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7 共犯者はお義兄様

翌朝、朝食をとっている俺の所にルイスがやって来た。優雅に俺の前の椅子に座り、にこやかに挨拶される。


「おはよう、カイル。朝食、一緒に良いかな?」

「おはよう。構わないが……、何か相談か?」


話しかけてくるルイスの笑顔が黒いので、多分ジェシカの事についてだと思う。

俺が許可を出すと、ルイスの執事が俺の向かいに食事のセッティングを始めた。ダニエルは、何時もの手品でルイスに紅茶を振舞っている。


「その様子じゃ、何の話か解ってるんだ?」


全てのセッティングを終え、互いの執事が空気と化してから、ルイスが笑みを深めて問いかけてきた。

その笑顔には、「断ったら、どうなるかわかってんだろうな?ああぁん?」ってな意味合いが含まれているのを、俺は知っている。

なまじ綺麗な顔をしているので、その迫力は半端ない。魔王様降臨だ。

……まぁ、きっと俺も似た様なものなんだろうが……。


俺がルイスの立場だったら同じ事を考えるので、協力はキッチリさせて貰うつもりだ。ってか、もう動いてるしね。

なので、ルイスにはこれから共犯者になって貰おう。

実行犯をダニエルにしてもらうにしても、俺1人で画策するのは、正直荷が重い。ルイスが相談に乗ってくれて、一緒に色々と画策してくれるのなら、功率がかなり上がりそうだ。

だから、俺は少し悪い笑顔で笑って見せる。


「未来の義姉上の事、だろう?」


ジェシカの事を義姉上と表現して、ルイスの反応を窺う。

ルイスは、俺が黒い笑顔でそう言っただけで、大まかに察してくれたんだろう。


「………ふぅん……。で、僕に何をして欲しいのかな? 未来の義弟殿?」


満足げに微笑んで、俺の共犯者になる事を承諾してくれた。



詳しい話はこんな所で出来ないので、朝食後に俺の執務室で話す事に決め、とりとめもない会話をしながら朝食を摂る。

因みに、自室では無く執務室を選んだのは、邪魔が入りにくいからだ。決して、執務を手伝ってもらうつもりなんかじゃないんだからな!?


「やあ、お二人さん。朝から何の密談だ? オレもその話に噛ませてくれよ」


ほら、邪魔者がやって来た。

ロバートはキザな仕草でウインクを飛ばしながら、空気も読まずに話しかけてくる。相変わらずウザイね、君は。

ロバートのやつは脳筋なので、ルイスの想い人が誰なのか解っていない。なぜ、ルイスに婚約者がいないのか、自分がどう思われているのかも勿論知らない。

そして貴族としてあるまじき事に、場の空気を読む事が苦手で相手の腹を探る事も出来ない。

ホントに……。将来近衛師団でやっていけるのか? こいつは……?

それ以上に、コイツに侯爵家を継がせるとか、正気の沙汰とは思えないね、俺は。


ロバートがやって来た事で、周囲の温度が南極並みに低下しているというのに、その元凶はその事に全く気付いていないのだ。

俺なんて、怖くてルイスの方を見る事も出来ないというのに!


だれか! 暖かな飲み物をお持ちの方は居ませんか!?


俺が朝食の席でプチ遭難をしていると、絶妙なタイミングでダニエルが紅茶を入れ替えてくれた。


エスパーですね。わかります。


暖かい紅茶を一口飲んで一息つく。雪景色の幻が徐々に消えて、何時もの食堂の景色に戻った所で、俺はロバートに視線をやった。


「おはよう、ロバート。なんだ、お前も俺の執務を手伝ってくれるのか? 結構な量だから、それは有難いな」


ダニエルの入れてくれた紅茶のお陰でなんとか復活した俺は、ロバートに普段通りに笑いかける事ができた。

脳筋ロバートが俺の執務を手伝えるわけがないので、勿論、程のいい断り文句だ。


「執務!? ……いや、オレはやめておくよ。余計に仕事を増やすといけないし、な!」


ロバートは案の定、急にソワソワとし始め「あ、そういや予定があったんだ!」なんてわざとらしい事を言って去っていった。


ロバートがいなくなったお陰で周囲の気温もルイスの微笑みも元に戻り、これ以上邪魔が入らない内に、俺たちは執務室へと移動する事にした……。

やれやれだぜ。



あの朝食の後、俺たちは今後について軽く打ち合わせをし、明日から毎日短時間でも情報共有を図る事に決めた。その後は、真面目に講義を受ける。


本日のビッチとの遭遇予定は、見事にかわし切った、と思う!

本当は昼食をアンジェリカと摂りたかった(お誘いがあった)のだが、それが遭遇の機会だったから、泣く泣く諦めた。

放課後に、もう一度遭遇の機会がある筈だが、その場所には近付くつもりは無い。

これで、今日のビッチとの接近遭遇はない筈だ。


今日1日の講義も終わり、自室に戻った俺はアンジェリカを午後のティータイムに招待する事にした。本日の昼食の誘いを断った埋め合わせも兼ねて、デートを目論んでいるのだ。

承諾の返事を貰うと直ぐに、昨日とは違う中庭に準備をして貰う。

昨日の中庭は芝生と木立がメインで、憩いの場って感じだったが、今日逢う予定の中庭は、庭師が丹誠込めたイングリッシュガーデンってな趣きがある。

恋人達の為の場所って感じだよな。


俺は、用意してもらった可愛くラッピングされた6本のピンクの薔薇を携えて、中庭に向かった。

ああ、やっと彼女に逢える……。毎日会っているのに、そんな風に思ってしまう自分を『かなり重症だな』と思う。まぁ、自重はしないが……


中庭で待っていると、程なくしてアンジェリカがやって来た。

”学園内では身分の上下はありません”という体裁の為、自室以外では制服での行動が義務付けられているのだが、アンジェリカが着ているだけで唯の制服が全く違う物に見えるから不思議だ。


「ようこそ、アンジェリカ。」

「お招きありがとうございます、カイル様。それに昨日は、素敵なブーケを有難うございました。」


目元を染め、眩しい物を見るような、嬉しそうな表情で俺を見るアンジェリカ。


抱きしめても、良いですか?


「では、今日はこちらを。……私の、気持ちです」


いや、駄目だろう。と理性を働かせて、俺は今日の花を彼女に送る。


「!……ありがとう…ござい…ます」


アンジェリカは花を見て、驚いたように瞳を見開いた後、真赤な顔を俺に向け”へにゃ”とした顔で微笑んだ……。


何今の! ねえ、今の何!!

思わず口元を片手で覆い、視線を逸らしてしまう。


「殿下、お茶の準備が整いました。どうぞお席へ」

「あ、ああ……。そうか。」


俺の中で何かが崩れる音が聞こえたが、エスパーダニエルがその崩壊を、水際で食い止めてくれた。

サンキュー、ダニエル!


アンジェリカの為に椅子を引き座らせてから、俺も向かいに座る。

その後は、始まったばかりの学園生活の話をアンジェリカから聞くなど、穏やかに時間は過ぎていった。


「やあ、カイル、アンジェリカ!こんな所で奇遇だね!」


俺たちの逢瀬に水を差したのは、相変わらずウザイウインクを飛ばした脳筋ロバートだった。

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