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第 百一話 魔族再び

 

「お母さん、魔族って!?」

「シトラスが魔族?」


 ヘレンの言葉を聞いてヨハンとモニカは目を見開く。


「ごめんなさい、魔族だなんて初めて聞くよね?でも今は詳しく説明をしている時間はないの」

「ううん、大丈夫。私達も魔族のことは知ってるから」


「……へ?」


 間抜けな声を発して、ヘレンはモニカを見た。


「えっ?…………どうして? モニカ、あなた――――」

「去年学校に魔族が出たことがあって、それを校長先生とヨハンが二人で倒したことがあったの」


 モニカの言葉を聞いてヘレンは目を丸くさせる。

 どうにも驚きを隠せない。


「ヨハンごめん」

「ううん。事態が事態だけに仕方ないよ」

「えっ? えっ?」

「お母さんもごめんなさい。実は言っちゃダメだったから昨日は言えなかったの」


 続けて告げられるモニカの言葉にヘレンは驚きながらも耳を傾け、小さく左右に首を振った。


「ううん。大丈夫よ。そう、わかったわ。その話はまた後で詳しく……って、言ったらダメだったのよね。じゃあちょっとだけ教えてもらうわ」

「……うん、わかった」


 ヨハンとモニカ、そしてヘレンの言葉の齟齬を少しだけ擦り合わせてシトラスに向かって対峙するのだが、そこでシトラスの肩に刺さったナイフが地面に落ちてカランと音を立てる。


 いつの間にか、シトラスの肩の傷が塞がっていた。


「まーさか、こーんなところで魔族の存在を知るものに出会うとは……。こーれも運命なのですかねー?」


 不敵な笑みを崩さずにシトラスはヘレン達を見る。


「…………運命なんてものはそんな単純なものじゃないでしょ?気安く使わないで欲しいわね」

「それはどうでしょーね」


 ヘレンとシトラスがジッとお互いを見た。


「……まぁいいわ。 で? 魔族のあなたはこの街で何をしているのですかね?」


「ふーむ。 ではワタシの存在を知っていたご褒美にすこーしだけ教えて差し上げましょう」


 一体何を言うのか、ヨハンとモニカはシトラスに疑問の眼差しを向けた。


「ワタシはそこのヴァンパイアを造って実験していただけですよ」

「……実験?」


「…………あなたたちは魔王なる存在をご存知ですかねー?」


 魔王という言葉を聞いてヨハンもモニカもヘレンも微かに反応を示す。

 ヘレンが魔王を知っているのかと思い確認する様に顔を向けるのだが、ヘレンはそこで呆れるように笑っていた。


「ハッ、魔王だなんて絵空事を信じるのなんて御伽噺を聞かされた子どもぐらいね。そもそもそれとそこで倒れているヴァンパイアもどきが何の関係があるのよ?」


 ヘレンは鼻で笑いながら言葉を口にする。


「(ヘレンさんは知らないよね、やっぱり)」


 ヨハンが聞いている限り、魔王に関する件はエルフの里と王家の極秘事項なのでヘレンが知らないのは当然だろうと考える中、ヘレンは鋭い目つきをしてシトラスを射抜いていた。


「ふーむ。信じて頂けませんよねー? 気持ちはわかりますよ?ワタシもかつてはそーうでしたのでねー。 ですが、魔王の存在は確かであり、魔王の復活の為にワタシは実験をしているのでーすよ」


「……かつて?」


 ヨハンはシトラスの言葉の中に違和感を覚えて思わず拾い上げ呟いた。


「おーっと、少し喋り過ぎましたかね?まぁいいでしょう。ワタシは魔王の復活が目的ではなくですね、その先にワタシの目的があるということだけをお伝えしておきましょうか」


「目的?」


「えーえ。個人的な事情で個人的な目的ですので、あなた方には関係ありませんよ。全くね」


 そこまで話すとシトラスは壁の中に姿を消そうとする。


「逃がさないわ!」

「――おーっと、怖い怖い」


 ヘレンはシトラスが姿を消す前に攻撃を加えようと駆け出すのだが、シトラスは前方に手をかざして地面に黒い影を出現させた。


「がるううぅぅぅ」

「――なっ!?」


 ヘレンが驚き立ち止まる。


 影から現れたのは、以前と同じ獣型の魔物が十数匹。

 そのどれもがやはりアンデットだった。


「――チッ、雑魚に構ってる場合じゃないのに!」


 突如姿を現した獣、一度に襲い掛かられる獣にヘレンは足を止められてしまう。

 それでもヘレンは獣の魔物から一切の攻撃を受けることなく即座に斬り伏せるのだが如何せん数が多い。


「ヘレンさん、凄いな…………でもシトラスには辿り着けない――――だったらっ!」


 ヨハンは剣を収めて即座に輝く弓を胸の前で構えた。

 魔族だとしたら光魔法が最も効果的だということは以前知ったこと。


 シトラス目掛けて真っ直ぐに射抜く。


 パシュッと素早く矢を射抜いたのだが、シトラス目掛けたその矢は突如起き上がったヴァンパイアもどきが立ち塞がりその腕を盾にして防いだ。


「――なっ!?」


 いつの間にか身体を動かせるようになっていたヴァンパイアもどきは腕に光の矢を受け、片腕を霧のように蒸発させる。

 その間にシトラスの姿が完全に壁の中に隠れてしまった。


 そして声だけが響く。


「おーっと、こーれは危なかった。 やはりあなたはワタシの予想の上をいきますねー。まさか光魔法を扱えたとーは。念のために時間稼ぎをしておいて良かったでーす。おかげで残念ながらせっかく造ったヴァンパイアを失うことになりますが、それも仕方ありません。実験結果は最低限取れましたのでね」


「待て!また逃げるのか!?」


「逃げるのではあーりません。ワタシのここでの目的は達成されましたので居座る必要がなーいのですよ。 それに、さすがに多勢に無勢ですのでね。 でーも、本当に怖いのはそちらの女性ですが、ね」


 反響する声の中、シトラスの言っている女性が誰のことなのかは一目瞭然。

 ヘレンは腕を組んでしかめっ面をしている。


「フンッ、あなたに褒められても全く嬉しくないけどね」


「でーは。 またどこかで会うことがあれば。これだけ邪魔をされたのでできれば会いたくはありませんけどねー。 で・す・が、また邪魔をするようでしたらその時はこちらも本気で殺しにかかりますかーらね。 では、そいつを倒せるように健闘を祈っていますよ」


 声が反響していくのと同時に以前と同じようにしてシトラスの気配がその場から消えていった。


「…………どうやら本当にいなくなったみたいね」


 ヘレンが周囲の気配を確認する様に気を配りながら口にする。


 そして残るのは目の前のヴァンパイア。


「ギギギ――」


「どうやらシトラスの言っていることが本当ならこいつもヴァンパイアの一種で間違いはないみたいだね」

「それにしても、ヴァンパイアを造ったってどういうことなの?」


「考えるのは後。今はとにかくこいつを倒すことよ」


 眼前、ヴァンパイアの失くした腕の周りには黒い霧が発生し、失ったはずの腕を再生させる。


「ふーん。やっぱりヴァンパイアの特性をちゃんと持ってるのねー。 あなたたち?ヴァンパイアと戦ったことは?」


「えっ?ないよ?ヨハンは?」

「僕も初めてだけど……」


 どういうことなのだろうか、顔を見合わせてヘレンを見た。


「じゃあ、せっかくだからあなたたち二人であいつを倒してみよっか?」


「「えっ!?」」


 そこでヘレンは剣を収めて壁にもたれかかり再び腕組みをする。



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