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wink killer  作者: 優月 朔風
第2章 死神の力
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第4話の2 守る決意

 「満咲、大丈夫かな……」

 いつも元気な花が、落ち込んだ様子で話しかけてくる。


 「あんなことがあったんだから、しょうがないでしょ。……満咲、誕生日だったのに」

 永美は力なくうつむき、「私達は逃げちゃったけど」と悔しげに呟く。


 私は元気のない二人を見て、何かが心に突き刺さるのを感じた。


 ――自分のせいだ。


 私は満咲を救ったけれど、満咲の心はどうだろうか。

 死神の力であの男を殺し、満咲に恐怖の感情を植え付けたのは、他でもない私なのだ。


 満咲が来なくなったのは、私のせいだ――周りの人間がそう言って私を責めているような気がしてならなかった。


 このままじゃ駄目だ。

 このまま満咲から逃げたままでは――。


 《難しいことなんて考えなくていいんだよ。君があの場所で生き延びた、それだけで十分、それ以上もそれ以下もなしだ》

 《誰かを傷つけないで生きてる奴なんて、いないだろ?》


 以前ミタが言った言葉が頭に浮かぶ。

 満咲を守るためにあの男を殺してしまった――私は判断を誤っただろうか。


 満咲という身近な存在を守るか、人を殺してはいけないという一般的な倫理を守るか。

 満咲の命を守るか、心を救うか。

 そのどちらかを選択しなければならない状況に陥ったとき、一体どちらを選択することが「より正しい」と言えるのだろう。


 「誰かを傷つけずに生きることはできない」。

 どちらを選択したとしてもどちらも傷つける結果となってしまうのなら、私は……


 ――身近な人をより傷つけない方を選びたい。


 そう決心した時、私は無意識のうちにこぶしに力を籠め、ゆっくりと口を開いた。


 「今日さ……帰りに皆で満咲の家に行かない? 前みたいに皆で話せば、きっと元気になってくれるんじゃないかな」


 ずっと、言い出せなかった言葉。

 満咲を救うために、私ができることは――


 すると、私の提案に、

 「そうだね、そしたらまた来れるようになるかも」

 花は笑顔を浮かべ、

 「……」

 永美はうつむいたままこくりとうなずく。


 (花、永美……!)


 その瞬間、私は心の中でモヤモヤしていたものが、少し晴れたような気がした。


 「ありがとう、二人とも」


 そうだ。これでいいんだ。

 どちらを選択しても、どちらも傷つけてしまうことになってしまうのなら、私は身近な人をより守れる方を選ぶ。


 私はあのとき、満咲の命を守ることを選んだ。それはきっと、間違ってなかったはずだから。

 私は親友のために、今できることをすればいい。

 満咲とまた一緒に過ごすために、私にできることを――。



 その日の帰りから、私達の満咲の家通いは続いた。

 最初は会うのもやっとの状態だった満咲にも、少しずつ元気が戻ってきているのが分かる。それだけで、私達は再び笑顔を取り戻せたような気がした。


 それからというもの、満咲が元気になるのが嬉しくて、私達はしょっちゅう満咲の家に寄っては、他愛もない話をして盛り上がった。

 口には出さずとも、私達は目的が達成されつつあるのが分かった。

 すべては、満咲が私達の中に戻って来られるようにするため。


 また四人でいつものように笑い会える日を、私達は願っていた。


  ☆★☆


 一週間後。


 「満咲はお醤油かけないよね?」

 「え……えーと……」

 「お寿司にお醤油をかけないなんて野蛮よ、未玖。そう思うでしょう、満咲?」

 や、野蛮なのか……。

 「満咲気を付けて、永美は何にでも醤油かける人だからね? この前なんてグラタンが味薄いからって言ってさ……」

 「そんなの当然じゃない、花。そうよね、満咲?」

 「え、えっと……」


 永美は「そんなことは当たり前」という顔を浮かべ(※当たり前ではありません)、満咲は周りの掛け合いを苦笑しながら見ていた。


 毎日、こんな調子で押しかけていた私達だったが、最近は私達に見せる満咲の笑顔が昔のように戻ってきた気がして、私は自分の中にあった不安が少しずつ解けているのを感じた。

 それからしばらくして、私と満咲をよそに永美と花が二人だけでさらなる討論に発展している傍、私は満咲に話しかけた。


 「二人、飽きないよね」

 私がはは、と笑うと、満咲もつられたようにはにかんだ。

 「本当だね。何だか楽しそう」


 いつもの笑顔だ。やっぱり、あのとき満咲を助けられて本当に良かった、と心から思った。

 ――満咲を助けたのは、正しかったんだ。

 もし満咲がいなくなったら……満咲を救えてなかったら、私は……。


 あのまま何もできず、非力なまま親友を失ってしまう自分を想像し、私は身震いがした。

 そんな私を見て、ミタが声をかけてきた。


 「親友が元気になって良かったんじゃねーの?」


 そう言って、ミタは私の背中に手を乗せた。

 ミタは照れくさそうに顔を背けていたが、彼の乗せた手から、温もりが伝わってくるのを感じた。


 ――ありがとう、ミタ。

 私の気持ちは次第に落ち着いていき、思わず顔の表情が緩んだ。


 「うん、そうだね」


 満咲は元気を取り戻せただろうか。

 私はもう、親友から逃げずに済むだろうか。


 家族、親友、友達……

 いつも私を支えてくれる、かけがえのない存在。

 私はそんな人達を、守れるだろうか。


 私は、決意したように口を開いた。


 「……ミタ、私、決めたよ。これからは――」

 「これから……どうするの?」


 傍にいた満咲が首を傾げる。そうだった、危ない危ない。今は満咲達がいるんだった。


 「ううん、ごめん、何でもない……何でもないよ! ははは……」


 私は顔の前で手を振り、笑いながらその場をごまかす。

 我ながら苦しい誤魔化し方だとは思いつつ、私は満咲に次の話題を振り、私達はしばらくの間満咲の家で談笑してから、それぞれ家に帰った。



 この力は、きっと、誰かを守るためにあるんだ。

 だから……友達を、大切な人を守るために、私は力を使おう。

 きっとそれが、――臆病な私の、存在価値だと思うから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 殺人者であるにも関わらず、警察にも捕まらないでいるみくちゃんの心理描写などにゾッとしました。それからミタくん、死神だし悪い人なんだろうけど、個人的にものすごくカッコよくて好きです! [気に…
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