第六話「でたらめ文語体心情」
「おしまいだぁ……私はもうおしまいだぁ…………」
我、部屋に戻りて落涙せん。涙床を突き慟哭壁を破る。我生消えりて死も消ゆる也。
この悲しみ終わりを知らざるや、我不安残りて希望消ゆる也。
カーン…… カーン…… カーン……
耳朶に響くは、釘打ちつける木槌の音なれば、そこに希望はなかりけり。
隣人音止みしけれど、木槌が音止まぬなりければ、何れ遠からん内我の心の音も止みぬ也。
今思わば隣人が騒音、胎児が聞きし慈母が心音の如く懐かしけれ。
罵声浴びれど浴びせど、今を以って比ぶれば、隣人愛おし、壁耳付け澄ませど何も聞こえざる也。隣人何処か行きたるや悲しけれ。斯くの名残をいかにとやせん。
カーン…… カーン…… カーン……
木槌聞こえれども、白装束の女、未だ姿見えざるなり。
我自ら強く言い聞かせ寝んがため目蓋閉じるも、目蓋の裏浮かぶは、その女なりけり。
我、目を瞑る度恐怖にて目が覚めるを誰が責めん。
其が症状、過日より悪化進行せん。故に我、最早一睡も出来ぬ也。
飯無く睡無く音在りて、我、刹那の休み無く木槌が音に煩わされる也。
カーン…… カーン…… カーン……
思考疎かになりて、恐怖日々募り、我生きて死せるが如く、身動き一つ能わず也。
然しとて、此れが状況にて座して死を待つは往生に非ず、其は諦め也。
諦観を装し醜き甘えに他ならず。なれば死して我先祖祖先に顔向け出来ぬ也。
傍目見苦しけれど、生にもがくは人の本性にて、まこと美しきことなれば、恥じる事非ずや。
カーン…… カーン…… カーン……
故に我動かん。死する恐怖、生くる恐怖、どちらも恐怖なりければ、生を求め死を得るか、死を求め生を得るか、道は二つに一つにて、結果は天が定めが示すなりけり。
我が家、糧食尽き、座して餓え死ぬは我が本懐に非ず。
理不尽にて抗わぬまま死するは悔しけれ。
我、生を得んがため、餓え苦しみに耐え切れんがため、糧求め外へ出んがことを此処に決意せん――