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「ヘイリー・ニューマンはあんたに気があるんじゃない?」

 家に帰って、親友に愚痴をいうため電話をしたら、サンドラはとんでもない事を言い始めた。自分の部屋にこもって、電話を抱え込んでこの日あった出来事を丁寧にサンドラに説明したあとだった。主観的に、あたしに同情をむけるように話したはずが親友はあたしの思惑とは違うところにたどり着いた。

 あたしは空を見上げて神に助けを求めた。当然、返事はなかったけど。

 電話の受話器を強く握り直すと、あたしは彼女の目を覚まさせるためにたくさんの情報を開示しはじめる。

「いい、サンドラ? あいつは幼くいたいけな子供のわたしにひどいことを言ったの。まるで取り替え子でも見るみたいに、こいつはおかしいってわめきたてたのよ! そのせいであたしは元々引っ込み思案な性格が悪化、世界に優しい人はママとパパとサンドラしかいないって思いこむようになったの! 好きな子をそんな風に追い込む男がどこにいるの?」

「今は違うのよ。ひとの気持ちは変わるものよ」

 あたしが話をちょっと脚色しているのはサンドラも分かっているだろう。でも彼女はそこには触れない事にして、大人ぶった口を利いた。

「変わらないわよ。今でもあたしの事バカにしてる。実際そう言ったし。自分の課題をあたしにやらせようとしてるし。都合のいい手下がほしいだけなのよ」

「でもー、男って単純だから興味のない女になんか話しかけないって、ジェドが言ってたの。ヘイリーだってそうでしょ?」

 出た、ジェド。サンドラの幼なじみで男友達。今のところはただの友達。少なくともサンドラはそう思ってる。でもそのジェド自身の説でいくと、ジェドはサンドラの事が好きで好きでしょうがない事になる。だって、ジェドはもんのすっごく無口で、無愛想で、ほとんど人と打ち解けようとしない――あたしはサンドラの友達だからか、少しは口を利いた事があるけど――学校でも必要がなければ大樹のように黙りこんでいる。ちなみにかなり背が高いので余計に大きな木みたいだ。そんな彼が学校で唯一まともに話せるのは、サンドラだけ。だから同級生の中には二人が付き合ってるって思いこんでる人もいる。でも、実際はそうじゃない。

「ふたつ言いたい事があるわ。まず、ジェドはほとんど誰ともしゃべらない。まったく誰にも興味がない人間なんておかしい。だからジェドの仮説はもう一度よく考えてみる必要がある。それからもうひとつ。もしジェドの説が正しいんだとしたら、これまであたしを認識しようともしなかったヘイリーが、どうして今更あたしを見つけたワケ? 突然“そうだ、コニーに優しくしなくちゃ!”ってひらめいたって?」

「分かった、両親に十六歳になるまで男女交際を禁じられていたのよ。やっと許される年になったから、ヘイリーは好きな子に交際を申し込むことにしました」

 あたしの反論を聞き流し、更に別の仮説を打ちたてるサンドラ。彼女はあたしの親友でかわいくって頭もよくって朗らかでとってもいい子なんだけど、時々自分のペースで話し周囲を置いてけぼりにする。

「いつの時代の男よ! あいつはそんなタイプじゃないし、そもそもこれまで何人もの女子と噂になってきたじゃない」

「じゃあ……突然素敵な女の子になったあなたに気づいたのかも。フランスから帰ってきたサブリナに以前とは変わった気持ちを抱いたライナスみたいに」

 途中から映画の話をしはじめるサンドラ。あたしもあの映画は好きだけど、今のあたしとじゃいろいろと違うところがある。

「あのね、あたしはサブリナみたいに都会に行って洗練された娘になって帰ってきたワケじゃない。十歳の時にださい眼鏡をかけはじめ、生まれた時から生えてるちりちり頭はいつまでたってもまっすぐにはならない。どこに帰国後のサブリナの要素があるのよ」

「ある日見たコニーの笑顔がすっごくかわいかったのかも」

「昔の事件以来あいつに不機嫌な顔以外向けた事なんてないわよ」

「えー。それじゃあ……」

「そもそもどうしてサンドラはあいつがあたしを好きっていう前提をやめないの?」

 まずもってそこがおかしい。あたしは電話の受話器を反対側の手に持ち直すと、親友の弁明を待った。

「だって、コニーはすっごくかわいいもの。誰かが好きにならないはずがないわ」

 出た、お人好し。サンドラは人が好いから自分の友達や知り合いになった人はみんな美人で美男で性格がよくって頭がいい素晴らしい人だと思ってる。彼女の世界に性悪説など存在しない。そのせいで地味なあたしもかわいく見えてしまうらしい。

 あたしはため息をついた。もしかすると、話をする相手を間違えたのかもしれない。でも他にこんな話を出来る相手はいない。

「そんな事より、もしヘイリーがまだあたしに話しかけてくるんなら、どういう作戦をとるべきかって相談したかったの」

「まずはヘイリーに前の女との関係はきれいさっぱり清算してちょうだいって言うの」

「もうその説はいいのよ!」

 あたしは目の前にいないサンドラの肩を揺さぶる代わりに受話器をぶるぶるとふるわせた。

「もー。つまんない」

「問題なのはヘイリーがあたしを追いかけてるのをリンジーに見られただろう、って事なの」

「ふうーん」

 この辺りから、サンドラの反応は鈍くなった。彼女はかなり規則正しい生活をしていて、夜の十一時には眠くなるっていう事がまったく関係してないとは言わない。この時の時刻は十時半。でも、たぶん興味もなくなってきたのだろう。

 リンジー・ファーガソンが意中の相手にそっけなくされた理由をあたしに見つけたら、攻撃するに決まっている。そう訴えてもサンドラはぴんとこなかったようで、生返事を続けた。ほんとに、この子は時々人間の機微ってものに疎くなる。恋する相手にライバルがいたら警戒するに決まってるのに。リンジーは冴えないあたしの事なんて歯牙にもかけないかもしれないけど。

 結局あたしはヘイリーを無視する方針を伝えたが、サンドラは協力的な事を言わなかった。あまつさえ「効果あるのー?」とまで言い出す始末。まったく、なんて親友かしら。

 それでもサンドラの言葉は適格だった。だって、少し前にヘイリーに話しかけられた時からあたしは彼を無視するつもりだった。それなのにいつの間にか会話してる。なんだかんだ言ってあたしもお人好しなのかもしれない。

「努力するわ」

 サンドラの消灯時間が迫り、あたしたちは電話を切った。

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