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25.恋はスリル・ショック・サスペンス?

俺たちが入室した時、クラックは既に目が覚めていたらしく、ベッドに半身を起こして座っていた。

ベッドサイドには穏やかな笑顔を浮かべたリリスが座っていて、2人は仲睦まじい様子でなにやらお喋りをしている。

クラックを見つめるリリスの瞳に、俺を見ている時のアンジェリカの眼差しが被って見えるんだけど……。それってつまり、そういう事だよな? Lから始まるアレ。


え、リリスってばいつの間にそんな事になってたんだ?

いや、俺だってクラックが怪我をしたと知った時のリリスの様子を見て、「あれ?」とは思ってたよ?

でも、何か知っている様子のリリスが「わたしがもっと気をつけていたら」的な事を言ってたから、怪我を未然に防ぐ事ができなかった事を悔やんでいるだけなんだと思ってたんだよ。

だってさ、2人は今回の旅行まで接点なんて全く無かった筈なんだぞ? それなのに、一体いつLから始まるアレが芽生えたって言うんだよ。

そんなフラグ、いつ立ってたよ? 俺にはそのフラグ、全く見えなかったぞ?


いや待てよ……。

…………もしかして。

昨夜のお姫様抱っこが原因とか、言わないよな?

もしホントにそうだとするなら、リリスってばとんだチョロインだぞ、おい。ミシェルに引き続いて、リリスまでもがチョロインだっていうのかよ? どれだけチョロいんだ、あいつら。

現代日本人、ちょっとチョロすぎないか?

もちろん、俺も含めてな!


いや。でもまあ、現代日本人の感覚で過ごしていた女の子だったら、イケメンからのお姫様抱っこっていうイベントは、恋に落ちるには充分な出来事なのかもしれないのか?

聞くところによると、イケメンからの壁ドン、顎クイ、背中から抱擁、お姫様抱っこって辺りの攻撃は、破壊力が凄まじいらしいからなぁ。男に免疫が無いような女の子なら、一撃でクリティカルヒットの上TKOテクニカルノックアウトされちゃうんだろうね、きっと。


まあ、これはちょっと予想外の出来事ではあったけど、妹の恋路を邪魔したくなる程には俺も病んではいない。

クラックが、敵なのか味方なのかという判断が付いていない現状では、その恋を応援してやることはできないが、邪魔をするつもりもない。

今の所は……だけどね。


「子爵が手配した医師が来てくれたので、部屋まで案内して来たのだけど、体調はどうかな?」

「カイル皇子……。ご迷惑・ご心配をおかけして申し訳ありません。体調の方は、まだ多少身体がフラつくような感じはありますが、特に大きな問題はなさそうです」


俺の姿を見て慌てて姿勢を正そうとしたクラックを止め、そのまま楽に過ごす様に言う。そして、部屋に招き入れた医師に診察をして貰った。

頭部の傷は、ダニエルやドガーの応急処置で出血も止まり、魔術具の影響もあって傷口も塞がっている。

医師の診察でも特に大きな問題はなさそうだと言う事で、俺たちは取り敢えず一安心したのだった。



「ところでクラック、どうしてあんな所で倒れていたんだい?」


医師が退室した後、怪我をした時の謎を解明をしようとそう尋ねてみたんだけど。


「ああ……、湯に入ろうとして滑って転んでしまったんですよ。お恥ずかしい話ですね」


と、気まずげに笑って応えてくれた。

訳だけど……。

はい、ダウト!


まず、目が泳いでる。「俺、今嘘をついているっす」って言う様な態度で、そんな事言われてもねぇ?

ツッコミ待ちとしか思えないよな、うん。

次に、倒れていた位置と身体の向きから、あの状況は“湯に入ろうとしていた”というものでは無かった筈なんだよ。

もしホントに湯に入ろうとして滑ったんだとしたら、どんなアクロバティックな転び方をしたんだって話だよ? 中国雑技団もビックリな離れ業だからね?


こんなあからさまな嘘に対して、俺はどんな態度をとる事が正解なんだろうかね。

ホントに悩ましい限りだよ……。

だが、クラックのこの態度で、あの出来事が単なる不注意からの事故では無かったんだって事を、確信できたのは、収穫だったかもしれない。

あの場には恐らくクラック以外の人物がいて、その人物が事故に深く関係していたんだろう。そして、その人物は、クラックが嘘をついてでもかばう様な人物だって事だ。

そうなると、俺のドッペル君もこの件に関係しているんじゃ無いかって予想が立ってしまうわけで、クラックってばもしかしたらドッペル君の正体を知っていたりするのかもしれない。


この地に来てから、色々とミステリー要素が高まってるけど、これは何ゲームのシナリオなんだろうね?

『君の為に全てを賭けて』の第2弾は“王宮編”になるって話だったから、現状とは噛み合わない。

なら、また変な追加シナリオやスピンオフ作品って事か? 内容的にはミステリーかと思うけど、違うタイトルの乙女ゲームの可能性もあるのか?

ってかさ、このゲーム会社って、このゲームのキャラでどれだけ稼ぐつもりなんだろうね? なんか、自分が◯リオやア◯ルーになった様な気分だぞ。


とまぁ、そんな事はさておき。

全員が集まっているこのチャンスに、現状の簡単な説明とこの先の行動指針を話しておかないとね。


「そうか……。足下には、気を付けないとダメだよ? それから……。ちょっと問題が起こっている事もあって、全員、今からは単独行動を禁止させてもらうから」

「……え?」

「…………」


俺の言葉に、クラックはポカンとしていたが、リリスは「やっぱり……」とでも言いたそうな表情を見せている。

リリスの反応を見れば、この流れもゲームのシナリオに沿った出来事なんだと言う事が推測できた。


「さっき解った事なんだけど、どうやらこの館には俺たちとウルハラの3名以外にも“客人”がいる様なんだよ。しかも子爵は、どうやらその事を俺たちに知られたく無いらしいんだ。彼の狙いが何処にあるのか解らないうちは、危険を避けるためにも単独行動は避けるべきだと言う結論になってね」

「…………そうなのですか……。解りました、これ以後は必ず誰かと行動を共にすることにします。」


俺の説明に、クラックは一瞬何かを考える様な仕草を見せたが、直ぐに笑みを浮かべて了承した。

俺は、その一瞬の逡巡の意味を知りたい。

一体クラックは、何をためらったのだろうか? そこに見え隠れしている、このストーリーの解決の糸口を、無理矢理にでも聞き出したい。

だが、これがシナリオであるならば一つずつ丁寧に物事を重ねていかなければ、最適な答えを導く事ができないんだろうと言う事も理解している。

だとすれば、ヤッパリここは転生者だと自ら暴露してくれたリリスを問い詰めるしか無いよな? うん。


「リリス、君には色々と聞いておきたい事があるから、ちょっと兄様と2人でお話ししようか? ルイスたちはクラックと一緒にいてくれるかな?」


キラキラ王子様スマイルでリリスに声をかければ、彼女は一瞬で顔を真っ赤に染め、次いで直ぐさま紙のように色を無くしていった。

リトマス試験紙のように顔色を変化させながらも、気丈に俺を見返し「解りましたわ、お兄様。わたくしからもお話ししたい事があるので、聞いていただけますか?」と問うてくる。

リリスの方から話してくれるのなら、その方が色々と手間が省ける事だし嫌な手段(拷問とかね)を使わなくても済みそうで、俺としても大助かりだ。


「それじゃあ、俺の部屋に移動しようか?」


俺はそう言ってリリスの手を取ると、エスコートするように優雅に自分の部屋へと連行したのだった。

次は閑話です

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