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wink killer  作者: 優月 朔風
第5章 友達
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第28話 仲間の存在

 帰りのHRが終わると同時に、生徒たちは放課後練に向けて一斉に準備を始めた。

 私は「早速練習を始めるよ!」と意気込む花の拘束を「ちょっとトイレに行ってくるね」と言ってくぐりぬけ、そのまま気づかれぬよう彼女の元へ急ぐ。


 放課後練にはまだ一度も出たことのない彼女は、今日もHR終了と同時に教室を出ていた。

 が、今日は慌てて追いかけたんだ。絶対に追いつく。


 廊下を走り、彼女の姿をとらえる。

 彼女の整った黒いショートヘアが、その細い背中が、いつもより寂しそうに見えた。


 彼女が階段を降りる直前――私は彼女を引きとめることに成功する。

 彼女の肩を掴む。

 彼女は振り向いて、私の姿をとらえた。


 「未玖……何のつもり」


 門田永美は、私を見て冷たく言い放った。

 彼女から放たれる冷気に一瞬身体が硬直するが、そんなものに構っている場合ではない。何か、言葉をつなげなくては。


 「永美、そ……その、今日、放課後練……出ないの?」


 そう言って、私は笑顔を浮かべてみせた。


 私の、大切な友達。このまま放っておくことなんて出来ない。

 このまま、永美を一人きりにしたまま、残りの三人で平和に過ごすなんて嫌だから。


 そう思って、彼女に声を掛けた。

 しかし……彼女の周りの空気が、予想以上に冷たい。


 「……出るわけないでしょ」

 永美はそう言うと、私の手を肩から離し、階段を降りていった。

 私は、これ以上足が動かなかった。


 私の手を放した永美の手が冷たくて、

 私から遠ざかっていく永美の背中がいつも以上に細く感じられて、

 でも、私はそれ以上に……何も言うことができない、臆病者だった。


 そんな私の代わりに「待って」と叫んだのは、後からきた満咲だった。


 「永美ちゃん……私は、永美ちゃんが何を考えているのかはよく分からないけど……」


 彼女は真っ直ぐに、永美を見つめて言った。

 「やっぱり、考え直して欲しいって思う」


 私の後ろで叫ぶ満咲の声は、震えていた。

 けれど、私の声よりずっと――しっかりしていた。


 「そう……言いたいことはそれだけ?」


 彼女は私達を睨みつける。

 私は足がすくむのを感じた。

 何も、言うことができなかった。


 「調子のんなよ、永美」

 そう言いながら階段を降り永美に近づいていくのは、怒りをあらわにした花だった。


 「もうあたし達に関わんな、っていったじゃんか」

 彼女の語気が強まっていく。

 すると、永美は強く舌打ちしてから、私達の元から去っていった。


 足が震えている。

 私は何もできなかった。

 永美を救いたかった。それなのに、何も……。

 私は、ただの臆病者だ。


 「あんな奴、もう友達じゃないよ」

 花が永美の去っていった方を忌々しそうに睨みつける。

 満咲がおろおろしながら、花をなだめた。


 「行こう、未玖」

 花が私の腕を掴んで笑いかける。

 満咲が私の手を取って微笑む。

 二人の手が、冷たいような気がした。

 皆がどこか遠くにいってしまったような気がした。


 「花……永美とは何があったの」

 私の声は震えていた。

 その本当の答えが返ってこないことを、心のどこかで望んでいたのかもしれない。


 花は笑いながら「あいつは天才だから、あたし達とは違うんでしょ」と言って私の肩を叩く。


 「あたしにはあいつの考えてること、分かんなくなった」

 そう言って、花は遠くを見るような目をした。


 「もう、あんな奴に関わってないでさ、あんたはあたしらに頼ってればいいんだよ」

 花は笑ってから、「早く練習に来なよ!」と言って教室に走っていった。


 残された私が階段で立ちどまっていると、満咲が笑顔で私に言った。


 「大丈夫だよ、未玖。きっとうまくいくよ」

 「……えっ」

 「未玖が言ってたこと。永美ちゃんとまた一緒に過ごせると良いねって話」


 満咲が私の両手を握る。

 彼女は私に優しく微笑みかけてくれた。


 「花ちゃんはああ言ってるけど……本当はまた、皆で一緒に過ごせるようになりたいんだと思うよ」

 「満咲……」

 彼女の言葉は、私が知る以前の彼女よりもずっと、しっかりしていた。


 「また、皆で一緒にお弁当食べよう。私は、未玖を信じてるよ」


 何よりも、彼女の言葉は……とても温かかった。


 一人では何もできない、弱い私。

 それでも、私には――心強い仲間がいる。

 それは、今も、そしてこれからも、変わらない。


 永美は今、一人なんだ。

 きっと今一番苦しいのは、永美なんだ。


 やっぱり私は、永美を助けたい。

 私は弱くても、支えてくれる仲間がいる。

 永美と花を仲直りさせて――また、皆で一緒に過ごそう。

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