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1.彼女のお見舞いって、それだけで元気でる

現在俺は、寮の自室にて療養生活を送っている。


エリウスから暴行を受けた俺は、その時受けたダメージが内臓へのものだったとかで、事件から3日も経っているというのに、未だにベッドから出る許可がおりない。俺としては、大した怪我をしたわけじゃ無いのに、トイレ以外でベッドから起き上がる事も許されないこの生活は、ハッキリ言って監禁状態だと思っている。


なんで、城に戻らずに寮で療養生活をしてるんだって思うだろ?

俺だって、どうせ休むなら城に戻ってゆっくり療養した方が良いんじゃないかと思うけど、隣国との外交的な関係もあって、この事件自体を公にする事も出来ないんだよ。

だってさ、皇太子って立場にある俺が隣国の、継承権は下の方とは言え王族に害されたわけだぞ? 普通に考えれば、隣国から我が国に対する宣戦布告と捉えられてもおかしくない。あちらの国にそのつもりなんて全く無い事が解っているから、こちらに有利な外交交渉を条件に、今回の件は穏便に処理されることになったんだ。

そんな訳で俺は、表向きは“風邪による体調不良”という事にして学園寮の自室で、こうしてベットに追いやられている訳だ。


しかも「療養中の暇潰しに、良いものを届けてやろう」というオヤジの手紙と共に、決済待ちの書類の山という執務や、今回の事件全てに関する後始末の報告書が届けられた。


マジであの人は鬼だと思うね!

ベッドから出れない息子への仕打ちが仕事の倍増とか、親のすることじゃ無いだろう!?


でもまぁ、そんな俺を心配して、毎日アンジェリカ、ルイスとジェシカ、ダグラスとエイプリルなんかが見舞に来てくれるし、ルイスは毎回執務を手伝ってくれるのでオヤジに対しては、せいぜい“おこ”程度の怒りしか湧かないんだけどね。


そんな見舞の中でも俺が最も楽しみにしている客は、勿論、アンジェリカの訪問だ。

ダニエルが剥いてくれた果物を、アンジェリカに食べさせて貰うのが、ベッドから出して貰えない俺の、今一番の至福の時なのだ!


「アンジェリカ、次は桃が食べたいな……」


ベッドサイドに置かれた椅子に座るアンジェリカに、甘えて強請るようにお願いすれば


「解りました。ではカイル様、あーんして下さいませ?」


一口大にカットされた桃を、フォークで突き刺して口元まで運んでくれる。


アンジェリカの「あーん」という言葉に合わせて口を開けば、一口大に切り分けられた瑞々しく甘い果実が口の中に入って来た。

いつも思う事だが、アンジェリカに食べさせて貰う食べ物は、どれもこれも通常より数倍美味しく感じるから不思議だ。


「アンジェリカに食べさせて貰うと、食材の旨みが何倍も増す様な気がする……。やっぱり、君の俺に対する愛情が、たっぷり入っているからかな? なんて、な」


思った事は、素直に伝えておこう。


使い古された口説き文句の様な言葉だが、アンジェリカには効果があった様子で、彼女は俺の言葉に真っ赤になり、俯いてしまった。

だがしかし、アンジェリカ()も負けてはいなかった。


「私の愛情も確かに入っていますけれど……。きっとそれよりも、カイル様が私の事をとても好きだと思っていらっしゃるから、そのせいで余計に美味しく感じるのだと思いますわ!」


真っ赤な顔で俯いたまま、口早に小さな声でこんな事を言ったのだ!


だ き し め た い !


なんでアンジェリカはこんなに可愛いんだろうね?

俺を誘惑する為に生れて来たんじゃないかと、本気で疑ってしまう。


今すぐにでも、抱きしめたくて堪らないけれど、ここは寝室だ。

なんともお誂えすぎる!

抱きしめるだけでは、まず済まなくなるだろう危険な予感で一杯だ!


なので拳を握りしめて、必死に我慢しているというのに……。

アンジェリカってば……。


何かを期待するように、チラチラと俺の様子を窺ってくるんだよ!?

多分、無意識なんだろうけど、自分の唇を人差し指でそっと触れたりして……。


なんですか、その仕草は。

キスの催促をされていると思って、良いのかな?

いや、そうとしか考えられないよな!?


流石は、アンジェリカだ。俺がこんなに必死で我慢しているというのに、そんな俺の努力など鼻で笑うかのように見事な誘惑を仕掛けてくる。


アンジェリカが無防備すぎて、辛い……。

俺だって、健全なる青少年なんだぞ?

そんな挑発されたら、ムラムr……ゲフン、色々我慢できなくなっちゃうよ!?


でもそこは、“攻略対象人気ランキング1位のイケメン皇子様”としてのスキルを思う存分発揮して、なんとかやり過ごさねば!


「それはちょっと違うかな?」


真剣な顔でアンジェリカの言葉を否定すれば、彼女の表情が悲しげに歪んだ。

俺の言葉で、彼女に対する俺の好意が自分が思うよりも低いと受け取ったのだろう。

思わずと言った感じに俯いてしまったアンジェリカ。そんな、俺の思い通りの反応を見せてくれる彼女に向かってそっと手を伸ばし、そのなめらかな頬に促す様に触れ、俺に視線を向けさせる。


「俺は、アンジェリカを“好き”なんじゃなくて、“愛している”んだ。そこは間違えて貰うと、困るかな?」


“下げて上げる”の定石通りに、愛しさを視線に乗せて彼女に微笑みを向け、口説く気満々でそう言葉を紡いでアンジェリカの頬に口付けた。


本当は、ここで止めるつもりだったんだけど……。

やっぱりそこは()少年。走り出したら止まれないよね?


と、いうわけで。

彼女の手から、果物の乗せられた皿を奪い、サイドテーブルに置く。

そうして空いた手を握って引き寄せ……


ガチャッ!


……ようとした所で、わざとらしく音を立てて寝室の扉が開いた。

元から閉じてなんていなかった扉を、わざわざ音を立てて開いたのは、勿論ダニエルだ。


元々こんな状況で何かを出来る訳なんて無かったし、ダニエルが止めに入るのも計算通りなんだけど……。やっぱり、邪魔されると悔しいと思うし残念だ。


「失礼致します、殿下。本日の分の書類をお持ちしましたので、今日中に目を通しておいて下さいませ」


涼しい顔で用件を伝えてくるダニエルを、恨みがましい眼差しで睨むように見つめてみた。


「殿下、そんな目でわたくしを見ても、ダメですよ? 理由は、言われるまでもなく解っていらっしゃいますよね?」


「やれやれ」とでも言いたげなダニエルの視線が俺に突き刺さる。


その聞き分けの悪い子供に向ける様な視線は止めてくれ!

俺は悪くない! 健全な青少年なんて、皆、頭の中は似たり寄ったりの筈だ!!

お互いに好意を持っている男女が、こんなシチュエーションで一緒にいたらそういう雰囲気になってもおかしくないんだぞ!?

現代日本なら、この年齢のカップルなら当然致していることだっていうのに、この世界の倫理観のせいで!


まぁ、俺達の立場で婚前交渉なんて許される筈もないし、もしそんな事をしてしまえばアンジェリカの社会的な評判に大きな傷が付いてしまう。

彼女を本気で愛しているなら、最低でも後3年は我慢しないと……。


……頑張れ! 俺!!


全てのリア充どもを呪いながらも、伝説の『大賢者カイル』となる為に、もっともっと修行をつまなければ!

見ているがいい!

俺は必ずやり遂げて見せる!

30歳まで待たなくても、10代でも大いなる魔法使いになれるんだって所を見せてやんよ!!


誰にともなくそう誓って、アンジェリカにも誓いを立てるように、その柔らかい手の甲と頬に口付けをした。

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