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wink killer  作者: 優月 朔風
第2章 死神の力
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第3話 親友

 ――ミタと出会ってから、一週間後。 


 「未玖? どうした、起きないのか?」

 「……何、もう朝なの……」


 ミタの声で起こされた私は、時計を見る。

 時計にはデジタル文字で5:50と表示されていた。


 「ちょっ、まだこんな時間じゃん……今日から夏休みなのに」

 もう一回寝る、と言ってベッドにもぐろうとした私に、ミタは再び呼びかけた。


 「君……昨日、友達と出かける用があるから明日の朝起こして欲しいって言ってたよね?」

 その言葉を聞いた瞬間、私ははっとして飛び起きた。


 「そうだった! ヤバい……支度しなきゃ!」

 ベッドから抜け出ると、私は急いで服を選び始めた。


 ミタが私に憑くようになってから、今日で一週間になる。


 死神が憑いていようと憑いていまいと周りは私を「いつもの私」としか捉えないし、学生である私は本分である勉強を怠ることはできないので、結局見かけ上は以前と変わらぬ生活を続けている……のだが。

 ミタは授業中落ち着かないのか、相変わらずつまらなそうにして私に話しかけてくる。


 こうなってくると、普段怒らない私もさすがにイライラが募り、しばらくの間は彼を無視していた。

 が、そうすると今度はぼーっとして空を見つめ、しまいには私に寂しげな視線を向けてくる始末……

 そうなるとそうなったで、さすがに少し罪悪感があったため、最近では筆談という手段をとるようになった。

 ……しかし、これでは授業に集中できない。


 (死ぬまでって本当なのかな……)


 私がいろいろ考えながら支度をしていると、あっという間に出かける時刻になってしまった。

 急いで家から出ると、横からミタが私に話しかけてきた。


 「そう言えば、何でこんな早くに出るんだ? 友達と遊びに行くだけだろ?」

 「うん……今日は朝一番で行こうって約束してたからね。行先までだって遠いし」


 私の言葉に、ミタが不思議そうに首を傾げる。


 「そんな遠いところまでわざわざ行くなんて、よっぽど楽しい所なんだ?」

 「そうなの。今日は友達の誕生日だから……皆でお祝いしようってことで、遊園地に行くんだ」


 友人の喜ぶ顔を想像して顔を綻ばせる私を見て、ミタは「ふーん」と興味なさそうな顔をした。


 「ミタってさ、遊園地行ったことあるの?」

 ミタは呆れた顔で答える。

 「子供じゃないんだから、俺は未玖みたいにはしゃいだりしないんだよ」

 「へぇ~。ということは、行ったことないんだ。ふ~ん。彼女と行ったりしたのかなぁとか思ったけど、ないんだ~?」

 「……!」


 私はニヤニヤしながらミタの顔を覗き込む。

 彼は人形のように小さな顔を赤らめながら、「う、うるさいな」と呟いた。


 「まぁ、こっちの世界の遊園地は初めてだろうから、はしゃいでも良いんだよ、ミタ?」

 「未玖、君最近調子乗ってるよね?」

 「乗ってないよ~、はは」


 まあまあそんなこと言わずに、と笑う私に、ミタはふてくされたような顔を浮かべながら着いてきた。


  ☆★☆


 待ち合わせの駅に着くと、私は一番最後だった。

 私の他の3人は、永美(えみ)と花と、本日誕生日の満咲(みさき)

 着いてからまず最初に私に声をかけてきたのは、しっかり者の永美だった。

 彼女はショートボブの黒髪を揺らしながら、そのキリリと整った眉をひそめ、ため息を一つついて言った。


 「未玖、五分遅れてるよ?」

  し、忍びないです……。

 「ご……ごめん、寝坊しちゃって」

 「冗談だから。良いよ、五分なんて。電車来るまで十分余裕持ってたし」

 「うわーさすが、永美って感じだわ~」


 今回の行程を考えた永美に、花がテンションの高い声で割って入った。

 毛先がくるんと外側に跳ねた彼女の茶髪が、朝日に照らされていつもより明るく見える。

 少し日に焼けた肌は、中学の時テニス部で犠牲になった、とか言っていたっけ。


 すると、永美は「これくらいのことは当たり前」という顔を浮かべ(※当たり前です)、満咲は彼女たちの掛け合いをただ笑いながら見ていた。


 それから私たちは、他愛もない話をしながら電車に乗り込んだ。


 「あ、あの、皆……今日は私のために、本当にありがとうね」


 電車の中で、誕生日の満咲は周りに座る友人に向かって礼を告げる。

 うつむきながら膝のあたりで手をもじもじとさせる彼女の頬は、ほんのりと紅潮していた。

 彼女の長い黒髪がサラリと揺れる。

 彼女は照れくさそうにはにかんでから、今にもポキリと折れてしまいそうなほど細い腕で、柔らかな細い髪を耳に掛けた。


 満咲は私と同じで内気な方だが、いつも一緒に居て私を支えてくれた、かけがえのない私の親友だ。


 そして、そんな大切な親友の誕生日を祝う会に遅刻してしまった自分……。


 (し、忍びない……)


 私は恥ずかしさを紛らわすように、笑顔を浮かべて満咲に言った。


 「本当に誕生日おめでとう、満咲。今日は楽しもうね!」

 今日はとにかく、満咲をお祝いしよう。


 「それにしても、こんな朝一番で遊園地乗り込むやつなんていないっしょ! うちらマジで一番乗りじゃん? 楽しみだなー」

 花が目を輝かせ、その言葉に、私達は期待で胸が膨らんだ。


 「花ははしゃぎ過ぎなのよ。でもそうね、確かに早いうちはあまり並んでないかも」

 「何だよ何だよ! 永美だって今日の予定組みながら『ふふ、128通りの排他的投資案の中から選び抜いたこのプランなら間違いないわ。これで今日の計画(プロジェクト)は完璧ね』とか言ってはしゃいでたじゃんか」

 永美さん、一体どんなプロジェクトを……。

 「それくらいは当然じゃない、花。そうよね、未玖?」

 「え、えっと……」


 永美は「これくらいのことは当たり前」という顔を浮かべ(※当たり前ではありません)、満咲は周りの掛け合いを苦笑しながら見ていた。


 その頃、ボックス席で他愛もない話を繰り広げる私達を見ながら、ミタは「くだらない」といった顔つきで肘をつき、通路を挟んだ反対側のボックス席を占領していた。

 それから一時間ほど、電車は私達を目的地まで運んでいった――。



 『緑川(みどりかわ)ー。緑川ー。』


 「ちょっと、皆、起きて! 降りるよ!」

 早起きだったためか途中から爆睡してしまった私達を起こしたのは、しっかり者の永美だった。


 「ふぁ……もう駅なの?」

 「いいから、早く降りるよ!」


 私達は慌てて電車から降り、何とか誰一人寝過ごさず無事に到着することができた。


 「あ、危なかった……」

 「言っとくけど、一番最後まで危なかったの未玖だからね?」

 「はっはい、ごめんなさい」

 ――し、忍びないです……。


 「まったくこれだから」とため息をつく永美と、ペコペコと頭を下げる私を見ながら、花が「永美は未玖のお母さんかよ」と言ってケラケラと笑っていた。


 静かな駅を出た私達は、目の前に広がる世界を見渡し、大きく深呼吸をした。


 「あー、ついに着いたー! 肩凝ったー!」

 「花はいちいちおっさんなのよ。でもそうね、確かに長時間乗っていたから肩が凝ったわね」

 「何だよ何だよ! 永美だって寝てるときいびきかいてたじゃんか!」

 永美さん、お勤めご苦労様です……。

 「それくらいは当然じゃない、花。そうよね、未玖?」

 「え、えっと……その……」


 私が「女子高生がいびきをかくのを当然とする作品はどうなのだろう」と考えながら悶々としていると、すぐ後ろでミタが「君はアレだな、考え過ぎのタイプだな」などと要らない台詞を挟んでくるので、余計に頭が混乱した。


 一方、混乱する私などお構いなしの当該永美は、私達の斜め左の方向を指差して言った。

 「さて。今日のプランの目的地だけど、もうすぐ先だから。ほら、もうここからでも見えるよ」


 私達は永美が指差した方向を見上げる。

 すると、大きな観覧車と、それに負けないくらい大きな、新しくできた今人気のアトラクションがここからでも見えた。


 「すごい……」


 駅から出た、今私達が立っているこの橋には――早朝のためか、ほとんど人がいなかった。

 私達の話す声が、静かな朝の橋に響く。


 早速私達が目的地へと向かおうと歩き出したとき、後ろから突然ミタが小声で話しかけてきた。


 「……未玖、ここから早く逃げた方が良い。……何だか嫌な予感がする。早く―――」

 「え? な……」


 私が小声で聞き返そうとした瞬間――

 駅の方から、女の人の悲痛な叫び声が聞こえた。


 「なっ……何?!」


 私達はとっさにその声のする方を振り返る。

 すると、改札から出たすぐの場所で、肩から血を流してうずくまる女性と、血の付いたカッターナイフを持った男が立っていた――。


 そして、男はゆっくりとこちらを向き、私達を視界に捉える。

 その瞬間、私は自分の身体が凍り付くのを感じた。


 「キャーーー!!」


 すぐ後ろで、満咲が顔をひきつらせながら、叫ぶ。

 その声を聞き、男はうめき声を上げながら、私達に向かって走ってきた……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼女の性格がよく伝わってきて、描写も素敵ですね! [一言] 面白い(の一言につきる)
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