12.またお前か!
新キャラ登場です。
今回の章もキャラが多いよていですので、皆様頑張ってキャラを把握してください。
出発当日。
学園から直接キャンデロロ子爵領に向かう事になっていた俺たちは、予め魔術馬車を学園の門まで呼んでおいた。
其々荷物を持って門まで向かうと、キャンピングカー位の大きさの馬車が既に待機していたのだが……。
何故か、馬車以外に余計なオマケが付いて来ていた。
馬車のドアを開ければ中には既に、2人の人物が乗っていた。
1人はこの世界での我が妹リリス・ジャステーヌ、もう一人は―――ヒューイの兄、クラック・ウッドロイド伯爵子息だ。
馬車のドアを開けて呆然としている俺に、小首を傾げる事で腰まであるパープルの長い髪をサラリと滑らせながら、リリスが「お兄様〜」なんて言って手を振っている。
カイルの妹って事で御察しだろうが、顔立ちもめちゃくちゃ美少女だ。そんな少女が嬉しそうに手を振っている様は愛らしいが、今はそんな事はどうでも良い。
今は、リリスの向かい側で申し訳なさそうに微笑んでいる、茶髪でオレンジの瞳をした穏やかそうな青年の方が問題だ。
その青年、クラック・ウッドロイドはゆっくりと馬車から降りてきて、丁寧に俺に頭を下げてくる。
その表情や仕草からは、俺への敵意なんてものは微塵も感じられなかった。
…………。
何故だ? どうして、クラック・ウッドロイドが馬車に乗っているんだ!?
要注意人物の関係者だぞ?
こんなの、確実に何かのフラグじゃねぇかよ!
っていうか、どこからこの2人に情報が漏れたんだよ!?
一応今回の旅行は、この国の第一皇子のお忍びでの療養となっている。それだけでも、情報は上層部のごく一部にしか流れない事柄の筈だ。しかも今回の旅行の真の目的は、ウルハラの王族との面談なんだ。
トップシークレットの扱いだった筈だぞ?
それなのに、どうしてこの2人がここにいるっていうんだよ!?
チラッと隣のルイスを見れば、奴も驚いて目を見開いている。この様子だと、ルイスも何も知らなかったんだな。
次に、ダニエルの表情を確認してみる。
ダニエルは……うん、何考えてるんだろうね? 俺は、ダニエルの表情を読むなんて高度な技術はもちあわせてないから、サッパリわかんねぇや。
密かにパニックを起こしている俺だけど、そんな事はおくびにも出さない。
…………とにかく、この場は俺が仕切るしかないよね?
「やあ、おはよう。リリス……とクラック、久しぶりだね。ところで……どうして、この馬車にリリスとクラックが乗っているのかな? もしかして、これは私が借り受ける予定の馬車ではない、とか?」
そんな筈が無い事は百も承知だけど、一応確認しておかないとな。
にこやかに挨拶をしながらそう問えば
「おはようございます、お兄様。いいえ、間違ではありませんわ。お父様から許可を頂いたので、わたくし達も今回のお兄様の療養について行くことになったんですのよ?」
「おはようございます、カイル皇子。もしかして、父上から何もお聞きになっていらっしゃらなかったのですか?」
リリスは、邪気のない青の瞳を細めて微笑いながらそう言って「アンジェリカお姉様はわたくしの隣に座って下さいませ! ジェシカ様もわたくしの隣ですわよ?」なんて言いながら、彼女達の手を引いている。
ちょっと待て、リリス。
アンジェリカは俺の隣に座る事が決まっている! 勝手に彼女の席を決めるんじゃありません!
それに、ルイスの顔を見てみろ。
ニコニコした鬼がいるぞ!? ジェシカが絡むと、この鬼は、地獄の監察官よりも厳しくなるんだからな?
命が惜しければ、今すぐジェシカの手を離すんだ!
それから、旅行は移動時間が楽しいんだから、カップルの邪魔をするんじゃない!!
「カイル様、クラック様に御返答を……」
リリスの行動をどうやって阻止しようか考えていたら、クラックの言葉に返事をするのを忘れていた。
ダニエルに小さく腕を突かれてそのことを指摘された俺は、ハッと視線を彼に向ける。
クラックは、何だか面白いものでも見たかの様に微笑んでいて、特に気分を害したような様子はない。
クラックが穏やかな人物で良かった。
もしかしたら、ホントはハラワタ煮えくり返ってるんだけど、相手は皇子だから「何とも思ってませんよ」ってフリをしているだけかもしれないけどね。まあ、俺は心が読めるわけでもないから、額面通りに受け取っておきましょうかね。
ここは、仕方がない。
リリスの制止はルイスに任せて、俺はクラックの対応に専念するとしよう。
そう考えて、チラリとルイスに視線を向ければ、俺の思考が読めたらしい彼は頷いてくれた。
よし、これで大丈夫な筈だ!
リリスの野望は、お前がしっかり打ち砕いてくれ!!
「すまない、クラック……。え、っと。つまり2人の同行は“父上の指示”と、そういう事なのかな?」
「指示、ではないのですが、同行のお許しは頂いております。ウッドロイド家も、内密に第六王子と面談する必要がありまして……」
一瞬で思考を切り替えてクラックに尋ねてみれば、何だか理解できない返答が返ってきた。
ウッドロイド伯爵家が内密に第六王子と会わなければならないなんて、一体どんな用事なんだろうか?
ヒューイの事か?
いやしかし、ヒューイが留学している事は、向こうの王族には関係ないだろう? しかも「王族にヒューイの便宜を図ってもらうつもり」とかって用事なら、内密に面談する必要なんてない。ウルハラの王族も建国祭に招いているのだから、その席で話をすれば良い事だ。
それに、クラックのこの言い方だと“ウルハラの第六王子”に、直接会う必要があるみたいに感じる。
「?」
「実は、ヒューイの事なのですが……。弟がかの国に留学してから、既に何度か問題を起こしている事はご存知でしょうか?」
「ああ、聞いている」
「今は、ある令嬢ととても懇意にしているらしく、そのせいで、令嬢の婚約が白紙に戻されるそうなのです」
ここまで聞くと、この先の話が何となく読めてしまうんだけど、気のせいだよな。
うん、きっと違うよな?
俺の気のせいに決まってるよね!?
まさかアイツだって、そこ迄考えなしのバカじゃない筈だ。
それでも確認しないわけにはいかない俺は、恐る恐るクラックに向けて確認の言葉をかけてみることにした。
「もしかして……」
「ええ。令嬢の婚約者はウルハラの第六王子様だったのですよ……。ヒューイもその事は知っていた筈なんですけど「愛の前には仕方がない事なんだ」とか、言ってるらしくて……。そしてまた令嬢も、それを「その通りですわ。わたくしたちは、運命で結ばれているのですもの」なんて言って、盛り上がっているそうなのです」
ヒューイーっ!!!
何やってるんだ、お前は!!
国としての外交とか、伯爵家としての立場とか、もっと色々考えて行動しろよ!
王族の婚約者を奪い取るとか、それもう、かなりの国際問題だからな!?
俺がクラックの話に唖然としていると、彼はとても済まなそうに続ける。
「国皇様には、自体が発覚して直ぐにお詫びをしたのですが、その時に今回の旅行の計画を教えて頂いたのです。……本来であれば、父が詫びに行くべきところなのですが、今季の社交では母から目が離せませんし、ヒューイの失態を挽回するのにも手がいりますしね」
クラックが情けなく眉を下げてそういうのを聞いて、俺はいつかこいつがハゲるんじゃないかと心配になってしまったのだった……。
密かにTwitterをやっているのですが、貼り方が解りません。
大したことも書いてないので、見つけた時は「ゴミムシがっ!」と思って生暖かく見守ってください。