21.謝罪会見って、最初の一言で印象が決まる気がする
朝食を済ませた後、俺たちは一度クラックの様子を見るために部屋へと戻ることにした。
まあ、それだけじゃなく、ライゼルとの面会には、ルイスにだけ同行してもらうつもりでいるので、アンジェリカとジェシカを部屋まで送り届けたいという事もあるんだけどな。
クラックの部屋の前に着いたところで、俺は彼女たちに一つのお願いをしておくことにした。
「2人にお願いがあるんだ。俺たちが出かけている間だけ、出来れば皆で同じ場所にいる様にしてくれないかな?」
2人には、俺たちが戻るまではクラックの部屋か、もしくはリリスの部屋で固まって過ごしていて欲しいと、お願いしたのだ。これは、少ない護衛を上手く活用するには、其れが一番効率が良さそうだと思ったからだ。
皆が一部屋に纏まってくれていれば、部屋の中と廊下に護衛を配することが出来るし、彼女たちの執事や侍女も交代で自分たちの仕事に取り掛かることが出来る。
きっとどの部屋も、取り敢えず寝る為の部屋を整えただけで、荷物の整理や主人の快適に過ごす空間作りにまでは、手を伸ばせていないはずだ。面会に大した時間はかからないと思うが、それでもかなりの時間稼ぎにはなるだろう。
「解りました。大人しくカイル様のお帰りを待っていますので、その後、私と過ごす時間も作って下さいますか?」
俺のお願いに、こんな可愛いお願いが返ってきましたよ!?
恥ずかしそうに俯いて、視線だけをチラリと俺に向けての甘えた言葉。
アンジェリカの“対俺兵器”としての殺傷能力が、ここの所天井知らずになってきている!
これは由々しき事態だというしか無い。
今すぐにでも抱きしめて、討伐してやらねばいけないんじゃね?
そうでもしないと、近いうちに絶対俺はこの小悪魔に殺されてしまう。だって、萌え殺される未来が見えるんだよ、俺には!!
「いざ、討伐!」とばかりに抱きしめようと手を上げかけて、そう言えばこの場にはルイスもいるんだったと思い出した。
どんな顔で俺たちを見ているのかと、そっと視線をやれば……。
ジェシカもアンジェリカの様子に触発されたのか、ルイスの服の裾を引いて耳元で何か言ってるみたいだった。
あ、ルイスが悶えてる。
奴も上がりそうになる手をこらえている様子で、右腕を左手で押さえつける様にプルプルと震わせているのだ!
まるで、伝説となっている「鎮まれ、俺の右腕!」を見ている様な光景に、ちょっと笑ってしまった。
アレは、俺の状況とそう変わらないと見たね。
ふと、俺の視線を感じたのかルイスと目が合ってしまった。
お互い苦笑するしか無い様な状況だが、ここで一つの密約が無言のままで交わされ、頷きあう。
そう、お互い見て見ぬ振りをするので「ちょっとぐらいやっちゃえよ」という、密約だ。
「解ったよアンジェリカ。今日は、昼食の後からお茶の時間まで2人でデートをしようね」
「約束ですわよ?」
「ああ、約束するよ」
俺はそう言って、アンジェリカの額に軽く唇を当て「約束の印……」と、甘く微笑んで見せたのだった。
クラックの意識はまだ戻っていなかったので、俺たちは女の子3人をクラックの部屋に待機する様に言ってから、ライゼル達が待つであろうティールームへと向かった。
ティールームへと着く直前に、ダニエルが合流してきたが、今は報告を受ける時間はない。今は謝罪を受けるだけなので、詳しい事は後でじっくりと聞くことにする。
そうしてたどり着いたティールームの中には、既にウルハラの面々が揃っていて、紅茶を飲んでいた。
問題児臭がプンプンしていたジュードは、あの後大分絞められたのか、今はしゅんとして大人しくなっている様に見える。
あの手のタイプを反省させて黙らせるのは、かなり骨が折れる作業だと思うんだが、どうやって躾けたんだろうね?
その方法を、是非とも俺やクラックにも教えてもらいたいものだ。
いや、ホント切実に。
「お待たせしてしまった様ですね」
笑顔でティールームへと入室しそう声を掛けると、3人は立ち上がって「今回は、わざわざこの様な席を設けていただいて、ありがとうございました」と頭を下げる。
その後は儀礼的なやり取りを交わして席に着き、改めてヘンリーの行動に対しての謝罪と、彼にあの後どの様な処分が下されたのかを教えて貰った。
うん。聞かなきゃ良かったと思ったよ……。
なにその“目には目を”的な処罰。
超、コエーよ。
ここは普通に“離宮に幽閉”とかでも良かったんじゃ無いのか?
そう思ったんでライゼルにそのまま伝えてみたら
「ええ……。慣例で考えればそれが妥当なのですが、この処罰は皇国からの希望に沿ったものなのです」
と、苦笑しながら教えてくれた。
慌てて、ルイスに視線をやれば「君がどんな被害に遭ったのかを考えれば当然でしょ? 君の関係者は全員、怒り狂っていたんだからね?」と、言われてしまった。
確かに、我が国としてはフォックスの名を持つ正当な皇位継承者の俺を害されたんだから、怒り狂って当然だよな。
それは解るよ。解るけど……
「まあ、我が国としましても、離宮に幽閉という様な軽い処罰では納得しない貴族が多々いましたし……」
俺の微妙な表情を見て気を使ったのか、そう言って、ロナルドがウルハラの内情を少しだけ教えてくれた。
その内容は、まあ、うん。
ヘンリーならそれ位、あり得るだろうなってな内容だった。
まず、城勤の侍女に無理やり手を出して婚約破棄をさせた癖に、飽きればポイ。そのせいで子供を身籠ってしまった侍女も、何の保証も無くポイ。
気に入った侍女は、自室に鎖で繋いでペットの様に扱い、その女の子は人格崩壊。
当然、城勤をする年頃の未婚女性は激減し、被害にあった貴族から王への嘆願が殺到。
ヘンリーを諌めようとしても、正妃が彼のする事を全て庇い立てする上、教育に口出しをしてくるのでどうにもならなかったらしい。
そこで、正妃とヘンリーを離して教育をするという目的と、城内での問題解消の為に学園へ留学させてきたんだそうだ。
ヘンリーが留学している間に、被害に遭った女の子達へのその後の対応や保証を行い、留学後は我が国との国境近くの領地で外交をさせる予定だったのだとか……。
その為に、見目の良い娼婦を買い上げて侍女教育を施し、領地に派遣する段取りを組んでいたとか。
ロナルドは色々ボカして話していたが、要約するとこんなところだろう。
まず一言いいたい。
そんなのを、ウチの国に留学させるなよ……。
まあ、ヒューイを押し付けた俺たちが言えた義理じゃないが、な。
「なので、ウルハラが皇国に留学させた問題児に比べれば、そちらから送り込まれた問題児など、取るに足りない存在なのです」
俺の考えていることが解るのか、ライゼルが穏やかにそう言ってくれた。
確かに、ヒューイは問題児だが流石にそこ迄の事をやらかしたりはしない。それに、何か事を起こせばウルハラの法で罰して貰って構わないと言ってあるので、預かる側も気が楽なのだろう。
俺はそんな風に考えたのだが、どうやら真実はもっと奥が深いらしい。
「ライゼル様はあの令嬢が嫌いで、どうにか婚約破棄できないものかと常々機会を伺っていましたので、ヒューイ殿の騒動には感謝をしたいくらいなのですよ」
「どうせ調べられれば解る事なので」と前置きして、ロナルドがとんでもない事実を教えてくれた。
ヒューイはどうやら、ライゼルにとっては救世主の様な存在らしい。
そして今回の面談は、俺への謝罪も当然だが、ヒューイを送り込んでくれた事に是非とも礼が言いたかったという事もあったらしい。
なので、クラックの体調が良くなれば是非とも面会したいので、直ぐに知らせてほしいと頼まれて、この場をお開きにする事になったのだった……。
うん、これでクラックの心労がかなり減って、頭皮へのダメージが軽減されるといいね。
俺はそんなどうでもいい事を考えながら、ティールームを後にしたのだった……。
次は、ダニエルさんの報告を聞いてから、念願のアンジェリカとの雪デートです
カイル様大喜び╰(*´︶`*)╯




