28.名前の秘密
明日は更新出来ないと思います。
御免なさい(;ω;)
俺はあんまり聖書には興味がないから、“アダムとイブ”の簡単な話くらいしか知らなかったけど……。
何てこったい。
確かにすげー当てはまっているよ。ってか、モロにそこから名前つけてるよな?
更に言えば、親父の名前は“アダム”でお袋さんの名前は“エボニーヌ”という。
つまり愛称が“エバ”即ち“イブ”と言う事だわ。
うわー……。
思わずゲンナリとしてしまう。
だってさ?
なんとも厨ニ臭いじゃないか。
シナリオライターの『俺様の考えたすげーカッコいい話』って感じの、腹立たしいドヤ顔が眼に浮かぶような気がしないか?
だけど、一つ気になるのは、俺の名前は“カイル”であって“カイン”じゃないって事だ。
これだけ聖書かぶれした名前を付けてるっていうのに、わざわざ俺の名前だけそこから外しているっていうのには、何か理由があるはずだ。
まあ、リリスの話では“カイン”って言う奴は、自分の弟アベルを嫉妬にかられて殺害してその行方を聞かれた時に「知りません。私は弟の監視者なのですか?」なんて、人類初の嘘をついてエデンを追放されたそうだからな。そんな奴の名前を、そのまま付けるつもりがなかっただけと言う事も考えられるが……。
「その説で考えれば、私の名前は“カイン”で無ければいけないんじゃないのかな? 私の名前は“カイル”で、愛称でも“カイン”なんて呼ばれた事はないよ?」
「ええ、そうですよね。なのでファンの間では、その名前自体に何か秘密があって、“フォックス”の名前と共に今回の“出生の秘密”に関係して来るんじゃないかって噂だったんです」
リリスの言葉に「なる程なあ」とは思うけど、リリスだって皇族なんだから“フォックス”の秘密については知っているはずだ。“秘密”とは言っても“公然の秘密”ってやつだし、貴族なら“フォックス”の名を受け継ぐ条件は誰でも知っている。
その事が、こんな辺境の地で起こるミステリーにどう関係して来るっていうんだろうか?
「“フォックス”の名前の秘密、ねえ……。リリスも当然知っているでしょ? “フォックス”の名を受け継ぐ為に必要な物が何なのかって事は」
「ええ……。生まれた時に神の選別を受けて、神の御力ーー俗に言う加護ーーを受け入れる事が出来る器であると判断されれば、御印を授けられるのですよね? そして、その御印を持つ者だけが“フォックス”を名乗る事が許されて、国を治める事が出来る……と、そう教わりました」
「うん、その通りだよ。因みに、例え何人“フォックス”の名を持つ者が居ても、御印が一番ハッキリと現れている者が跡を継ぐ決まりだから、後継者争いは起こらない仕組みになっている。それに、もし自分より高位の御印を持つ者を暗殺しようとすれば、その時点で神の加護が消えて御記しが剥奪されてしまうから、その点で考えても継承争いは起こらない」
「解っています。わたし達皇族や、それに近しい親族・側近にとっては当然の知識ですから」
御印というのがどういうものなのかという事は、それを持つ者とその近くに仕える者にしか明かされることはない。そして、この秘密を知っている者は他者にコレを明かせない様に、皇族だけが扱える神との契約を結ばされるので、これだけは本当に一部の人間しか知らない秘密なのだ。
なので、御印についての秘密はシナリオには関係してこないだろう。
だとすれば、“公然の秘密”の方が関係して来るのかって話になるが、それもあまり考えられない。
フォックスの名が持つ秘密が、ミステリーなシナリオに関係して来る要素がないって事をハッキリさせようと思ったんだけど、それを踏まえた上で、リリスには何らかの懸念があるみたいだ。
継承争いが起こる可能性はないと理解を示した上で「ただ……」と、思案顔で呟き俺にしっかりと視線を合わせてきた。
「キャンデロロ子爵の様な末端に近い貴族達は、そんな秘密の真相迄は知らないと思いませんか?」
言われてみれば、確かに“フォックス”の継承についてくらいの事は知っていたとしても、どうやって皇位継承権の優劣を決めているのか迄は知らないのかも知れない。
だが、今の皇族には俺以外に御印を持つ者が居ないんだから、後継者争いが勃発する可能性なんて無いだろ?
「お兄様は、フォンティーヌ家の持つ本来の役割については、勿論知っていらっしゃいますよね?」
リリスが恐る恐ると言った様に俺に問いかけて来る。俺とアンジェリカのラブラブっぷりを知っているからこそ、この質問が俺の逆鱗に触れるんじゃないかって警戒しているんだろう。
俺だって、フォンティーヌ家の持つ役割については勿論知っている。確かに気分の良い話では無いけれど、この事が俺の逆鱗になる事はない。
だってその事があったからこそ、俺とアンジェリカの政略結婚が決まったと言う事実もあるんだしな。
「勿論知っているよ。直系フォンティーヌの血と、直系ジャスティーヌの血が交われば神の御印が復活するって言う、言い伝えの事だろう?」
将来、皇族に御印を持つ子供が産まれなかったり、御印を持つ子供が年若く身罷ったりして、コレを持つ者存在しなくなってしまったら、両家の直系血族者を婚姻させればその子供に御印が戻るって言うシステムがあるらしいんだ。
しかもコレは、皇位を継承した者だけが受ける事が出来るらしくて、フォンティーヌ家に皇族が降嫁しても子供に御印が現れる事は無い。あくまでも、神の加護は国を治める皇族に与えられるものだって事なんだろう。
なら、何故御印を持つ俺とアンジェリカの“政略結婚”が必要だと判断されたかって言うとだな。
それは、俺に与えられた加護がとても強かった事が原因なんだ。
加護の強さは、そのままダイレクトに御印に現れる。俺が持って産まれた御印は、大人達が平伏すほどに凄かったって話だ。
そして、この強力な加護を次世代にも継承していきたいと思った大人達が、フォンティーヌの血と掛け合わせることを考えたわけだ。御印を復活させる事が出来るフォンティーヌの血を混ぜれば、強い加護がそのまま継承されるのではないかと思ったんだろうね。
こう言うと、何だか動物のブリーディングみたいにきこえるよな。
だから気分的にはあまり良くないんだけど、俺もアンジェリカもお互いの事を好いているから、特に気にしていない。貴族なんてやっていれば、婚姻に政略が介入して来る事は当然の事なんだから、好意を持つ相手と結婚できるだけマシなんだよ。
結局、俺は幸せなんだって事だ。
そんな事を考えていれば、リリスがジッと俺を見つめ何かを逡巡した後、徐にとんでもない事を言い放ってきた。
「なら、もう一度良く考えてみてくださいませ。御記しを発現させる事が出来るアンジェリカお義姉様が、お兄様以外の方の手を取る可能性があるシナリオの持つ意味を……。そしてこのタイミングで現れる、お義姉様の御相手にもなりうる“ファントム”の存在と、お兄様の名前の謎。この二つから導かれる予測は、一つしかないと思いませんか?」
リリスの放ったこのセリフに、俺は背中に怖気が走ったのを感じた。
私の頭の中が厨ニなのです。ええ。




