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26.リリスからの情報

リリスを俺の部屋に連行して、椅子に腰掛けるよう促し、ダニエルにお茶を入れてもらう。今日のお茶は、レモンバームとカモミールをブレンドしたハーブティーらしい。

どうやらリリスの緊張を解して、精神の安定を図って口の滑りを良くさせようという狙いがあるようだ。ダニエルお手製のハーブティーだから、そこらの自白剤も真っ青な効果が現れたとしても、俺は驚かない。寧ろ逆に、それぐらいの効力を発揮して欲しいと思っているぐらいだ。


「リリス、君に聞きたいことがあるんだ」


お茶を飲んで一息入れたタイミングでそう声を掛ければ、リリスは覚悟を決めたような表情で「何でも聞いてくださいませ、お兄様」と、俺を見つめてきた。

この様子だと、リリスはゲームシナリオに託けて何かをやらかすつもりなんて全く無さそうに見える。

ならここは、直球で色々聞いてみますかね?


「この旅行に出発する時、リリスは何かおかしな事を言っていたよね? “ゲームのシナリオ”とかなんとか……。実は私は、そのフレーズを以前聞いたことがあるんだよ。その発言をした人物は、自分を“転生者”だと言って、この世界を“ゲームの中の作られた世界”だって言ってたんだけど、君もその人物と同じ意見を持っているのかな?」


俺が“転生者”だという事を、リリスに明かすつもりは無い。

どんなに疑われようとも、俺がそれを肯定しなければ誰にも真実なんて解らないんだから、わざわざ暴露する必要性を感じないんだ。それを知られる事で、この先どんな不利益を被るのか解ったものじゃないからね。

あと、“転生者”を名乗る人物がいるって事は教えても、それが誰なのかは教えない。

ただでさえミシェルの置かれている立場は不安定なものなんだから、下手な情報を開示すべきじゃ無いと思うから。

そもそも、リリスが俺たちを害する気があるかどうかも解らないんだからな。


「ちのっち……、ミシェルの事ですよね? 彼女から色々と話は聞いています。私は生前の彼女と同級生で、一緒に事故に遭ったんです。その事故が原因で、この世界に転生したみたいなんです。」


なんと、リリスはミシェルの話に出てきたあの(・・)やっちゃんらしい。このゲームシリーズの販売済みソフトは完クリ、未発売ソフトの情報も網羅しているというオタク女子。

そんな彼女の話によると、この現状は俺たちが事故に遭った翌月発売予定だった、カイル皇子を主役にしたミステリーゲームの内容らしい。

しかもだ、リリスによると……。


「今回のミステリーゲームをクリアーしたセーブデータを、『君のために全てを賭けて2』をプレイする時に引き継いだ場合のみ、激レア隠しキャラが登場する様になる予定だったんです」


って事らしいんだ。

なんて汚い商売をしてやがるんだ、このゲームの会社は!


恋愛シュミレーションゲームは好きだけど、ミステリーゲームはチョット……。


なんて乙女達にゲームを買わせるために、人気No.1キャラだった“カイル皇子”を主役にしてゲームを作成しているってだけでも充分あざといというのに。

更に、『続編の隠しキャラを出したいんなら、このゲームをプレイしなきゃダメだよ?』なんて、大人は汚い。汚すぎる!

まるで『初回購入特典が店舗によって違うから、全ての特典をコンプリートしたければ、最低でも5つは買わないとね』なんていう、あのやり口と同じじゃないか!!

それでも信者は、“お布施”件“コレクター魂”ってやつで幾つも同じ物を買ってしまうんだ(泣)


学生や主婦にとっては、とても厳しいこのシステム……。

汚い大人社会の裏側を覗いてしまったような気分だよ。


話が逸れた。

えっと……、ミステリーゲームの内容だったよな。


キャンデロロ子爵領に旅行として訪れたカイル一行を待ち受けていたのは、皇子の生い立ちの秘密に纏わる、悪意ある策略と政治的陰謀が渦巻くミステリーだった。


そんな売り文句が踊るこのゲームは、その文句の通りカイル皇子の地位を脅かす者や、皇子という立場から追い落とそうとする人物が出てくるらしい。

カイル皇子は、キャンデロロ子爵領で起こる事件やキャラクターとの会話をヒントに、自分を脅かそうとする人物を暴いていくんだと。その時に選択肢を間違えると、人が死んだりアンジェリカが他の男に惚れてしまったりするらしいんだ。

これだけでも大概だっていうのに、選択肢が不味ければ主要キャラ全員が死んでしまうような事態も起こるらしい。

なんて嫌なバッドエンド……。


アンジェリカが他の男に心変わりする可能性があるってだけでも、俺的には「ないわーっ!」って話なのに、全員の死亡フラグが乱立する可能性があるなんて、最悪だろ。

てか、なんだよ“アンジェリカの心変わり”って!

俺のアンジェリカが誰かに奪われるピンチって事かよ!

俺以外とのフラグなんて、ぜってぇ阻止してみせる!!


なんでも、乙女ゲームの中では『常識人だったが故に“悪役令嬢”と言われてしまった不遇の人物』である、アンジェリカの恋を成就させてあげようという、“救済シナリオ”が組み込まれていたらしいんだ。

まだゲーム自体が発売されていないからリリスも詳しい事は知らないらしいんだが、前情報だけでもアンジェリカのお相手候補は、カイル皇子を含めて3人もいたらしい。

アンジェリカが心変わりをする条件ってのがいくつかあって、分岐で選択を間違えるとカイル皇子への好感度が下がって、そのタイミングで相手が決まるんだと。


ったく、クソゲーが!

俺のアンジェリカが、そう簡単に俺以外に目を向けるわけがないだろ?

俺たちはラブラブカップルなんだからな!?

このラブラブ状態で他の男に目が行くって、よっぽど俺が最低男なのか、アンジェリカがビッチなのか、のどっちかしかないだろ?

どちらも当てはまらない現状で、アンジェリカが他の男に心変わりするなんて可能性は限りなく0に近いけど、そういう可能性があるんだってことだけは、心と頭に刻み込んでおく事にするよ。


「でも、この現状が既に私の知っているゲームとは色々と変わっているので、何処までゲームの内容とリンクしているのか解らないんです……」


アンジェリカにフラれる危機に心奪われていたら、リリスからまたもや爆弾発言が……。


……またかよ。

前回に引き続き中途半端なゲーム知識しかない上に、それも役に立たないというこのパターン。

嫌なシナリオだけを知らされているもんだから、相手の行動全てに裏があるんじゃないかって疑ってドツボに嵌るんだ。


「私が知っているシナリオでは、このゲームにクラック様は出てきませんでしたし、ウルハラからのお客様は王族が3人居ましたし、その事もあってもっと人数が多かったんです……」


どうやらリリスの知っているゲームとは、主要人物が大きく変化してしまっているらしい。

でも、そうなってくるとさ。


「それはもう、君の知っているお話とは全く違うものなんじゃ無いのかな?」

「いえ……。私もこの地に到着してウルハラからのお客様の人数を聞いた時に、そう思ったんです。でも、ゲームシナリオと同じ様にクラック様が怪我をして……。公開情報の中では名前も公表されて居なかったあのキャラが、クラック様だったんだって思ったら、わたし……」


どうやらリリスは、“ゲーム知識を駆使してカイル皇子を手助けして仲良くなる”って計画を立てていたらしいんだけど、どうもゲーム内容と重ならないことが多いのでこの状況とゲームは無関係なのかも知れないと思っていた様だ。

それなのに、ゲームシナリオと同様にクラックが怪我をした。

その事を、知識を持っていたのに対応策を何も考えていなかった自分の責任だと考えたらしい。


今朝のあのセリフは、そんな自責の思いから溢れた言葉だった様だ。

誰が被害者になっても自責の念は芽生えただろうけど、その相手がクラックだった事で余計に強くなったんだろうね。


恋ってやつは、ホントにどうしようもない。


俺は、リリスのこの恋を出来るだけ叶えてやりたいなんて、危険な事を思わず考えてしまったのだった。

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