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wink killer  作者: 優月 朔風
第5章 友達
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第32話 「私は臆病だから」

 自分は臆病だ。

 あれから何度も、永美に声を掛けようとした。


 けれど私は、その度に何もできなかった。

 何も永美を救いたかったのに、

 私は何も言うことができなかった。


 永美のことを大切に思う気持ちに嘘はなくて、

 また皆で一緒に過ごしたいと心から願っているのに。


 いざというときに、私は動けない――

 そう思うと、悔しくて仕方がなかった。


 「私なんかが……本当に、永美のこと救えるのかな」

 ベッドにもたれかかる私を見て、ミタは「君はそうしたいんでしょ」と言った。


 「でも、永美は……本当にそう思ってるのかな」

 「……どういうこと?」


 ミタはイスに座ってこちらを見ている。

 私は天井を見上げて言った。


 「私には永美が何を考えてるのか、分からないから」


 私は永美に手を差し伸べたいのに、永美はそれを冷たく振り払う。

 私の行為が邪魔だとしたら。

 もし私が、永美に迷惑を掛けているとしたら……。

 もし、永美が私を――


 でも――


 「ときどき、永美が寂しそうに見えるんだ」


 私達はいつも一緒に過ごしてきた。

 でも、彼女はいつも特別で、私なんかには到底及ばない存在で。


 それでも、私は彼女のことが好きだった。


 《こんなテストで、まさか今日、再試に引っ掛かるなんて、信じられない》

 《でも、そういう所があんたらしいよね》


 こんな私にも、優しく手を差し伸べてくれる永美のことが……。


 そんな彼女は、ときどき寂しそうにしていた。

 彼女の瞳はいつも、どこか遠くを捉えていて、

 それは決して私なんかには分からないものだろうと思っていた。


 私なんかが永美の考えに及ぶ筈もなくて、

 だから、時折浮かべる寂しそうな表情も、私には理解できる筈がなくて、見て見ないふりをしてきた。


 「永美のこと、このまま放っておきたくないって思ってるのに、私なんかにそんなことできるのかなとか、そんなことして本当は迷惑なんじゃないかとか、たまに不安になるんだよね」


 そんな資格があるのか、分からない。

 もし、永美が迷惑だと言うのなら、私は……


 「それに、私なんかいざというとき何も言えなくて、この前なんか足、震えてたし」


 それに比べて花はしっかりしていて。

 それに、あの満咲でさえ、この前はしっかり自分の意見を言っていた。


 私は昔から臆病で、何も言えない。


 「やっぱり私なんか、何もできないのかな」


 昔から不器用で、何をやってもうまくいかない。


 「ははっ、そうだよね。やっぱり私は臆病だか――」

 「……前から思ってたけどさ」


 ミタの瞳が私を真っ直ぐに見つめていた。


 「君は本当に……臆病なのか?」

 「……えっ」


 彼の眼差しは真剣だった。


 「前にも言ったけどさ。俺は、未玖は強いと思う」


 少し照れながら、彼は言葉を続けた。


 「だって、君はいつだって前を向いているじゃないか」

 その言葉は誠実で、


 「どうしてそんなこと言うんだよ、未玖」

 彼の言葉が、私の心の中に響いてくる。


 「本当は――君は、無意識のうちに自分を縛っているんじゃないか?」


 ミタの言葉が、頭から離れなかった。

 思わず、私の口から弱々しい声がこぼれていった。


 「そんなこと……ないよ」

 「…………」

 「私は、自分を縛ってなんかないよ」

 「……本当にそうか?」

 「そうだよ! だって――」


 その瞬間、思わず語気が強くなった。

 私は再び弱々しい声で続けた。


 「だって私が臆病なのは……本当のことだから」


 何故か、ミタの言葉が怖く感じた。

 だから、その言葉を打ち消すようにして、私は否定する。


 「私は、できない子でいいんだよ……私は、臆病で……」

 『でも、永美ちゃんは救いたいんでしょ?』


 私の耳元で、冷たい「声」が囁いた。


 『あなたは本当に我儘で、まるで甘えてばかりの子供ね。いつまでそうやって、〔何もできない子〕のフリをしているつもりなのかしら』

 冷たい「声」はそう言うと、呆れたようにため息をついた。


 『〔私は臆病だから〕――あなたはそう言って、いつも逃げてきたの。自分を――私を否定することで、自分を保つために』


 それから、「彼女」は私を見下すように笑いながら言った。


 『あなたは私と向き合うことが怖いだけよ』


 ミタは黙っていた。

 私は耳元で囁く声をかき消すようにして、話題を逸らす。


 「そんなこと言ってミタは、私の自尊心をいつもズタズタにしてくるよね」

 「はあ? そんなことしてないだろ」

 「してるよ! いつも私の演技見て笑ってるじゃん」

 「それは……」


 ミタはしばらくの間言い返す言葉を探していたのだろう。

 しかしその途中で、私の演技の棒なさまを思い出したのだろう。


 ミタが不自然に顔を歪めている。

 知っているぞ。その顔は、失礼な顔だ!


 「くれぐれも本番で笑ったりしないでよね。私、ちゃんと本気でやってるんだから」

 「わっ、笑わないよ」

 「本番別のところに見に行っててもいいんだよ? ああ、いつもみたいにまた『散歩』してきてもいいし」

 「……未玖、怒ってる?」

 「怒ってないよ!」

 「……怒ってるじゃん」

 まったく、やっぱりいつも私のプライドをズタズタにしてくるくせに、よく言うよ。


 「でも……やっぱり、永美とまた笑って話したいな」


 私は照れくさそうに笑って呟いてみせたが、

 心の中では、先程「彼女」が言った言葉が消えないままだった。


 《あなたは私と向き合うことが怖いだけよ》

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