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wink killer  作者: 優月 朔風
第5章 友達
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第27話 ミタと「あの方」

 ――夕食後、部屋の中にて。


 「ねぇ、やっぱりあの男子は君に気があるんじゃないのか?」


 そう言って私の動揺を誘ったミタは、私がジョーカーを適当な配置にする暇を与えずに普通のカードを抜き取った。

 私があっけにとられていると、ミタは呆れたように言葉を続けた。


 「君、そんなに鈍感だったっけ。どうみてもあの将って奴、君に気があるでしょ」


 ミタの思ってもみなかった台詞に訳が分からなくなった私は、戦略を考える余地もなく次々と彼に普通のカードを取られていく。


 「か、神峰君が? そんな訳ないでしょ」

 あり得ない、ととりあえずミタの戯言を一蹴し、何とか思考をババ抜きに集中させることに成功。

 が、手元に残ったままのジョーカーが強く己の存在を主張しているのが目に入り、思わず深いため息がこぼれた。


 「そういうミタは、天界で好きな人とかいたの?」


 あり得ないな、と鼻で笑う彼の手が震えているのを見て、私はジョーカーを一番端の取りやすい位置に配置。

 彼は見事に引っかかり、悔しそうな表情を浮かべた。


 (――ミタは焦ると左端のカードを取ろうとするからね)


 私は勝った、と思いながら余裕の表情を見せた。

 ミタが後ろの手で隠しながらジョーカーの配列を並べ替えるのを見て、私は思わずクスリと笑う。


 本当に、人間みたいだ。

 こうやってトランプをしていても、ミタは普通の人間のように振る舞っていて、とても死神とは思えない。


 それでも、彼が自分と違う世界に生きる存在であることは、天界の話を聞いているうちに実感する。

 天界のことを語るミタは何だか懐かしそうな表情になる。


 私と出会った当初は「天界から追い出された」なんて言っていたけど、本当にそうなのだろうか。

 まぁ、そんなこと私が詮索したってしょうがないよね。もう気にしない、って決めたことだし。


 ここまで連敗のミタは、次は負けまいとあれこれ策を練っているのか、カードの配列にこだわっているようだ。

 頑張って考えているんだろうけど……顔に出てるんだよなぁ。


 「はい、選んで、未玖」


 両手にカードを広げ、私を促すミタ。

 漆黒の瞳が、私をじっと見つめている。


 相変わらず綺麗に整った黒髪が、風もないのにさらりと揺れる。

 真っ黒なコートの下から覗く、細長い華奢な手足。

 羨ましい限りの、白く透き通った肌。

 私はカードを選びながら、ミタに顔を近づけた。


 「なっ、何だよ、未玖。早く選べよ」

 ミタが慌てたように私を見る。

 私より大人びた雰囲気を漂わせていながら、ぱっちりと開かれた目元はまるで……


 「あのさぁ、ミタってやっぱり女の子っぽいよね」

 「……はぁ?!」


 初めて出会ったときから、気になってはいたんだけどね。

 衝撃のあまり固まるミタを見て、私は「いや、何となくだけど」と付け加えた。


 「未玖、それは俺を馬鹿にしてのことか?」

 「えっ、別にそういうつもりじゃ……」

 「……なら別に良いけど」


 ミタは不服そうに呟く。

 うーん、もしかしてコンプレックスだったのかな。ごめんね、ミタ。


 「同じことを、『あの人』にも言われたよ」

 「……はぁ?!」

 思わず声を上げてしまう私を一瞥してから、彼は言葉を続けた。


 「『あの人』はタチが悪いから、息抜きした方がいいとか言って俺を女装させてみたり……ああ、思い出しただけでも身震いがする」

 それはお気の毒に……。というか、何をやっているんだ、天界は。暇なのか?


 やはり今までの話に聞いた通りの「あの方」の酔狂ぶりに驚きつつ、私はミタが天界に居た頃の話を尋ねてみることにした。


 「天界で……ミタはどんなことしてたの?」


 ミタはまだその時の恐怖がおさまらないのか多少震えていたが、やがて当時のことを思い出しながら懐かしむようにして言った。


 「……仕事してたよ。『あの人』のところでね」

 「へえ。……楽しかった?」


 私の質問に少し驚いた表情を見せたミタだったが、やがてクスリ、と小さく笑って答えた。


 「まぁ、楽しかったかな。『あの人』にはいろいろと付き合わされたけどね」

 「ふぅん……女装とか?」

 「その話はやめてくれ」

 「はは、ごめんごめん」


 もう思い出したくない、と必死に訴える視線が刺さってくるので、これ以上は追及しないことにした。

 けれど、彼の話を聞いているとやはりいつも伝わってくるものがある。


 彼が「あの方」を慕っているということ。

 彼がどんなに「あの方」を散々にけなしていたり、文句をつけているときでも、彼はいつも懐かしそうにその話をするのだ。

 そして、ミタが「あの方」のことを心から信頼しているのだということも。


 彼が本当に天界から追い出されたのかどうかは分からないが、それでも、彼が「あの方」を心から慕っていることは今でも変わらないのだろう――ミタの話を聞いていると、心の底からそう感じるのである。

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