお願いします」

「お願いしまぁす」


 小さく首肯して挨拶をした。


 キリュウ達、第七中隊は昨晩に遠征から帰還していたのだが、本部の中が二人の新人女性騎士、とりわけ特にスフィアの話題で持ちきりだったことでどんな新人なのかと気になり二人に会いに来たのだった。


 しかし、それでもわからないことがある。


「どうして隊長は正座をさせられていたのですか?」

「ああ。それはな、こいつが君達二人を手元に置くというからお灸を据えてやっていたところだ。若い女性を二人もはべらかそうとしおってからに」

「そんなこと言っても、仕方ないじゃないですか」

「だからわたしが預かってやろうと提案したんだろ?」

「それは団長がダメだって言ったじゃないですか」


 とどのつまり、キリュウがマクスウェル騎士団長にスフィアとアスタロッテの異動を願い出たのだが、新人騎士である二人の異動をすぐには認められないことと、アーサーが下した判断、アーサー自身がスフィアとアスタロッテの二人を見ることに対する不満から一晩正座をさせられていたというのがここに至る経緯だった。


「まぁいい。とりあえず二人の顔も見れたことだしわたしはこれで失礼するよ。じゃあ二人とも、いつでもわたしの隊に来れば面倒をみてやるからな」


 キリュウはそれだけ言うと部屋を出て行く。


「ほえぇ、なんだかカッコいい人だったねぇ」

「ええ」


「(それに――)」と視線を向けるのはアーサーに対して。


 アーサーとキリュウ、二人の関係性が微妙に垣間見れた。

 スフィアの視線を感じ取ったアーサーは視線の意図を理解して小さく息を吐く。


「ああ。彼女は昔馴染みでね。私が一般騎士の時の先輩なのだよ」


 それだけ聞くと二人の関係性を十分に理解出来た。


「さて、では早速だけど行こうか」

「行くってどこにですか?」


 そこでアーサーはニヤリと笑う。


「ふふ。もちろん良いところ、だよ」



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