9.旅行って、実は計画を立てている時が一番楽しい
色々と謎が出始めました。
俺はつくづく思い知ったね。
例え、標的を陥れる為のトバッチリだったとしても、絶対にジェシカに手を出しちゃダメっ! ってさ。
これ、絶対にルイスが“激おこ”になるの解ってて、フォンティーヌ公爵ってば情報を流してきたに違いないよ。
きっと『好きな女は自分で守れ』って教えが、公爵家には有るに違いない!
それは、アンジェリカを嫁にもらう予定の俺にも適用されるものだろう。今のうちに、肝に命じておかねば!
「で、僕の話はこれで良いとして、カイルの話って一体何なのかな?」
変わらずニコニコと笑顔のルイス。でも、その笑顔から「僕がこれの対処を考えてるって時にくだらない用事で呼び出したとか、そんな訳ないよね?」っていう、副音声が聞こえて来る気がするのは、気のせいなんだろうか?
でもルイス。
俺の今から話す内容を聞いたら、お前はきっと、泣いて俺に感謝したくなるぞ?
旅行の件は勿論の事、多分、ネガキャンの犯人もこれで解るはずだ。
「ん? 俺の話か? 冬季休暇についてなんだが、実はだな……」
俺はルイスに、ダニエルから聞いたウッドロイド伯爵夫人に関する懸念と、危険を避ける為に『彼女のターゲットになっているメンバーは冬季休暇を分散して過ごした方が良い』と言う結論に至った事を伝えた。
そして、俺宛にウルハラの第六王子から『謝罪のために面談の場を作って欲しい』と依頼が来ている事と、キャンデロロ子爵の視察依頼もついでに片付けてしまうために、子爵領で面会することに決めた旨も説明する。
「ちょっと待ってカイル。事情は解ったけど、いくらダニエルが付いているっていっても、君を1人で行動させることは出来ないよ?」
「うん、それは解ってる。だから、ルイスにも付いてきて欲しいと思ってるんだ。勿論、アンジェリカとジェシカも一緒に、な」
ルイスの予想通りの言葉に、お茶目なウィンクを付けて旅行の誘いを切り出したら、凄く驚いた顔を見せてくれた。
ドッキリが成功した事に気を良くした俺は、ニヤニヤと人の悪い笑顔でルイスの反応をみやる。
そんな俺の表情を見て、ルイスは「やれやれ」とでも言う様に小さく首を振り「その仕草、ロバートと同じだよ?」と、すげぇ嫌な事を言ってきた。
ロバートと一緒にされるのはとても心外だが、確かにこのどうしようもなくウザイ仕草は奴のものだな。
これからは気を付けよう! もし脳筋だと思われたりなんかしたら、俺の将来が色々と危ぶまれてしまう!!
「でも、良い話が聞けたよ。お陰で、あの紙を配り歩いている件の黒幕が誰だか、見当がついたような気がする。……ねぇ、ダニエル。僕の考え、間違えていないかな?」
「左様でございますね。その行為自体の目的については解りかねますが、その紙を製造したのは見当通りの人物で間違い無いようですよ」
俺の話を聞いて思い当たった答えを、何故か俺に聞くのではなく直接ダニエルに確認するルイス。
いや、別に良いんだよ?
「何で俺に聞かない訳?」とか、そんな子供じみた事全然思ってないし?
ダニエルに確認した方が、確実だもんね?
うん。解ってる、解ってるよ?
気付かれないようにチョッピリやさぐれていたら、ダニエルと、あとルイスにまで“可哀想な子を見る目”を向けられてしまった。
くそっ!
俺はお前達のそんなマインドアタックには決して負けないぞ!!
あの一連の騒動で、俺の精神は鋼のように鍛えられたと自負している。次々と湧き出る自主規制な奴らに狙われ、マインドアタックを受け続けた俺は、トラウマも刺激されたけど、それ以上に高度な修行の機会を与えられたんだからな!!
「それにしても……。確かに色々と都合が良いとは言っても、キャンデロロ子爵領はチョット遠すぎないかい?」
ルイスが話題を変えるように、旅行先について難色を示してきた。
誰しも考える事は同じなんだよな。
なので、俺も皇族の魔術馬車を出してもらう予定である事を伝えた。勿論、魔石をケチるつもりなどなくふんだんに投入するつもりだって事も、合わせて伝えておく。
「そう言う事なら、僕からも魔石は提供させてもらうよ。僕の妹と、大切な婚約者の快適な旅の為なんだから、費用をケチるつもりはないよ」
やはりルイスは親友だ。
考える事が俺と同じだよ!
必要量の魔石が確保できる事は、これで確定だ。
それじゃあ次は“遠足のしおり”作成に取り掛からねば。
「じゃあ、ルイス。後は細かい所を決めていこうか」
まず決めておかなければいけないのは“オヤツは何円まで”という事と、“バナナはおやつに入るんですか?”という、遠足における心配事二大巨頭からか?
ネタが古いなどという苦情は受け付けないよ? 古から、学生が旅行において心配するのはこの2つと決まっているんだからな!
「まず、旅行中のオヤツはダニエルが用意してくれるから、何も心配しなくて良い」
ピシっと人差し指を立てて真顔でそう言ったら、ドン引きされた……。
「……えっと、キャンデロロ伯爵領は温泉が売りらしいんだけど、どんな形式になっているのかが解らないんだよな。個別入浴なら良いんだけど、そうじゃないなら厄介だよな」
冗談の通じないルイスのドン引きに心折れた俺は、気を取り直して、気がかりとなっている事を言ってみた。
個別入浴なら防犯面でも安心だけど、元が“日本人が作った乙女ゲーム”なこの世界だ。色々と日本の常識が織り込まれていてもおかしくない。
『サービススチール』とか言って、俺たちが半裸で温泉を楽しんでいる絵が出回っている様子が、簡単に想像できるんだよな。
「ああ、間違いなく集団入浴だろうね。ただ、カイルの身分もあるから、一緒に入浴できる相手は決まってくるだろうけど」
案の定なルイスの返答に「ですよねー」としか返せない。
まあ、一緒に入浴できる対象を厳選できるだけでも良しとするしかないよな。
「あ、そっか。カイルはアレの事があるから、事情を知らない人間との入浴なんて不味いよね」
「イヤ、今ならそうでも無いんだよ。あの一件では酷い目にあったけどさ、ホント、なにが幸いするか解らないもんだよな」
「……? ああ、ナルホド。そういう事ね。確かにあれのお陰でカモフラージュ出来るんなら、本当に“不幸中の幸い”だよね」
ノンビリと、ダニエルが入れなおしてくれたお茶を飲みながら、俺の秘密について話し合う。
この国の上層部でも、極僅かの者しか知らない秘密だ。他国に知られる訳にはいかないので、大勢で温泉に入るなんて状況は本当に困る。ただ、今だけはその困る状況を回避できるっていうのも、温泉視察を引き受けた理由でもある訳なんだよね。
視察となれば、キャンデロロ子爵とも一緒に入浴しなきゃいけないだろうからな。
相手に色々な柵や思惑があるように、俺たちにもそれなりのモノがあるんだよ。
俺とルイスは、その後1時間ほど掛けて旅行の詳細な計画を立てたのであった。その話し合いは、スッゲー楽しかったって事だけは追記しておく。




