きす・キス・Kiss
ミシェル母視点の話を書いていたのですが、どうしても文章にならないので、諦めました。
今回は、活動報告にアップした物を加筆修正した物です。
時期的には、ルイスの閑話「発情した彼女の慰め方」直後、婚約を申し込むお話になってます。
長年夢に見ていた、“ジェシカと婚約”が成立した。
『媚薬事件』の翌々日の夜、目が覚め理性の戻ったジェシカは、とても気まずそうな表情で、窺うように僕を見ていた。
ベッドの上で何とか身体を起こした彼女は、所在無さげに俯いて、目だけを僕に向けている。
「お、はよぅ…御座います……」
彼女は、泣きすぎて腫れてしまっている瞳をショボつかせ、大声をあげすぎて掠れた声で恥ずかしそうに挨拶をしてくる。
そんな可愛らしい彼女に、僕は跪いて、ピンクの薔薇で作った小さめのブーケを差し出した。
「ジェシカ、……僕の可愛い人……。どうか僕と結婚して下さい」
プロポーズの言葉は色々考えていたはずなのに、可愛い彼女を前にしたら、何も言葉が出てこなかった。
何の捻りもない、只々結婚を求める言葉。
我ながらダサ過ぎるとは思うけど、これまでの辛かった日々を思い出したり、昨日の彼女の痴態を思い出したりで、頭の中が少しパニックになっている僕には、気の利いた言葉なんて吐き出せない。
何時もの笑顔を顔に貼り付けるだけで精一杯だった。
緊張しているのを悟られるまいと、必死で笑顔を取り繕っていたら、目の前のジェシカの表情が、見る見るうちに悲しげなものに変わってきた。血が出るんじゃないかという程に唇を強く噛み締めて、俯いてシーツを見つめている。瞳には涙が溜まっており、今にもこぼれ落ちてしまいそうだ。
え!? なんで??
僕は、ジェシカがどうしてそんな表情をするのか理由が解らなくて、オロオロしてしまったのだが、気合いでそれを表情に出す事はしなかった。
辛そうな顔をして何も言葉を発しないジェシカに、僕は笑顔でブーケを差し出したまま、返事を待ち続ける。
側から見れば、僕は余裕がある様に見えるのかもしれないが、実際の所は大パニックだった。だって、ジェシカの表情はどう見ても、プロポーズされて喜んでいる様には見えなかったから。
「ルイス様……。今回の事は、気になさらなくて良いのですよ……? 私の浅はかな行動が招いた結果、なのですから……。」
ジェシカはそう言いながらゆっくりと顔を上げ、僕を見つめて静かに涙を溢れさせ、痛々しく微笑む。
「ルイス様が、責任を感じる必要なんて、ありません……」
何てことだ!
ジェシカは、僕が責任感で彼女にプロポーズしていると思っているらしい。確かに、こんな風に何日も部屋に連れ込んでしまったのだから、責任を取るのは当然だ。
でも、僕が彼女を部屋に連れ込んだのは、彼女の事が好きだからで、プロポーズをしたのも、“僕”が彼女を手に入れたいからだ。
……まてよ……。
そういえば僕……。ジェシカに「好きだ」って、伝えてないんじゃないか……?
僕の気持ちを何も知らないジェシカが、緊張で引き攣った笑顔を貼り付けた僕にプロポーズされたら……。
誤解されて当然だ。
僕は焦った。
彼女に気持ちを伝えたいが、今、慌てて「好きだ!」なんて言っても、信じて貰えないだろう。ジェシカの事だから、「私の為に自分の気持ちを偽って……」なんて言い出しかねない。
……少し卑怯な気もするけど、行動で気持ちを伝えてみようか?
そう思った僕は、ジェシカの隣ーーベッドにゆっくりと腰掛け、ブーケをシーツの上に置いた。そっと彼女の後頭部に手を当て、ゆっくりと彼女の髪を撫でる。
おずおずと僕を見る彼女に視線を合わせたまま、そっと空いた手で彼女の手を取り、指をからませる様に握る。そのまま少しずつ顔を近付けていくと、ジェシカが逃げる様に顎を引いたので、少しだけ顔の距離を離した。
「好きだよ……。昔から、ずっと……」
彼女に聴こえるかどうかという程の声量で囁いて、再び唇を寄せていくが、やはりジェシカは顎を引いてしまう。
でも、丁度良い位置に彼女の額があるので、そこに音も立てずに唇を触れさせた。
そのまま、額の上で位置を少しずつ変えながら何度も唇で触れ、少し顔を離して彼女の表情を窺う。後頭部に置いた手で、髪を撫でながら、時々くすぐる様に耳元にも触れる。
ジェシカは、ウットリと蕩けそうな表情で瞳を閉じていた。
可愛すぎる!
思わず漏れてしまう微笑みをそのままに、芽生えてしまったいたずら心のままに彼女の鼻の頭に「ちゅっ」と音を立てて口付けた後、そこをペロリと軽く舐めてみた。
途端に、驚いた様にジェシカの瞳が開かれる。
「ふふ……。ジェシカ……、可愛い……」
小さく呟いて頬にリップ音と共に口付けると、ジェシカも恥ずかしそうに微笑ってくれた。
その表情が可愛くて、額と額を付けて彼女の鼻の頭に僕の鼻を軽く擦り付ける。
「好きだよ、子供の頃からずっと……。いつか、ロバートから略奪しようって、ずっと思ってた……」
上目遣いで、僕の様子を窺う様に見つめているジェシカに、もう一度小さく思いを告げる。そのまま、かすめる様に唇に触れると、ジェシカの瞳に再び涙が溜まり始めた。
でも、今度の涙は辛いものではないようだ。
何故なら……、彼女は幸せそうに微笑んでいたから……。
「好きだよ……、愛してる。これまでも、これからも、ずっと……」
小さく囁きながら、何度も掠め取る様に唇を触れさせ、少しずつ長く深いものへと進化させていく。
クッタリと彼女の身体から力が抜け、僕にもたれかかってくるまでキスを続け、トロトロに彼女が蕩けた所で、もう一度額を合わせて至近距離から甘く見つめた。
「ジェシカ……。僕と結婚してくれる? 「はい」って言うまで、この部屋から出さないし、キスし続けるよ?」
そう宣言して、本気だと証明する様に軽くキスする。
後頭部に回していた手を外し、ベッドの上に放り出していたブーケを拾って、僕の服の胸元にしがみついていた手を外してジェシカに握らせた。そのまま、“受け取り拒否”などさせないように、ブーケを持つ彼女の手を上から包み込む。
Yes以外の返答は認めないと、態度でも充分に示しながら、僕は、必死で彼女を口説きに掛かった。
「僕は、どんな事をしても君を手に入れる。食堂でロバートが騒ぎを起こした時も、内心ではやっと君を手に入れられるって喜んでたんだ……。今回だって、君を逃さない為に部屋に連れ込んだ」
言葉の合間合間で、何度も口付けながら、ブラック過ぎる僕の本性を伝える。僕の執着を彼女に知られるのは怖かったけれど、どれだけ僕がジェシカを求め続けていたのかを知って貰いたかった。
絡めるように握りしめていた手を離し、彼女の頬に添え、角度を変えながら何度も何度も口付けを繰り返し、彼女を蕩けさせてから、そっと唇を離した。
「君の心が、まだロバートに残っているのは知ってる……。でも、諦めて僕のもになって……?」
唇が触れそうな程の至近距離で、すがる様に告げた僕に、ジェシカは初め、驚いた様な表情をしていた。しかし、その表情を徐々に穏やかで優しい微笑みへと変えていき、彼女の方から僕にそっと口付けてくれた。
「私の心はもうとっくに、親友の優しいお兄様に奪われてしまっています……。この先ずっと……、私だけの王子様で、いてくれますか?」
ジェシカからのキスの後、はにかんだ様に彼女に問われた。
シャイな彼女からの精一杯の告白。僕は嬉しくて、自分がどうにかなってしまうじゃないかと思った。
「もちろん! 死が二人を別つまで……、いや、例え死に引きさかれても、君だけの王子でい続けるよ……! ……ジェシカ……、愛してる」
その後は、唇が腫れてしまうほどに、何度も何度も長い時間キスでお互いの気持ちを確認し合った。
こうして無事、僕は最愛の彼女を婚約者にするとこが出来たのだった……。
溺愛・ゲロ甘が上手くかけなくて、リハビリがてらに書いたのですが、糖分がイマイチ足りない……。
今回、此方に投稿するのに見直しもしたのですが、やっぱり糖分追加が出来ない。