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《閑話》 私の婚約者の様子がおかしいです。(アンジェリカ)

私は、この国のフォンティーヌ公爵家の娘でアンジェリカと申します。


8歳の時に第1皇子のカイル様と婚約致しまして、それからは国母となるため、カイル様の隣に立って恥ずかしくない様、努力してまいりました。

政略的な婚約でしたが、努力家で優しいカイル様には憧れを抱いておりました。

……仄かな恋心という感じでしょうか…

しかし、カイル様が私に抱いているのは、”将来の王妃”という割り切った感情しかない事も気付いていました。

だからと言って、ないがしろにされた事はありませんし、婚約者として大切にされているのも感じておりました。


カイル様が、自分に掛かる責任の重さにあえいでいる事も勿論知っていましたが、その様なパーソナルな部分にズカズカと踏み込む事もできず、『いつかはその重荷を一緒に背負えたら』などと願っておりました……




この国では、15の歳から3年間全寮制の学園で就学する義務があります。

この3年の間で社交を始めとして色々な事を学ぶのですが、中でも”婚約者との理解を深める”事と、相手のいないものは”将来の伴侶を探す”事はとても大切な事案となっております。


私も今年の入学が決まっておりましたので、学園生活の中でカイル様との信頼関係を築いて行こうと考えておりました。



しかし、入学式の朝に迎えに来て下さったカイル様は、何だか別人の様になっていました。

見た目も、声も、口調も、違いは無いのですが、そこに籠る”熱”と言うのでしょうか? 感情が違う気がしたのです。


…………私に向ける笑顔も、何時もの貼り付けた様なものではなく、甘さを含んでいる様に感じて……

あの朝の私は、いたく翻弄されてしまったのです。


しかも…… 何かと私に触れ、その触れ方も………

と、とても!い、いやらしいというか……。


そして、それを喜んでいる自分に、とても驚きました。


「……この埋め合わせは必ずするから、期待してて?」


あの朝最後に囁かれた言葉と、耳に触れた唇の感触と吐息が今でも私の胸を騒がせています。


あの時私は、余りに胸がドキドキしすぎてーーーー


カイル様は私を殺すつもりなんじゃ無いかと思ってしまったほどです!

なんだか、愛されてる様な気がして、とても幸せな気持ちになってしまったのですわ。



幸せな気分で入学式を終え、エスコートがカイル様からお兄様に変わり、その後の歓迎パーティーに向かいました。


「何だか機嫌が良さそうだね、アンジュ?」

「まあ、ふふふ。そう見えますかしら?」


お兄様に直ぐに気付かれてしまうほど、私の幸せな気持ちは外にでてしまっているようでした。


会場に入り、知り合い一人一人と挨拶を行い……。

私は、ある事に気づいてしまいました。幼馴染みで親友のジェシカが会場内にいない事、そしてジェシカをエスコートしているはずの人物が、見た事の無い女性をエスコートしている事に!


「お兄様……」

「ああ。……アンジュ、ちょっと側を離れるよ?」


声をかけてそちらに注意を向けると、直ぐに察してくれたお兄様が会場から出て行きます。きっと、ジェシカを探しに行って下さったのでしょう。


どういう経緯でこんな事になっているのかしら?


経緯が分からなければ何もでき無いため、私はジッと彼等を観察する事にいたしました。

ジェシカの婚約者は、近衛師団長を務めるレッドフォード侯爵家の長男、ロバート様です。

あの方は体を鍛えすぎたせいか、脳味噌にまで筋肉が付いてしまったような方で、少しアレなところがあるのですが、最低限のルールはご存知のはずです。

ここが学園なので、正式な場では無いと考えていらっしゃるのか、それともあの女性が侯爵家に新しく引き取られた、とか?

ロバート様の嬉しそうな赤く染まった顔で、女性に話しかけている様子を見ていると、嫌な予感しか致しません。


段々イライラが強まってきた時、お兄様がジェシカを連れて会場に戻ってきました。ジェシカは入学式が行われたホールの前で、泣きそうな顔をして立っていたそうです。

私の側にやってきたジェシカは、問題の2人を見つけるなりポロポロと涙を零し始めました。


「……どぉして? ヒドイ……」


ブルーの瞳を大きく見開き、涙を溢れさせながらジェシカが呟きます。

泣いているジェシカを間に挟んで見えるお兄様の顔が、邪悪な笑みを浮かべ始めるのを見てしまいました。

お兄様がこんな顔をしている時は、何をするか分かりません。


ここは私が何とかしなければ!


そう考えた私は、お兄様にジェシカを任せ、2人に近づいて行きました。


「御機嫌よう、ロバート様?」

「やあ、アンジェリカ! 今日も綺麗だね!」

「ありがとうございます。ロバート様……私、そちらの女性を始めてお見かけするのですが、紹介していただけますか?」


友好的に見えるように微笑みかけて、相手を紹介するよう依頼する。

そんな私に、ロバート様は何も考えていない事が丸わかりな笑顔を見せ、傍らに立つ女性を私の前に導いてくる。


「ああ、良いよ。こちらはローン男爵令嬢でミシェルだよ。二ヶ月程前に別荘に住む側女だった母親から、引き取られたらしい」

「初めまして、ミシェル・ローンです」


彼女は、とてもぎこちない仕草で私に挨拶をして下さいました。

その様子から察するに、どうも教育が十分にされてい無いようですわ。


サラサラとした短めのピンクの髪に緑の瞳。可愛らしい顔立ちにのるあどけない表情。背は私より頭半分程低いでしょうか?

男性というのは、こういう庇護欲を掻き立てる女性が好きな方が多いですわね。

私には、ジェシカの方が余程愛らしく見えるのですが……。


「初めまして、アンジェリカ・フォンティーヌと申します。同じ一年生同士、仲良くして下さいね?」


優雅に見える様に笑って挨拶を返し、さて、とロバート様に向き合います。


「所でロバート様? どうしてジェシカではなく、ミシェル様をエスコートしていらっしゃるのでしょうか? ジェシカは、今、何処で、何を、しているのですか?」


笑みを深めて問いかけると、ロバート様の表情が「まずい!!」とでも言いたげに変わりました。

……ひょっとして、忘ていたんじゃないでしょうね?

自分の笑みがドンドン深くなって行くのが分かります。


「幾らここが学園であっても、婚約者が在籍している者は、その方をパートナーとしてエスコートをするのがルールだと思っていましたが……。近衛騎士団ではルールが違うのかしら? それとも、身体を鍛えすぎたせいで、ルールを理解する事も出来なくなってしまったのかしら?」


この脳筋が!


「し、失礼だぞ! 確かにルールはそうかもしれ無いが、一人見知らぬ地で不安を抱えている令嬢をエスコートするのは、紳士として当然の行動じゃないか!!」


ロバート様が顔を真っ赤にして大声を上げる。

こんな場所で馬鹿なのかしら? 大声を出したせいで、周囲の注目を集めってしまったではありませんか!

この脳筋は、本当に”紳士”って言葉が好きなのですよね。まぁ、多分に意味を履き違えているとは思いますが。


「騎士道でも紳士道でも結構ですが、婚約者をほったらかして泣かせている時点で、どちらも失格ですわ。婚約者以外の方をこの様な場で特に理由もない上、婚約者を放ったらかしにして説明すらしていないだなんて……。どうしても、ジェシカより彼女を優先してエスコートしたいとお考えなら、しっかりジェシカとの婚約関係を解消なさってからの方が良いですわよ? このままでは、お互いの家名に傷が付きますからね」


最後は無表情に言い捨てて、踵を返しました。

あまり注目を集めたくありませんし、言うだけ言ったらサッサと退散致しましょう。


言外に“脳筋”・“浮気者”と言ったのですが、理解できたかしら?


私達はその後、パーティーへの参加もそこそこに3人で会場を後にし、ジェシカを慰めながら寮に戻りました。

……きっと明日には、今日の事が面白可笑しく噂となって、学園中に広がるのでしょうね……。

……カイル様に、嫌われてしまうかしら?


私は、気づくと今まで騒動を起こしても、一度も考えた事のない事を考えてしまいました……。



翌朝、やはり昨日の騒動が学園内で、尾ひれ付きの話題になっているようでした。


私は、少しでも早く自分からカイル様に説明した方が良いと思い、少し早めの時間に出発の準備を致しました。

カイル様の部屋に先触を出そうとすれば、カイル様の方から先触が届いたので、急いで玄関へ向かいました。

やって来たカイル様は、昨日と同じ甘い笑みで私に笑いかけて下さっています。その時に手渡された1本の薔薇は、まるでカイル様の心を手渡された様に感じてしまい、とてもうれしくなってしまいましたの。


その後の会話の中でも、昨日の騒動に対し私の事を心配して下さるだけで……。カイル様の友人を嘲った私に、苦言を呈する事も無かったのです。


ただ、その後の触れ合いはとても、は…恥ずかしかったですわ!

私の肩を抱き寄せ、横顔にキスの雨が降ってくる。耳元で聞こえる“チュッ”という音が、知らない世界の扉を開こうとしている様で……。


ミシェルさんが木から降ってきた時は驚きましたが、あの触れ合いが止まって良かったのかもしれません。あのままでは、私の心臓はきっと壊れてしまったと思いますから……。

カイル様はその後も、わざとらしい程ミシェルさんを視界に入れず、私の事をだけを心配して下さいました。


今のカイル様の行動、言葉、瞳、あらゆるものから、私への愛情を感じてしまうのですが、私の気のせいでしょうか?

私の婚約者は、こんな方だったのでしょうか?

それとも、昨日会った時には、既に別人に変わっていたのかも……。




カイル様の様子が可笑しいとは思うのですが、この様な変化なら大歓迎だと、私は思っているのです。

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