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18.突如始まるミステリー

やっと此処までたどり着いた……。

「此方が男性、彼方が女性の浴場となっております。この浴場は家人とお客様専用なのですが、個別には別れておりませんので、他の方と一緒に入浴していただくこともあると思います」


そう言って案内されたのは、旅館の大浴場のような作りの場所だった。浴場自体は露店であるが、屋根が付いているので天気を気にすることなく入浴できる。

今も外は雪がちらつき始めていて、入浴を楽しむには風情があって良さそうだ。

浴室は男女には別れているけれど、一人一人の貸切には出来ないらしく、タオルを巻いての入浴はOKだが着衣入浴はNGらしい。誰かと一緒に入ることは避けられないようだ。

男女の浴場は、2m程の高さの塀で隔てられているだけで、頑張れば覗けそうな気がする。うん、のぞかないけどな。

あと、源泉掛け流しとなっているので24時間いつでも入浴できるのだが、深夜2時〜3時の間は清掃をするので、出来れば避けて欲しいと言われた。


「私は、今夜は入浴するのは辞めておこうと考えているのですが、明日の朝食は何時頃の予定でしょうか? 出来れば、朝食までに入浴したいと考えているのですが……」


朝食前にゆっくりと風呂に入りたくてそう尋ねると「7時頃からの予定です」と、執事から返答があった。

その答えを受けて子爵からも


「ライゼル王子達は昨日こちらに到着されていますので、明日の朝食か、朝風呂に入られるのでしたらその時に会うかもしれませんな」


と言われた。更に気を使ってくれているのか

ライゼルとは、ウルハラの第六王子の名前だったよな、確か。もう、到着してたんだ。


「会いたくないようであれば何時頃に入浴するつもりなのか教えて貰えれば、その時間帯は避けて貰うように伝えておきます」


という、提案までしてくれる。

確かに正式な謝罪の場で話す前に会ってしまうのは、お互いに気まずいので「5時頃に入浴するので、伝えておいて欲しい」と頼んでおく事にした。


一通り浴場や館内を案内して貰ってから、それぞれの部屋へ引き上げる。

俺たちに充てがわれた部屋は、二階の角部屋が俺でその隣にルイス、その隣がクラックとなっていた。

女の子達の部屋は、廊下を挟んだ向かいで、角からリリス、アンジェリカ、ジェシカと並んでいて、男の部屋の並びに護衛の部屋が用意されている。

執事や侍女は、俺たちの部屋の中に従者の為の控え室があるので、そこで寝泊まりする事になる。


普通で考えれば、未婚の男女が同じ棟の廊下を挟んだだけという部屋に割り振られるなんてことはあり得ない。だが、今回は護衛の人数が少ないという事もあって、対象の部屋が纏まっている方が警護をする上で都合がいいという話になり、この様な部屋割りになったのだ。

BSBは、ローテーションで寝ずの番を組み、カゲ君2人とも協力して警護に当たる様だ。


ほんと、俺の我儘で迷惑をかけてるみたいだけど、今は時期的にも仕方ないことなので許して欲しいと思う。



準備された部屋に入ると、今日1日の疲れがドッと襲いかかってきた。

仮眠スペースは女の子達を優先して利用させていたので、俺は基本的に座って過ごしていたんだけど、病み上がりの身体には、それがかなり負担だったようだ。


もう温泉に入る気力なんて残ってない。子爵は24時間いつでも温泉に入れるって言ってたし、もう今夜は風呂には入らずにゆっくり休んで、夜中に目が覚めて気分が良ければ入っても良いかな。

それか、さっき話した通り、明日の朝一番にのんびり朝風呂を楽しむ事にしようかな。

取り敢えず、目が覚めてからその辺りは決める事にして、今は1秒でも早くベッドに入りたいよ。


「カイル様、せめて体を拭いてお着替えを済ませてからベッドに入ってください。お湯の用意は出来ていますので」

「……う? 解った」


ダニエルの言葉に、半分夢の世界に旅立ちながら返事をする。

清拭や着替えを半分以上ダニエルに手伝って貰いながら終わらせて、俺はやっとベッドに潜り込むことができた。


ベッドに寝転んだ時に見えた窓の外の景色は、酷い吹雪の様相を呈してきたみたいだ。この様子だと、確実に明日は物凄い積雪となっていることだと思う。

だが、既に館に到着している俺たちには関係ない。


もし途中の街で一泊していたら、雪で足止めを食っていたかもしれないな。


そんな事を考えながらベッドに横たわっていると、一瞬で睡魔が襲いかかって来たようで、あっという間に意識が無くなった……。




翌朝目覚めると、すでに時刻は5時を過ぎていた。


やっべ。5時から風呂に入るって言ってたのに、時間過ぎちゃってるじゃん!


「ダニエル、俺、昨夜子爵に、今朝5時頃に風呂に入るって言ってあったんだよ」

「左様でございましたか。では、今から準備を致しましょう」


俺は慌てて起き上がり、ダニエルに入浴の準備を頼む。

昨夜はこの部屋を整えるために、ダニエルとは別行動だったって事を忘れていた。いつも何も言わずとも俺の予定を管理してくれるダニエルだが、流石に知らされていない予定の管理は出来ないもんな。


5分も掛からずに準備を整えてくれたダニエルを引き連れて部屋を出れば、ルイスもちょうど部屋から出て来たところだった。


「やあ、おはようカイル。君と一緒に温泉に行こうと思ってたんだけど、5時を過ぎても君が出てくる様子が無いから今から誘いに行こうと思ってたんだよ」


ルイスは今日も朝から爽やかだ。

笑顔からキラキラと光が漏れている様な気がする。


「おはようございます、カイル皇子、ルイス様。……クラック様も、つい先程温泉に入ると言ってお部屋を出てこられましたよ。今行けば、脱衣所で会うのでは無いでしょうか?」


昨夜の“寝ずの番”だったらしいBSBのケヴィンが、朝の挨拶とともにそんな情報を教えてくれた。


クラック、結構早起きだな。


そんな事を思いながら、ケヴィンに挨拶を返し温泉には行って見たのかを尋ねる。


「ええ。私達は、昨夜ルイス様やクラック様が入浴される時に警護として、短時間ずつですが交替で一緒に入らせて頂きました。とても良いお湯でしたよ」


なんと、ルイスやクラックは昨夜もちゃんと風呂に入ったらしい。よくよく聞けばアンジェリカとジェシカ、リリスの女の子3人も一緒に風呂に入りに行ったらしいのだ。

夜は入浴しないと言っていた俺の事も、一応は誘いに来てくれたらしい。ただ、俺はその時にはもう眠っていたらしく、仕方なく俺抜きで温泉に向かったのだそうだ。


マジか!

俺とした事が、湯上りのアンジェリカを見逃すなんて!!


少々ガックリと落ち込んでしまったが、俺は元気です!

風呂なんて、まだまだこの館にいる間は入るんだから、この先幾らでも“湯上りアンジェリカ”を拝む機会はある! 今は温泉を楽しむ事に集中するんだ!

OK、OK。優雅な朝風呂、良いじゃ無いか。朝食の席で温泉効果でいつもよりキラキラ倍増した俺の姿を、アンジェリカに見てもらおうぜ?

うん、凄く良い案だ。これで昨夜“湯上りアンジェリカ”を見逃した不運も解消される筈だ!


……く、悔しくなんて、無いんだからね!!



俺とルイスは、護衛としてアレク・Jとハワードの2人を伴って温泉へと向かった。

どうやらクラックは護衛も執事も連れずに温泉へと向かった様なので、本来なら護衛はアレク・J1人で良いところを2人にしたのだ。

俺とルイスはちゃんと執事を伴っているので、護衛は1人で十分なのである。


浴場に到着したが、脱衣所には誰も居なかった。どうやらクラックは既に露天風呂に入っている様だ。

俺たちも早く入りましょうかね。


「それにしてもカイル。その痣、本当に凄いね……」


脱衣所で早速服を脱いでいれば、ルイスがドン引きな表情で、俺の身体に未だ色濃く残っている暴力の痕跡を見ていた。

そんな親友の様子に俺は苦笑いだ。


「内臓と骨の治癒を優先したからな。見た目はアレだけど、痛みもそんなに無いし今回はコレのおかげでかなり都合が良いからな」

「まあね……。その状態じゃ、ね」


俺たちはお互いだけに通じる悪い顔で笑い合い、腰にタオル一枚という格好で露天風呂へ通じる扉へ向かい、ハワードが扉を開けてくれた。


「……え?」

「どうした……の、って。ええ!!??」

「っ! お二人とも、お下がりください!! ……大丈夫だ、息はある。ハワード、直ぐにニコラスを呼んでこい! ダニエルさんは、お二人をお願いします! ドガーさん、手伝っていただいてもよろしいでしょうか?」


扉のそばで固まっている俺たちの目の前で、アレク・Jが次々と指示を出していく。


「カイル様、ルイス様、直ぐにお着替えを致しましょう」


ダニエルにそう促されるが、俺たちは露天風呂へと続く床の上で、頭から血を流して倒れているクラックから目を離す事が出来なかったのだったーー。

やっと、二章のタイトルに話が追いついた感じです。

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