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23.それは、噂に良く聞くドッペルゲンガー!?

糖分注意報発令します

見事コートの中に捕獲したアンジェリカは、捕まってしまったというのに、なんともウットリとした安全しきった表情で俺の胸に顔を擦り寄せてくるんだけど……。


うん、地獄だな、これは。

なんて可愛いことをしてくれるんだろうね、この“最終兵器彼女”は。

これって、確実に俺の事を()りにきてるだろ?

なんて、やり手のヒットマンなんだ!

見事に俺の心臓を一発で撃ち抜いてくるんだからな!!

こんなの、ゴ◯ゴも真っ青だろ!?


少なくとも、俺の鋼で出来ていると自負する理性は、もう瀕死の重傷を負ってしまっている。

あと一撃でも食らってしまえば、確実に俺の理性はお亡くなりになり、性少年(・・・)の本能を剥き出しにした猛獣となってしまう事だろう。


そんな俺の心の葛藤を知る由もないアンジェリカは、無邪気にも甘える様に俺の胸にスリスリと懐いてくるのだ。

その上さらに


「カイル様、とても暖かいです……」


なんて可愛く言われちゃった日には、オッキしちゃうのも当然だと思うんだ、うん。

男の子だもん、反応しちゃっても仕方ないよな。


思わず腰を引いてしまった俺は、何もおかしくなんてないと思う!


それでも、何とか今の状態をアンジェリカには気付かれまいと思って、頭の中はフル回転の大忙しだ!

現状、一番の解決策はアンジェリカから離れる事だということは解っている。だけど、こんな可愛い彼女を抱きしめているというのに、何が悲しくて離れなければいけないというんだ!!

そんな事をしなくても気を紛らわせる何かがあれば、この生理現象は治るはずだ。

何か話題、気が削がれる様な話題は無いのか!?


「そういえば、カイル様。先程は何故一人で中庭に出ていらしゃったのですか? この時間(デート)の為の下見をするにしても、見知らぬ地でお一人で行動されるなど良くありませんわ」


だけど、気を削ぐ話題を見つけるまでもなく、次に発せられたアンジェリカの言葉で、俺の興奮は一瞬で引いてしまった。

下から俺を軽く睨む様に見つめるアンジェリカの姿は悩殺的に可愛いのだけれど、今はそれどころじゃない。いま聞かされたアンジェリカの言葉は、あり得ないんだ。

だって俺はこの地に到着してから、一度も一人で行動などしていないのだから。


スゥッと、全身の血が下がった音が聞こえた気がした。


「ねぇ、アンジェリカ。“先程”って言うのは、いつぐらいの事かな?」


この地に到着してから、俺とアンジェリカが別行動をしていたのは三回。

到着してから今朝までの間。朝起きてからクラックが怪我をしているのを発見するまで。朝食後から、さっき迎えにいくまでの間。

この3回だけだ。


昨夜は俺以外のメンバーで温泉へと行ったらしいけど、昨夜の話なのだとしたら“先程”なんて表現は使わない筈。

怪我をしたクラックを見つけた時は、彼女は自室にいた。彼女の部屋の窓からはこの中庭を見る事は出来ないので、これも違うだろう。

それじゃあ……。


「え? 私達がクラック様のお部屋でカイル様のお迎えを待っていた時ですけど……」


俺の思考を肯定するかの様に、アンジェリカが応えてくれた。

確かに俺たちが泊まっている側の部屋の窓からは、この中庭を見下ろすことが出来る。だがその時間、俺はティールームでウルハラの連中と会い、その後は真っ直ぐに俺の部屋へと戻って来た。

当然中庭になど、一切足を踏み入れていないのだ。


一体、どう言うことだ?


「ねえ、アンジェリカ。俺は君を待たせていた間、中庭には一切近づいていないんだけど……誰かと見間違えたんじゃ無いのかな?」

「……え? でも、あのお姿はカイル様だったと思うのですが……。確かに部屋の窓から中庭まではそれなりに距離がありますけれど、見間違える程の距離では無いと思いますし。それに、あのお姿はカイル様としか思えなかったのですが……」


俺の言葉を聞いて、アンジェリカも混乱して来た様だ。

独り言の様にブツブツと呟きながら、その時の記憶を色々思い出そうとしている様に、じっと宙を見つめている。


「……あっ! そういえば、私達をクラック様のお部屋まで送って下さった時とは、お洋服が違っていた様な気が致します。……では、アレは全くの別人だと言うことなのでしょうか?」


暫く何かを考えていたアンジェリカが、俺の胸から離れる様に手をついて俺を勢いよく見上げてきた。

「あんなにカイル様にしか見えないというのに」と小さく呟くアンジェリカの言葉に、俺は背筋に悪寒が走り、温もりを求める様に、思わず彼女を“ギュッ”と抱きしめてしまった。


え? 何それ、怖い……。

それって、もしかして噂に聞くドッペルゲンガーってやつじゃねぇの?

あの、“それを見たものは死期が迫っている”とかって都市伝説があるやつ。

一説によると、リンカーンも暗殺される前にドッペルゲンガーを見ていたって噂だし、あの芥川龍之介も自殺をする前ぐらいから、ドッペルゲンガーを見ていたって説があったよな?

ってことは、俺ってば近々死んじゃうって事か!?


そんな自分の考えに更に恐怖が増して、抱きしめた彼女の身体に縋り付く勢いで腕に力をいれてしまった。


「か、カイル様、ちょっと苦しいです」

「ああっ!? ごめんよ、アンジェリカ!」

「構いませんわ、このくらい」


アンジェリカの声に、慌てて腕の力を緩める。

それでも抱きしめた身体を離すことが出来ない俺を慰める様に、彼女は両手を背中に回して落ち着かせる様に撫でてくれた。


情けないな、俺。

この程度で動揺してアンジェリカに縋り付くなんて。


軽く落ち込んでしまった俺を元気づけようとしてくれているのか、アンジェリカが背に回していた両手を俺の頬に移動させて来た。

アンジェリカは、両手で俺の頬を挟んで目を合わせ


「この様にカイル様に甘えて頂けるなんて、私、とても嬉しいですわ」


そう言ってふわりと微笑んで、そっと俺の唇に自分のそれを押し当ててきた。

一瞬だけ触れて直ぐに離れた唇が恋しくて思わず追いかけそうになったんだけど、少し顔の距離を開けたアンジェリカが恥ずかしそうにはにかむのを見たら、その可愛さに動けなくなってしまった。

だって、アンジェリカってば可愛すぎるんだもんよ。


初めてのアンジェリカからの口づけは、砂糖菓子より甘かったよ。うん。

嬉しすぎて、脳味噌がパーンした。

危うく股間もパーンする所だったけど、それだけはなんとか根性で耐え抜いた。


「カイル様……。アンジェリカ様のお話が本当であるのなら、この地は早急に離れた方が良いかもしれませんね」


俺が心の中で地面をゴロゴロ転がりながら悶えていたら、俺たちに背を向けたままのアレク・Jがそう声をかけてきた。

後ろを向いているので表情までは判らないが、声の様子からとても難しい顔をしているのだろうという察しはつく。

確かに見知らぬ地で、幼馴染で婚約者でもあるアンジェリカが見間違える程に俺に良く似た人物がいるなんて。しかも何やら俺に対しての陰謀があるらしいウルハラの人間がいる場所で、なんて、出来すぎた話だ。

更には、何やら企んでいるかもしれないウッドロイド家の嫡男もいて、その上ここが、腹に一物も二物もありそうなキャンデロロ子爵の領地だって事が怪しすぎる。

リリスの“ゲームシナリオ”発言から考えても、俺を標的にした何かの物語が始まってしまっていることだけは確かだろう。


「だが、アレク・J。これだけ雪が積もっている状態では、魔術馬車を走らせる事は出来ないぞ……」


せめてもう少し雪が溶けてくれなくては、車輪が雪に埋もれてしまって動かない。

今この地は、ちょっとしたクローズドサークル状態なんだ。

その上……。


「ええ……。さらに最悪な事に、また雪が降り始めましたしね。…………これは当分身動きが取れなくなってしまいそうですね……」


アレク・Jの言う通り、再び雪が降り始めその勢いを徐々に強くし始めたのだった。

舞台の完成です

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