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20.早く朝食が食べたい

ライゼルという王子は、本当に慎重な行動を取る男だと思った。

見た目は、清潔感のあるブルーの短髪にエメラルドの瞳を持ち、常に穏やかに微笑んでいて争い事などは好まないよう感じた。

性格はまだ読めきれていないが、この地にウッドロイド家の者も同行して来ているが、急な体調不良でこの場に来れなかった事、日を改めてライゼル王子に紹介するつもりであることを伝えてみた。


「なんでも、ウッドロイド伯爵の名代としてライゼル王子にお話と、謝罪を行いたいそうなのです。受けてやって貰えるでしょうか?」


ということを合わせて伝えてみても、特に激昂したりする事もなく、穏やかに「そうなのですね、解りました。その方の体調が良くなれば、改めて紹介して下さい」と模範解答のよな応えを述べるのみ。

これだけでも、彼が直情的な人間などでは無く、迂闊なことを口にしないだけの思慮深さがあるのだということが解る。

どちらかと言えば……。


「どのような理由があろうと、初対面の席となる筈の場所に現れる事もしないウッドロイド家の謝罪など、ライゼル王子が受ける必要はありませんよ!」


ライゼル王子の隣でヒステリックに喚いている見た目20代半ば辺りの神経質そうな男の方が、よっぽど色々と問題がありそうだ。ヘンリーの側近候補だっただけあって、考えなしで思った事をそのまま発言しているかのような言動がよく似ている。

まだ俺に対して名乗りもしていないこの男は、神経質そうな痩せた外見に見合った声質で、キーキーとウッドロイド家を貶めるような発言を繰り返しているんだが、ソロソロ自分の不敬さに気付いてくれないかな。


そんな事を考えながら、奴の嫌味を聞いていれば。


「ジュード、そのような事はこの場で言うべき言葉では無いし、カイル皇子に対して取る態度でもないと思うよ。それに、今回のこの面談会場を設けてもらった理由は、ウルハラからカイル皇子へ対しての謝罪がメインなんだ。私とウッドロイド家の事情はついででしか無いと言うことを、忘れないでくれないか?」


穏やかな微笑みと声でやんわりと、しかし有無を言わせない調子で男を窘め「そんな事よりも、君はカイル皇子に挨拶すらもしていないよ?」と言って、迂遠なやり方で無作法な態度を咎める。俺に対しても「私の国の者が失礼致しました。どうぞお許しください」と言って、頭を下げてくれた。


なんか、さ……。

こいつってば、ヘンリーと同じ国の“王族”なんだよな?

同じ国の王族だっていうのに、どうしてこうも出来が違うんだ??


ヘンリーの代わりに、このライゼルが将来のウルハラの外交を担当する事になる予定だと聞いているが、最初からヘンリーなんかを使わずに、ライゼルに任せた方が良かったんじゃないのか?

どうしてウルハラは“母親の地位が高いから”なんて理由で、あの男をあれ程に祭り上げていたんだろうね?


「……失礼いたしました。私はこの度ライゼル様の側近候補となりました、ジュード・フォースと申します。将来は、皇国との外交を主に担当させていただく事になるかと思いますので、以後、お見知り置き下さいませ」


ライゼルに咎められた事で気分を害したように、やや不機嫌そうに挨拶をしてくるその態度に、この男がライゼルやこの国を見下している事が解ってしまう。


ウルハラ……。マジかよ……。

本気でこの男をウチとの外交の要にするつもりなのか?

こんなのに外交をさせていれば、下手すりゃ戦争が起こるぞ……。


「おい、そんな嘘の自己紹介をするなよ。あんたがフォックス皇国との外交を賄うなんて、無理な話に決まってるだろ? あんた、ウルハラを潰すつもりなのか?」


俺の不安がかおにでていたのか、それまでメンドくさそうにライゼルの側で黙って控えていた男が、発言した。

その言葉は、この場にはとても似つかわしくない様な乱暴なものだったけど、俺は大いに好感を覚えた。


「突然の発言、失礼いたしました。私はライゼル様の側近でロナルド・フォースターと申します。……積もる話も多々ございますが、それは後ほどとして、今は朝食をお取り下さいませ。我々はもう、下がらせて頂きますので」


ロナルドと名乗った男は、この収集が付かなくなっていた場を強引に片付けるかのようにそう言うと、俺たちの朝食を邪魔している事実を己の主人にそれとなく気付かせる。


「ええ、朝食の前だというのに騒がしくお引き止めをしてしまい、申し訳ありませんでした。……では、後ほど」

「ええ、そうですね……。では、私たちもそろそろ朝食をいただこうかな。……では後ほど、ライゼル殿」


俺たちがそう挨拶を交わすのを見届けた後「失礼します」と言って、ロナルドはまだ何か言いたそうなジュードを引きずるようにして食堂を出て行った。ライゼルはそんな二人の姿をのんびりと眺めながら、ゆっくりと後を追って立ち去っていった。


なんとも不思議な取り合わせのメンバーだ。

ただ、あの3人の中で、一番油断がならないのはロナルドではないかと言う気がしてきた。

ジュードを今回伴ってきたのも、何やらウルハラ内での政治的な采配があるような気がする。


「……ダニエル」

「畏まりました。早急に情報を集めてまいります。……ドガー、カイル様の朝食の世話を頼みます」

「承りました」


あの3人についての情報が欲しくてダニエルに小声で呼びかければ、彼は朝食の給仕をドガーに託して、気配を消した。


「……まったく、アレが本当にウルハラの外交担当になるのかと考えると、今から頭が痛いですよ」


それまで黙って俺たちのやり取りを見ていたキャンデロロ子爵が肩をすくめてそう言い、まだ食堂の扉付近に居た俺たちをテーブルまで案内してくれた。

テーブルには、ポッチャリとした成人男性と、リリスと同じ歳くらいの女の子がいて、椅子から立ち上がって俺たちを待ってくれていた。


「皇子、紹介させて頂きます。長男のヘルベルトとは会ったことがございますよね? ……これは我が家の次女のジュリアです」

「お久しぶりです、カイル皇子。この度は、療養で此方を訪れたと聞いております。何もない領地ですが、温泉だけは誇れる質を持っておりますので、ごゆるりとお過ごし下さい」

「はじめてお目にかかります、カイル様。ジュリアと申します。以後、お見知り置きを…」

「皆様も、我が家の子供達をよろしくお願いします」


ぽちゃぽちゃとしたキャンデロロ一家はこうやって並ぶと、人当たりの良さそうな笑顔をしていることもあって、癒し効果が凄い。

なんだか、この一家からマイナスイオンが放出されているのではないかと思える程なのだ。


そんなキャンデロロ一家の挨拶を受けて俺たちも軽く挨拶を返した後は、漸くテーブルについて朝食をいただくこととなった。


既に朝食を食べ始めている二人の様子を見ると、キャンデロロ伯爵領の朝食は、イングリッシュ・ブレックファーストとでも言う様なプレート料理だった。

彼らの目の前に置かれた皿には、シリアルに卵料理、ベーコン、ソーセージ、ハッシュドポテト、マッシュルーム、ベイクドビーンズ、焼きトマト、トーストなどが多量に盛り付けられており、飲み物としてフルーツジュースが置かれている。

この領地の平均的な朝食がコレだとするならば、キャンデロロ一家がふくよかなのもとても納得だ。

だが、俺は朝からこんなに食べられないぞ?

そう思って、ルイスやアンジェリカの様子をそっと伺ってみれば、彼らも顔を引きつらせていた。


「キャンデロロの領地では、朝からしっかりと食べるのが基本なのですが、他所からいらしたお客様には少々お辛い様なので、好みに合うよう色々準備していますので心配は要りませんよ」


そんな俺たちに気付いたのか、子爵がにこやかにそう言って他のメニューを教えてくれた。その中には、普段学園の朝食で食べている様なものから、オニギリやお粥といったものまで、バラエティーに富んだ内容になっている。


朝からどんな苦行だよって思ってたけど、問題なく美味い朝食を食べることが出来そうでホッとしたよ。

今回の登場人物がこれで全部出揃った、はず……。

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