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29.知識チートは発動できない仕様

「……私に、アベルや君以外の兄弟がいるという事……かな?」


リリスの言葉から導き出される答えは、これしかない。

しかもリリスの話から想像するに、その人物はただの兄弟などではなく、俺の双子の兄か弟って可能性がメチャクチャ高いだろう。

ただ、本当に俺に双子の兄弟が存在したのだとして、ファントムの正体がそいつだったとするのならば、新たな謎が生まれてしまう。

この国では双子を“不吉の象徴”とする様な風潮はないし、皇位継承権の問題でなにか不都合があると言う事はあり得ない。皇位継承権は年功序列や血筋で決まるのでは無く、御印でーー加護の強さで決まるのだ。

御印持ちの皇族が何人いたとしても、全く同じ物を持って生まれて来るという事は絶体にあり得ない。

なのに何故、わざわざ俺が双子であるという事を隠す必要があったのか。まるで初めから双子など存在しなかった様に扱っている癖に、双子の片割れを殺すでも無く隠して育てているのか、その理由がサッパリ解らん。


日本の物語におけるこういう場合のテンプレは、“双子は不吉の象徴”というものか“生まれて直ぐに攫われてしまった”という二択だと思う。それなら、皇国の有り様から考えても、今回は生まれて直ぐに攫われたって説が有力かな?


“生まれて直ぐに攫われた”説を採用してみたところで、なぜ双子の存在が隠されているのかっていうところがクリアーにならないから、何か他の理由があるのかもしれない。そもそも、本当に俺に双子の兄弟がいるのかという事も立証されていない訳だから、この推論自体が違っていると言う可能性もある。

ただ、現状で考えられるものとしては、その可能性がもっとも高いってことだけだ。


そして、こんな俺の考えは続くリリスの言葉で肯定されてしまう。


「ファンの間では、“カイル皇子双子説”というのが有力な見解でしたけど、そもそもこの話を考えた人物は少し変わった人として有名だったので、そう皆に思わせておいて実は違うオチだったという可能性も十分あり得ます」

「確かに、ミシェルから聞いた話もとんでもない内容だったからね……」


リリスの言葉で、ミシェルが直面していたヤンデレエンドの数々や、ホモに狙われ続けて常に尻の危険に怯えていたあの辛かった日々を思い出して、思わず遠い目をしてしまう。

きっと今の俺の目は、メジェド様も吃驚の“深淵を見つめる瞳”となっている事だろう。

今の俺には、“世界の真理”という物が見える様な気がする。


確かに、あんなぶっ飛んだ本編や追加・スピンオフ作品の内容を考える様なシナリオライターであれば『双子と思わせておいて、実は全く違うオチでしたよ〜ん!』なんて事も十分あり得る。何せ、アンジェリカの危機に見せかけて、俺の貞操の危機をぶっ込んで来るようなシナリオを考える人物なのだ。例えば、アンジェリカとファントムの恋愛イベント勃発と見せかけて、俺とファントムの恋愛イベントが起こる可能性だって考えられる。

例えファントムの正体が、Mr.2のボンちゃんの様に“マネマネの実”の能力者だったという、ドン引き必至なオチだったとしても俺は驚かないぞ?


それに、ファントムの正体も気になるところではあるんだが、それよりも今はもっと重要視しなければならないことがあったりする。

それは……。

何故このタイミング(・・・・・・・)で“ファントム”なんて存在が登場するのかって事だ。

現状で気になる要素は次の三つ。


一つ目は、俺たちがフォックス皇国・隣国ウルハラともに、非公式でキャンデロロ子爵領を訪れているという現状。二つ目に、俺に敵対意識を持っているらしい、ウッドロイド伯爵夫人と“親子”という繋がりを持つクラックが、今回の旅行に同行しているという事。最後に、野心家で何を企んでいるのか解らないキャンデロロ子爵という存在そのもの。


そのうえ、怪しい人物であるところのクラックもキャンデロロ子爵も、何か事情を知っているっぽいというのに何も語ろうとはしない事だ。

クラックは明らかに誰かに害されて怪我をした様子なのに、その人物が誰なのかを明らかにしようとしない。キャンデロロ子爵も、明らかにファントムの存在を認知している様子であるのに、その正体を俺に明かそうとはしない。

この2人のどちらの行動も、スッゲー怪しすぎるんだよな。


例えばホントに、俺の暗殺・ファントムと俺のすり替えってな事が計画されていたとしても、驚かないくらいに舞台が整っているんだよ。

アンジェリカが俺以外の男を選んだ場合の、サイコホラーなバッドエンドで想像したままの事を、他の誰かが企んでいたとしても全く不思議じゃない訳だ。


順当に考えれば、何かを企んでいる人物というのはキャンデロロ子爵かクラックのどちらかだろう。

その上で、クラックが怪我をしたことやシナリオの進み具合によっては死んでいたかも知れないということを考えれば、クラックが何かを企んでいるという可能性は消える。ということは、犯人はキャンデロロ子爵なのか?


「わたしも事前の公開情報しか知らないのですが、どうやら今回のゲームも必要なフラグを回収した上で一週目をクリアーしたら、隠しシナリオが解放されて二週目に突入出来る仕組みだったらしいのです。今の現状はわたしの知っている情報とはかなりかけ離れているところがあるので、もしかすると、隠しシナリオの内容が展開されているのかも知れません……」


俺の名探偵顔負けの推理に水を差したのは、リリスからの“隠しシナリオ”というワードだった。


ハイ出ました隠しシナリオ。

こういうゲームには付き物だよね、うん。現状が隠しシナリオだとするのならば、今まで俺がゲームシナリオに沿って推理していた事全てが、簡単に覆されてしまう。

つまりは、発売もされていないゲームの隠しシナリオの内容なんて、公開情報に載るわけもなく、全く何も情報が無い状態って事だよな。この現状が“隠しシナリオ”なのか、そもそもゲームとは全く関係がない要素なのかという事も解らない。


結局のところは『知識チートなんて当てにせず、自力で頑張れ』って事だろう?


ハイハイ。

今回も目一杯頑張ってみますよ! どうせ貧乏くじを引くのは俺に決まっているんだ。精々アンジェリカに見限られたりしない様に注意しながら、安全第一で頑張るとしますかね。


「リリスの言っていることは、いまいち良く解らないけれど。つまりは、君の知っている物語とは大きく違うって事でいいんだよね?」

「そうですね……。ただ、クラック様の事件の事もありますし大筋では同じ物語の筈なので、今後、ファントムが出現したり、アンジェリカお義姉様の恋愛イベントは避けようが無い事かと思います」


確かにファントムはもう出現している。俺のドッペル君という形で。

そしてリリスの言う通りこれがゲームのシナリオだとするのであれば、俺とアンジェリカの恋愛イベントと、ドッペル君とアンジェリカの恋愛イベントも避けようが無いイベントなのだろう。

だとするならば、今俺が最優先でしなければいけない事は……。


「なら私は、今よりもっとアンジェリカとの関係を確固とした物にしてこようかな?」


他の男なんて割り込む隙もないくらいに、アンジェリカとラブラブになってやれば良いんだよな?

こんなご褒美な内容が、重要な要素になるなんて……今回は神が俺に味方してくれているのか?


「リリス、色々と教えてくれてありがとう」


この会合はここまでだと暗に告げて、俺はアンジェリカとのイチャイチャタイムを確保すべく、いそいそと部屋を出たのだった。

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