1話 新しい世界に送りました
・・・ここが、新しい世界?
彼女のいる世界。それは何もない空間だった。
動物も植物も物質も。命の息吹どころか、地面すらない。
それでも彼女は落ち着いている。
長く眠っていた彼女は、他の世界の姿を知らないからだ。
《あー、あー聞こえる?》
ふと、彼女に語り掛ける声が聞こえた。
声の主はベルベット・アーネス。この世界の創造神である。
(聞こえていますよ)
《そうか、よし。今から君がこの世界ですることを教えるよ。
前にも言ったように君にはこの世界の管理をしてほしい。》
ベルベット様は、一体どこにいるんだろう・・・?
不思議な感覚だなぁ。
《なぁに、50億年ほどした世界にいる生き物でもできることだ。君なら余裕だろう。やることはたったの二つ。一つ目はこの世界を見守ること。二つ目は世界に要素を追加すること。必要最低限のものは君のカバンの中に入っているはずだから、確認しておいてね。》
(わかりました)
《それでは、また3か月後に会おう》
その言葉を残して、通信は途絶えた。
さてと、まずはカバンを確認しなくちゃ。
カバンを開いてと。中身は・・・ノート?
何に使うんだろう?中は・・・ん、何か書いてる。
とりあえず読んでみよう。最初のページは、と。
パラパラ
【Вочтовдолжны делать и о вс. Сачаа вы должны проитать до 2 страниц】
読めないや。ベルベット様、ご自身で編み出した言葉で書いてる・・・どうしよう?
読めるようにならないかな?
縦向きや横向きに読んでみたり、逆さまにしてみたり。ベルベット様に助けを求めたりもした。
ベルベット様こないし・・・やっぱり文字が読めない!
うーん、どうしよう。初めからつまずいちゃったなぁ。
少女は悩んだ。5秒くらい悩んだ。
考えても始まらない!とにかくやるだけやってみよう!
5分後
彼女は荒い息を立て、汗だくになっていた。
あれから本を叩いたり蹴ったり投げたり、凝視してみたり、心の目で見ようとしたりした。それでもやっぱり本は読めなかった。
パタン
なんでベルベット様はこんなものを与えられたのだろうか?
ここまで何もできないと、もう何もできないんですけど。
「ベルベットサマーーー!!!」
叫んでみたけど・・やっぱりだめか。
ええい、読めろ!読めるようになってよ!本さん!
「ヨメルヨウニナレェェェ!」
カァァ──────
え、なに、光った?
本は無事?
恐る恐る本を手に取り中を確認した。
すると、本には先ほどとは違う文字が浮かんでいた。
【つまり、君はこの世界を・・・】
やったー!読める。読めるよ!
ばんざーいばんざーい。
早速読んでみよう。
【ここには、君のするべき事と君自身についてが記してある。最初は2ページまで読んでくれたらいい。】
ペラ
【まず初めに、君の初めの役割についてだ。資料1を見てくれ。】
─資料1───────────────────
・ダンジョンを作る
1、地形作成
2、エネルギー作成
3、ダンジョンコアの設置
・
・
・
10、村を作成
──────────────────────────
【おそらく、これだけでわかるはずだ。世界を見たことはないといえ知識としては頭に入っているはずだ。】
なるほど、それを作っていけばいいんだね。これが、"要素の追加"と。
でも、どうやって作っていけばいいんだろう?
次のページを見ればわかるかな?
ペラ
【次は君の能力についてだ。まず、右の資料2を見てほしい。】
─資料2───────────────────
・創造
・破壊
・(空白)
──────────────────────────
【これが、君の能力だ。まず"創造"についてだ。次の言葉を声に出してほしい。】
・私はスマートに喋れる
私は声に出してみる。
「ワタシハスマートニシャベレル。」
なにか、変わった?
ええと続き続き・・・
【どうだろうか、おそらく君の体が一瞬光ったことと思う。心配しなくても何ともないはずだ。それに初めだけだから、気にしないでいい。早速だが、私を呼んでみてくれ。】
彼女は言ってみた。
「ベルベット様ー」
あれ、声、変わってる?
なんだか、滑らかに喋れたような・・・
もう一回。
「ベルベット様ー!」
おお、カタコトじゃない!すごい。
ベルベット様は来ないけど。
それはそれとして、続き、、
【どうだい?喋り方が変わっただろう?これが、創造の力。口にしたこと全てを創り出す力だ】
なるほど、本が光ったのは、最初に読める文字を創造したからだったんだね。
それにしても便利な力!あとで、色々試してみよう。
続きは、
【次に破壊の能力だが、2ページはここまでだ。破壊の能力は今すぐ知らなくてもいいだろう。】
なるほど、じゃあいいか。
さて、どうしようかな。
うーん
特にやっちゃいけないことって無かったはずだし、まずはやりたいことをやっちゃおう!
まず一つ!自分の姿の確認!
得体のしれない自分の体っていやじゃん?
えーとどうしたらいいかな・・・そうだ。
「鏡をここに設置」
でんっ
一瞬で鏡が彼女の目の前に現れた。
おふ、ノーモーションでいきなり出るのか。なんか心臓に悪いな。
んじゃあ早速確認。
ほほぅ・・・人の姿をしているね。身長は100cmより少し低いかな。
鏡には、ぶかぶかなローブを羽織った少女の姿があった。
とてもかわいらしい姿である。まだ幼いが、このかわいらしさは反則級だ。
でも、なぜだろう。まったく愛しさを感じない。
「イエーイ!」
元気な声を上げて、鏡の前でポーズをとってみる。
・・・ただぼーっとしているときと比べていくつか良くなっただろうか。
だめだ、変わらない。なんだろう、何か人として一番大切なものが抜けている気がする。
「まあいっか♪」
そう楽し気に呟く少女の顔には、全く表情がなかったことに彼女はまだ気づいていない。