31.ボケっ放しはやめてくれ
間が空いてスミマセン!
「……え、っと。リリス様、“ルパン”とは一体何者なのでしょうか?」
「えっ!? あのですね、ルパンとは怪盗紳士の孫で変装の名人で……」
「そんな不逞の輩が、この場に侵入して居ると言うのですか!? 大事件ではありませんか!!」
「違くて……。これは鉄板ネタの名言なだけで、本当にルパンが居るわけでは無くて……」
「?? どう言う事ですか? つまり、ルパンとは一体何者なのですか??」
うん。解るぞ、ハワード。
突然“そいつがルパンだ!!”とか言われても、「は? 誰それ??」ってなるのが普通だよな。
ただでさえ、この章は前よりも登場人物が増えているというのに、これ以上登場人物が増員されたら作者も人の区別をつけられなくなる事必至だろう。
それになんだよ、“怪盗紳士の孫で変装の名人”って。その通りなんだけど、そんなこと言われたら余計に皆が混乱するじゃないか。もしそんな輩が此処に居るとしたら、大事件だぞ? 誰に変装して居るのか解らないんだから、どう警戒して良いのか想像もつかねえよ。
リリスも、もっと上手く取り繕ってくれよな。
俺から、夢のシチュエーションを奪い取った癖に、詰めが甘いんだよ。なんだ、もしかしてフォローは俺に丸投げするつもりだったのか?
それじゃあ、なんだ。この場合俺は、「そりゃないぜぇ〜、とっつぁん」とでも突っ込めば正解なのか?
俺が言いたかったのはそんな台詞じゃないというのに、言いたくもないツッコミをして転生バレしなけりゃいけないとでも言うのか?
どんな暴君なんだよ、お前は。
そんな事をツラツラと考えていたら、後ろから肩をポンポンと叩かれた。
振り返ってみれば、ダニエルが俺の顔を見ながら首を左右に振っている。その瞳の中には「負け惜しみ乙」と書かれているような気がして……。
べ、別に悔しくてやけになっているわけでも、八つ当たりしてるってわけでも、な、ないんだからね!
俺は、善意でリリスのフォローを考えているだけだ!
フォローの一つとして、リリス渾身のボケを拾ってやろうかと思っているだけであって、特に他意はないんだからな!?
ホントだぞ!?
だからダニエル、その哀れむような視線はヤメて! 「ハイハイ、そうですね」と言わんばかりに、優しく頷いたりしないでくれ!!
“残念な子を見る眼差し”より、数倍傷つく眼差しだぞ、それは!
クッ!
この不利な現状を打開するには、必殺“話題転換”しかないのか!?
そうと決まれば。さあ、カイル。此処がお前の腕の見せ所だ!
ここにいる全員に、お前の皇子力の凄さを見せつけてやるのだ!!
「ハワード、今此処に俺にそっくりな人物と子爵一行、そしてルイス達が来ているのかな?」
リリスのボケや、其れに伴って生じたハワードの当たり前すぎる疑問等、全てのことを置き去りにして話を本筋に戻す。
リリスのルパン発言など、元より無かったことにしてくれるわ! 次回、前世ネタをブッ混んでくるときには、その後始末までキッチリ自分で出来るようになってからにしてくれよな!
次は俺も手助けしないからな? そして、俺のボケを横取りするのも以後一切禁止だ!
ダニエルが面白そうに俺を見ているが、敢えて気付いていないフリでやり過ごす事にする。
何も見えていない、気付いていない俺がダニエルの視線をスルーする事は、当然の事だ。
「え……。あ、はい! 皆様は現在この奥の浴場内にお集まりになっていらっしゃいます!」
「そうか、ありがとうハワード。……アレク・J、ハワードに現状の簡単な説明をしてやってくれ。それから、俺は直ぐにでも中に入ろうかと思うんだけど、ダニエルはどう思う?」
全てを無かったこととして扱うとしても、『絶賛、混乱中!』といった様子のハワードを放置したままというのは、あまりにも気の毒すぎる。なので、アレク・Jから現状の簡単な説明をして貰う事にした。
俺は、アンジェリカとドッペル君のフラグをぶち壊す為にも、早く中に入りたいと思っているのだが、安全確認はしておく必要があるので、ココは一先ずダニエルに確認だ。
「……そうですね…………。先ずは私が先に中へ入って、彼をカイル様として扱って様子を見てみましょうか。……アンジェリカ嬢やルイス様が、彼をカイル様と認識しているのか他人と見抜いているのかも確認しておかなければいけませんからね」
俺の質問に対して、一瞬、何処か遠い目をあいて扉の向こうに意識を飛ばしていたダニエルだったが、フッと視線を俺の顔に戻すなり、人の悪い笑みを浮かべてそんな事を言う。
ああ、うん。
何か楽しそうな光景が見えたわけね。その楽しい未来を作る為には俺が居ると不都合がある、と。
なるほどね。了解、了解。
それじゃあ俺は、此処で大人しくアレク・Jと待機してますよ。
「じゃあ、中の事はダニエルに任せるから。アンジェリカの安全だけは、何よりも最優先で確保してくれればそれで良いよ。それ以外は、適当にダニエルの判断に任せるから」
「承知いたしました」
俺にとって今一番大切な事は、アンジェリカとドッペル君のフラグを叩き折る事だ。それさえ出来れば、ドッペル君が何を企んでいようがどうでも良い。
それに、ダニエルやドガー、BSBの内2人が付いているんだから身の危険もないだろう。子爵だって、突然宰相子息とその婚約者や、宰相の娘で皇子の婚約者でもあるアンジェリカに危害を加えるとは思えない。皇女であるリリスや皇子である俺なんて、言うまでも無く、だ。
唯一危険があるとすればクラックなんだろうけど……。
「お兄様、わたくしはどうすれば良いのでしょうか? 出来れば、わたくしは中に入ってクラック様の無事を確かめたいのですが……」
リリスも危機が迫るとすればクラックにだと言う事に思い当たったようだ。ここで俺と待つという選択肢を選ぶつもりは無いようだ。
クラックが敵か味方かも解らないというのに、こんなに入れ込んじまって……。
もし、クラックがリリスの思いを裏切るような真似をするならば、兄である俺がこの世に生まれた事を後悔させてくれよう! だから、どうかクラックが味方でありますように!!
「ダニエル、どうだ?」
「では、リリス様も共に参りましょうか?」
俺としては行かせてやりたいが、ダニエルの予定に任せると言った手前「行っていいよ」とは言えない。
なので、リリスを連れて行くなら身辺警護を任せる事にもなるダニエルに、お伺いを立ててみたんだが……。
どうやらリリスは、ダニエルの立てた筋書きに必要な役者の1人になっているらしい。
ダニエルがエスコートをする様にリリスに向けて手を伸ばす。リリスはその手に恐る恐るといったよう手を伸ばし、そっと掌を触れた。
ダニエルに伴われるようにして、リリスが歩き始める。
俺だって、大事な婚約者の事は自分自身の力で何もかもしてあげたいと思うけど、ダニエルの言葉は聞き入れるべきだもんな……。
護衛対象が好き勝手な事をすれば、マトモな警護なんて出来るはずがない。色々な意味で万能なダニエルが俺をここに残すという事は、俺を『守りきれない未来』の可能性を感じたという事でもあるのだろう。
そして、俺がその場にいなければ、ダニエル視点での『楽しい未来』が起こることが確実になると。
ならば俺は、この場所でアレク・Jに護られながらダニエルによる、アンジェリカとドッペル君のフラグ粉砕を祈っておくとするか。
2人が中に入って行くのを見送りながら、俺は大きくため息を吐いたのだった……。
次かその次くらいに閑話を入れたい




