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S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
エピソード スフィア・フロイア
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第百十 話 閑話 騎士団入団①

 

 シグラム王国、王立騎士団。


 王国を守る為に組織されるその集団は王国の二大戦力。

 二大戦力とはいっても騎士団と対を成すもう一つは魔術師団であり、魔術師団は魔法の才能に秀でた者しか所属することができないためその数が少ない。


 しかし、騎士団は所属だけならば基本的に誰でも所属することができる。もちろん実力や智謀がなければより上位の階級に登り詰めることは叶わないのだが。

 そして性別比率も男性が圧倒的に占めるのは騎士の任務内容や役割からする特性上必然的であった。


 そんな中、新たに騎士団の門戸を叩くのは水色の髪が強く目を惹く容姿端麗な女性、スフィア。


 冒険者学校を卒業して数日後のこの日、王都中央区にある騎士団の鍛錬場、いくつもの詰所がある建物、騎士団本部には新しく騎士団に入団する者たちが一同に集められていた。


「……おい、あいつ」

「ああ。噂の子だな。あの子、近衛隊長の娘らしいぞ?」

「にしても綺麗な子だなぁ」

「なんでも冒険者学校を首席で卒業したらしいな」

「ふぅん。強くて可愛くて、それがどうして騎士団なんかに入団したんだ?」

「さぁな」


 先輩騎士達の前を悠然と歩いているのはスフィア。

 その格好は他の新米騎士と変わらない軽装備に身を包んでいた。


 鍛錬場には先輩騎士達も手の空いている者は招集令が発令されているのは今後自分達の隊に配属される騎士の面倒も見なければならない。

 要は教育係である。


「スフィアちゃん、すっごい見られてるよ?」

「そうね」


 隣を歩く同じ年頃の橙色の髪を肩まで伸ばした女の子もスフィアと同じような軽装備を身に付けていた。

 堂々と歩いているスフィアの様子を、隣を歩く女性が頬を膨らませながら面白くなさそうにしている。


「気にならない?」

「気にならないかと言えばもちろん気にはなるけど、気にしたってしょうがないっていうのが本音かな?」

「ふぅん。そっかぁ。さすがだねぇ」

「それよりもアスティの方は大丈夫なの?無理に私に付き合わなくても良かったのよ?」

「えー?でも別にやりたいこともなかったし、せっかくだからスフィアちゃんが昇進するのを近くで見たいじゃない?」

「もうっ、本当に物好きねアスティは。それに昇進なんていつになるやら」


 スフィアがアスタロッテに薄く微笑む。


 アスタロッテ・プリストはスフィアの幼馴染であり、貴族である伯爵家の子女であった。

 幼い頃から日常的に王宮に出入りしている歳の近そうなスフィアに興味を示したアスタロッテは、スフィアが一人の時に声を掛けたのが出会いの始まり。


 中央区に来た際、エレナの相手をする時以外はアスタロッテと過ごしている時間が多かった。


 そんなアスタロッテは冒険者学校をスフィアと共に卒業しているのだが、元々は冒険者学校への入学をする気はなかった。上に兄が二人いることもあり、自由気ままに生活を送って、ある程度歳を重ねれば結婚をして家庭を持つという程度に考えていた。


 たまたま仲良くなったスフィアが入学するということから一緒に入学している。


 それでもアスタロッテの学校の成績は上位の方に入っており、魔法技能も低いわけではない。むしろ高い方で、どちらかというと剣技よりはよっぽど得意であった。


「でも同じ隊に配属されるとは限らないわよ?」


 疑問符を浮かべながらアスタロッテに問い掛けると、アスタロッテはニヤリと笑い指を一本立てる。


「へっへーん。甘いわね。学校は爵位とかの影響が極力ないようにされてるから一緒になれないこともあったけど、騎士団は色々と裏から手を回せるのよ?」


「――――あなたは…………」


 スフィアは額を押さえて下を向く。

 アスタロッテの言葉が差す意味をすぐに理解したから。


 それは、アスタロッテが父親である伯爵としての立場を利用して口利きをしてもらっているのだということを。


「私の分までやってないでしょうね?もしそうなら怒るわよ?」

「あっ、それは大丈夫!安心して。ウチがしたのはスフィアちゃんと同じ隊にしてってだけだから。それ以上になるとさすがにお父さんもムリみたいなの」


 それでも十分だと思うのだが、その程度ならと小さく息を吐いた。


「にしても、スフィアちゃんもやっぱり将来は近衛兵を目指しているの?」

「んー、どうかなぁ?」

「えっ?違うの!?」

「まぁ……ちょっとね」


 少しばかり言葉に詰まる。


「そっかぁ。昔のスフィアちゃんならジャンさんのようにって即答していたのにね」


 アスタロッテの言葉の意味は、アスタロッテもスフィアが父を尊敬していることを知っているから。

 スフィアは幼い頃から父を見て育ち、その大きな背中に憧れ、父の様になりたかった。将来的にも近衛兵として王家を近くで守る立場としての役割を担いたかった。


 それは、その先には現在の国王、ローファスからエレナに代替わりをして、女王となるエレナを守る立場に就けることになるのだから。


 そこにこれまでは一切の疑問を抱くことがなかったのだが、それが方向転換するまでとはいかなくても、思い悩む程度の出来事が起きる。


「(ヨハン達に出会ってなければこんなこと考えなかったわね)」


 エルフの里を目指した時に案内役だったはずの自分が一番先に倒れてしまい、命を救われた。そして力不足を実感すると同時に王家が受けた魔王の呪いを知ることになる。更にそれがエレナに関係するとなれば、果たして王国に従事する騎士、又は近衛兵の立場のままでいいのだろうかという疑問を抱いていた。


 未だに詳細が不明の呪いのことを調べるというのならヨハン達が目指している冒険者のように自由に動き回れる方が色々と都合がいいのではないのだろうか、その方がエレナのために役に立てるのではないか、悶々とした悩みを抱えたまま卒業をしていた。


 考えがまとまらないままとりあえず予定通り騎士団への入団を決めて現在この場にいる。



 周囲はスフィアやアスタロッテと同じように騎士団に入団する新米騎士達が多くいて、スフィアとアスタロッテもこの後に控えている入団式が始まるのを待っていた。


 そんな中、鍛錬場の奥の通路から数人の騎士が、金属音が響く音、鎧の音を鳴らしながら歩いて来る。


「あっ、誰か来たよ」


 アスタロッテが指差した先には、他の騎士達とは違い豪華な鎧を着ている騎士達が十人歩いて来た。


「あれは…………オズガー様ね。他の人は…………騎士団長とアマルガス大隊長しかわからないわね」

「えっ!?オズガーって大隊長の英雄オズガー・マクシミリオン!?」

「まぁそうだけど、今は中隊長よ?確か何年か前に大隊長の職はアマルガス大隊長に譲ったって聞いたから」


 アスタロッテは姿を見せた人物に驚きを隠せない。

 スフィアが言うオズガー・マクシミリオンは、その場に現れた誰よりも歳を取っているような白髪の人物なのだが、目を引くのは周囲よりもひと回り大きなその体躯。


 王都である程度歳のいった者ならほとんどがその存在を知るほどに有名な人物である。

 近隣諸国にあるいくつかの小国との戦争を、そのカリスマ性を如何なく発揮して一網打尽にしたかと思えば、穀物の不良の際に陥った飢饉の際には多くの貴族が隠し持っている食料を差し出すように手配するなどといったおよそ一騎士が行える範疇を遥かに超えた采配を振るった。


 なにより、その戦闘能力の高さは王国随一で騎士団にはオズガーに憧れて入団する者もいるというほどである。


 そんなオズガーは近年大隊長の任を降りて後進の育成に注力していた。


「……へぇ、そうなんだ。あっ、見て見て!あの人カッコいいよね!」

「まぁ確かに顔は良いわね」


 アスタロッテが一定の興味を示し終えた後、オズガーの後ろにいる人物、白みがかった金髪の人物を差したところでオズガーが一番前に来て大きく口を開く。


「さて、これより王立騎士団の入団式を開始する!」


 年相応の声なのだが、オズガーが声を発した途端その場はピリッと引き締まるのを感じた。


「(とにかくなんにせよ今は認めてもらうことからね)」


 スフィアは迷いを抱いたまま迎えた今日なのだが、とにかく目の前のことに集中することにする。


「では大隊長、よろしくお願いします」


 オズガーが役目を終えたとばかりに一歩下がり、並び立つのは先程スフィアが大隊長と呼んだアマルガス・ウルスライン。オズガーをひと回り小さくした体躯なのだが、他の一般騎士よりもよっぽど立派な体躯をしている。


「いやいや、ほんといつになったら私は貫禄がつくのやら」

「そのうちつきますのでご安心ください」


 小さく目を瞑りながら答えるオズガー。


「…………オズガー殿に言われてもなぁ。で、マクスウェル団長?」


 アマルガスは隣に立つ茶色い髪の口周りに髭を生やした男性に声を掛けた。

 隣に立っていた人物は騎士団団長であるマクスウェル・ハートレット。


「ん?」

「本当に私でいいんですね?」

「もちろんかまわないよ。私は最後に少し話させてくれたらそれで良いさ」


 アマルガスはマクスウェルの言葉を聞くと、溜め息と苦笑いしかできずに一歩前に進んだ。


「まったく、彼はいつになったら自信がつくのかな?」

「こうして前に立たせていけば自ずと身に付くでしょう」

「君が生きている間にそれが見られればいいけどね」


 マクスウェルはチラリと背後に並ぶ六人を見やる。


 その場に姿を見せたのは王立騎士団の騎士団長のマクスウェル、副団長二名、大隊長アマルガス。加えてそれらの後ろで一列に並ぶのは第一中隊から第六中隊のオズガーら六名の中隊長達。


 オズガーもマクスウェルと言葉を交わした後、さらに数歩下がって他の中隊長達と同じようにして並んだ。


 アマルガスが前に立つと、目の前には新米騎士達が百名ばかりかいて、その中にスフィアやアスタロッテもいる。


「えー、では早速だが、これより君達の所属する隊を発表する。見ての通り今期の入団は後ろにいる彼等、第一中隊から第六中隊になる。第七中隊から第十二中隊への配属は今回なしだ。どちらにしても遠征に出ていて不在だからな。ただ、前もって伝えておくと、時々それぞれの事情に応じて隊間の異動はあるので予め了承しておいてくれ」


 アマルガスがそれだけ伝えると新米騎士達は微妙にざわつき始めた。

 自分達がどの隊に配属されるのか、アマルガスの背後に立っている騎士達、配属されるかもしれない隊の中隊長達を見ようと背伸びしているのがちらほらいる。


「ねぇねぇ、スフィアちゃんはどの隊が良い?」

「私はどこでも…………――――」


 スフィアはどこでも良いと思っていたのだが、アスタロッテに問われたことでスフィアも他の新人騎士達と同じようにして中隊長達に視線を向けた。すると、その中の一人、白金の髪の男と目が合い、ウインクをされるので良い印象を受けずに眉を寄せる。


「そうね、あのキザったらしい人の隊でなければどこでもいいわ」

「えー!?あの人すっごいカッコいいじゃない!あの人の隊に配属されないかなぁ」


 アスタロッテが揉み手をする中、スフィアは願わくばあの人の隊ではないことを願った。



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[一言] スフィアの進路と迷いが上手く描かれていて好印象!
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