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wink killer  作者: 優月 朔風
第5章 友達
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第34話 何も分からない

 10月に入ってから、すっかり文化祭モードになった。

 以前委員長の前原に直前の練習には出ろ、と言われた私は、今日もまたつまらない放課後練に付き合わされる。

 が、それも今日で最後かと思うと、少しは気が楽になるというものだ。


 文化祭を明日に控えた学校は随分と慌ただしくて、

 今日の教室も、随分と賑やかだ。


 HRが終わり、私は机の上に台本を取り出す。

 随分と分厚く作ったものだ。

 ページをパラパラとめくり、私は自分の台詞の箇所を見てうんざりした。


 ここまで覚えるのに、さすがの私も苦労した。

 一体どれだけの台詞があっただろう。

 執拗に長い一文に込められた委員長の前原の悪意を感じつつ、私はため息をついた。


 正直、まだ全部完璧に覚えたと言えるほどの自信はまだない。

 多少の不安を覚えつつ、私は今日の練習箇所の台本に目を通していた。


 《私は、永美の味方でいたい……から》

 どうして、未玖の顔が浮かんでくるのだろう。


 《永美はもっと、私達を頼った方が良い》

 あの真剣な表情が嘘だなんて、私だって本当は思いたくないんだ。

 思いたくない……のに……


 「永美……?」

 「……何の用」


 ああ。またあんたか。

 懲りずに私に話しかけてくる。

 私がどんなに冷たくあしらっても、あんたは必死なお人好しで……


 《その場に居たお前の友達三人の誰かが、この事件と関わっている可能性が高い。永美、お前、何か心当たりはないか》

 でも、本当にそう思っているのかなんて分からなくて、


 あんたが本当は何を考えているのかなんて、私には最初から分からない。


 「その……永美、ずっと……寂しそうだったから」

 「……寂しい……?」


 何を、言っている。

 寂しい、だと?

 この私が?

 どうして――どうしてあんたにそんなこと言われなきゃなんないんだ。


 その顔。同情して私を憐れむようなようなその目つき。

 “お人好し”。 


 ――あんた、一体、何様のつもりなんだ。


 「あんた、本当は何考えてんの」

 「えっ……わ、私は、ただ……」

 「私がそんなに哀れに見える?」

 「ちが……私はただ、永美と一緒に……」

 「そうやって、シラを通す気か」

 「何を……言っているの……?」


 未玖は慌てている。

 いや、そういう「演技」をしているだけで、実は心の中で私のことを嘲り笑っているのかもしれない。

 分からない。

 あんたのことが、私には分からない。


 「未玖……あんたに聞きたいことがある」

 「何……永美?」


 ずっと聞けなかった言葉。

 これで最後だ。

 これで、あんたのことを――


 「未玖は……堀口裕太って人知ってる?」

 「…………!」


 未玖の表情が変わった。

 明らかに動揺していた。


 「永美は何で……そんなこと聞くの?」

 未玖が笑って動揺をごまかしているのは明らかだった。

 「私、ニュースで見たことがあって……」

 その言葉が、信じられなかった。


 未玖を、信じられなかった。


 「……そう」


 つまり、あんたは堀口君と関係がある。

 つまり、あんたは堀口君の言っていた「あの人」で。

 つまり、あんたは堀口君を殺して、私を騙して、多くの人を騙して、殺して、平然と生きていて、


 あんたのその笑顔も、全部偽物なんでしょ。


 「もう、いいから」


 人を殺しても何とも思わない、

 あんたを私は、信じられない。


 「お願いだから、どっか行ってくれる」


 不気味で気味が悪くなる。

 連続殺人犯。

 あんた、人間じゃないよ。

 この――殺人鬼。


 私は机の中でただひたすら、震える拳を強く握りしめていた。

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