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5.逆恨みって、常識が通じないから質が悪い

「え? ちょっと待ってくれ、ダニエル。確か、危険があるから城以外の場所をセッティングするって話だったよな? 城だと余分な人間が多すぎて、俺を護り辛いからって言ってたよな?」

「ええ、左様でございます」

「なのに、なんでそんな危険が伴うような場所に、わざわざアンジェリカ達を連れていく必要があるんだ?」


そりゃあ俺的には、気心の知れた友人カップルと一緒に婚前旅行とかすげぇ嬉しいけど、そんな事以上に危険な場所に大事な人間を連れて行きたなどくない。

そういう俺の考えなんてマルっとお見通しな筈のダニエルが提案してきたんだから、絶対に何か意味があるんだって言うのは解る。それでも、危険があると解っている状況の中、直ぐに「そうか。じゃあ、皆で旅行だな!」とは思えない。

結論だけを伝えずに、まずはその答えに至った理由を説明して欲しいと思う。


そんな事を思いながら、話の続きを促す様にじっと視線を向けていれば


「残念な事に、この国にも不安分子があるのです。そんな訳で、王都に残る事にも危険が伴うのであれば、害される恐れのある方、特に、カイル様の弱みとなる方は一緒に連れていく方が良いと考えました」


何を考えているのか読めない穏やかな微笑みを湛えて、サラリと告げられた。しかし笑顔で告げるのには全く相応しくないその内要に、俺はドン引きだ。


この国の不安分子って?

「王都に残っても危険」って……、命がって事か?

それとも……


「カイル様。あなたは今、この国の貴族の中で、あなたや、その周囲の者に対して恨みを持っている者がいると思いますか?」


思いっきり顔を引き攣らせている俺を楽しげに見つめながら、ダニエルがそんな質問を投げかけてくる。


他人の感情なんて俺には解らないし、皇族なんてやっていれば、気付かないうちに恨みの1つや2つかっている事なんて特に珍しくもない。

なのに、このタイミングでこんな質問をしてくるという事は、明らかに俺に恨みを持つ、しかもそれなりの力を持っている者が居るという事なのだろう。


………………このタイミングで俺とその周囲に恨みを持つって事は、今回の事件に関係しているって事だろう?

その中で損害を被ったのは、隣国・元教師のブラッドとその実家・レッドフォード家とウッドロイド家だ。

“この国の不穏分子”と言っているのだし、隣国に問題がある事は解っているので除外。ブラッドは生涯を病院(白い部屋)で過ごす事が決定しているし、ヤツの実家はこの国から少し遠い所にある小国で、しかも既に取り潰された家だと聞いているので、これも除外。残るはレッドフォード家とウッドロイド家だが……。

レッドフォード侯爵はあの脳筋ロバートの父らしく、逆恨みなんてする様なタイプじゃない。騎士道とか紳士道というものをとにかく大切にする人なので、息子のしくじりを恥じる事があっても逆恨みからの復讐なんて考える事はあり得ない。そして勿論、奥方もそう言う事を嫌う人だ。

ウッドロイド伯爵も、貴族としての嗅覚に優れたやり手の貴族だ。いくら息子を可愛がっていたといっても、貴族としての常識で考えれば王家や上位貴族を害するなんてありえないだろう。奥方は我儘令嬢をそのまま大人にしたような、ちょっと困った人物ではある。だが、ヒューイが貴族社会で鼻つまみ者になって家督を継ぐ可能性が全く無くなったといっても、元々跡取りとして長男がいる訳だし、ヤツへの処分自体もかなり穏便なものとなっている。その事を考えれば、ウッドロイド家から感謝されこそすれ、恨まれる理由は無い。

なら、いったい……。


口元に拳を当てて、今回の事件に関与した家やその繋がりについて考えてみても、一向に答えは見つからない。


「ウッドロイド伯爵夫人は、カイル様をとても恨んでいらっしゃるようですよ? エイプリル様がヒューイ様に愛想を尽かしたのも、カイル様のせいだと思っていらっしゃるようですね。さらに、ダグラス様とエイプリル様が想いを通じ合わせた切掛けも、カイル様が(もたら)したと知って、更にお怒りになってらしたようです」


降参とばかりに両手を上げて小さく首を振れば、ダニエルが楽しそうな笑顔でトンデモナイ情報を教えてくれた。

これだけでもドン引きな内容だっていうのに、さらに「ヒューイ様を裏切ったエイプリル様とオーガスト家には経済的な制裁を加えるつもりで、着々と準備されていらっしゃるようです」なんて、驚愕の情報まで教えてくれた。


え、なにその逆恨み?

お宅のバカ坊ちゃんの言動棚に上げて、なに言ってんの??


俺はあまりの衝撃に、思わず口が開いてしまう。

流石はあのヒューイを育てた人物だ。どうやらウッドロイド夫人は『あの親にしてこの子あり』を、見事体現してくれる人物だったようだ。


そうか、だからウッドロイド家からオーガスト家への慰謝料が無かったのか。オーガスト家も「今まで婚約者だったから、あれ程援助してきたというのに」と言われてしまえば、何も言えないもんな。

表向きでは、オーガスト家が慰謝料を断ったという事になっているが、実際はウッドロイド家が圧力を掛けたのだろう。

ウッドロイド伯爵は確か、熱烈に夫人に惚れこんで、必死に口説き落として婿養子に入ったらしい。その為、夫人の行動に“否”を唱える事はないと聞いた事がある。

今回も、彼女の意見を邪険にする事が出来なかったんだろうな。それでも、一切の援助金の返還は求めなかったというのは、彼の良心の呵責だったのかそれとも、外聞を考慮した上での保身だったのか……。


エイプリルは“将来ヒューイを支える為に”という理由で、ウッドロイド家からの援助で学園に通っていたらしいんだ。学園に通うには、かなりの費用が掛る。それを全て援助されていたのだが「婚約を破棄したのだから、援助する理由が無くなった」と言われ、返金を要求される恐れもあった訳だ。

もしこれを要求された場合、例え慰謝料を貰ったとしてもその額では到底足りない筈だ。ウッドロイド伯爵がそれを要求しなかったのは、夫人の計画を否定せずに上手く保身出来る様に配慮したという事なのだろう。

だが今のままでは、エイプリルがこのまま学園に在籍するのが難しいのもまた事実だ。


学園で掛る費用は大まかに、学費と生活費の二種類ある。学費の方は、その年ごとに一括で支払う事になっているので、なにも問題はない。だが生活費は、寮費は月々の支払いとなっている上、寮で掛る食費や雑費・授業の際に要求される物品の費用も中々の額になる。

今までは、その全てをウッドロイド伯爵家が援助していたらしいのだが、オーガスト家にそれを支払う余裕は無いだろう。元々、オーガスト家は貧乏で、後継以外を学園に通わせる様な余裕は無かった。今年の一年生として入学した弟に掛る費用を考えれば、エイプリルに金を掛ける事は出来ない筈だ。

結果として、エイプリルは学園を辞めるしか選択肢が無くなり“結婚する訳でもないのに学園を辞めた”という、なんとも外聞の悪い評価が社交界に出回り、彼女の貴族としての人生が終わる。

………という事になる予定だったのだろう。夫人の計画では。

たぶんウッドロイド伯爵も、そういう風に説明をして夫人を納得させたはずだ。


だが実際は、彼女の外聞がどれだけ悪くなろうが、彼女の結婚以外の将来に然程影響は無かったりする。

実は、彼女にダグラスのカウンセリングを依頼した時に“未婚の女性に婚約者でも無い男の世話を頼む”という事の見返りとして、アンジェリカ付きの侍女として王宮で雇用する約束をしていたのだ。

なのでいざという時は、学園で掛る費用も“侍女教育の一環”として、俺が出す予定だった。

まあ、ダグラスと婚約が決まったことで、エイプリルに掛る費用は全てロートン家が援助する事になったみたいだけどな。


俺だって一応は色々考えて行動していた訳だよ、うん。


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