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5 どうやら俺の攻略ルートが始まったようだ

俺の上に降ってきたのは、ピンクの髪に緑の瞳を持つ少女ーーこの物語のヒロインだった。

ゲームを見てる時から思ってたけど、何でこいつは“木に登る”なんて普通ではあり得ない選択肢を選んだのか……。『子供の頃を思い出して』なんてゲームでは言っていたと思うが、完全なDQNの思考だよな。

メルヘン脳ってヤツか? こういう痛い行動って、好意を持ってる子がやれば許せるがある、嫌いな奴がやると、スゲェ癇に障るよな?

その行動で被害を受けたとなれば、尚更に腹立たしい。


ヒロインであるビッチの頭が、葉っぱだらけになっているのを不快な気持ちで眺めながら、そんな事を考える。

うわっ! 虫までついてるじゃないか ……。


そうして、俺は、腕の中に落ちてきたモノに向って、つい、キツイ眼差しを向けてしまった。

だってそうだろう?

直前まで俺はアンジェリカと密着してたんだぞ? もし、コイツが落ちてきたせいで、彼女が怪我をしたらどうするんだよ!

命を持って償ってくれるのか?


「あああぁぁぁぁ!ゴメンなさい!木に登ってたらバランス崩して落ちちゃって!!」


膝の上から何か戯言が聞こえてくるが、俺は今、それどころじゃ無い! 俺には直ぐに確認しなければならない、大事な事があるんだ!!


「大丈夫かい? 怪我しなかった?」


肩に回していた手をアンジェリカの頬へ移動し、見える範囲だけでも、目視でザッと全身の確認をする。


「……ええ、大丈夫ですわ……」

「はい! 大丈夫です! あ、でもちょっとすりむいちゃったかも?」


俺の問いかけに、二カ所から返答が返ってきた。

まだ膝の上に乗っている方。うん、お前の怪我など、どうでもいい。ホント、心の底から、どうでも良い。


取り敢えず、見える範囲でアンジェリカに怪我は無いようなので、ホッとした。

なら次は、皇子の義務として行動しなければならない。……かなり嫌だけどね。


「怪我をされたんですね。では、医務室までお送りしましょう。」


貼り付けた公的な笑顔を、膝の上の物体に向けて、心は全くこもってない優しげな声をかけると、物体は嬉しそうに頬を染めて俺に見とれている。しかも、厚かましい事に、胸元にしがみついてきた!


「ダニエル!」


ややイラついた強めの声で俺が呼ぶと、どこからともなくダニエルが現れる。

……いや、呼んだ俺が言うのもなんだけど、気配消すの上手すぎだよな。忍か?忍なのか?


「このお嬢さんを、医務室にお連れしてくれ」


イラつきを押さえて感情の無い声で伝えると、ダニエルが「畏まりました」と返事しながら、俺の膝の上から物体を撤去してくれた。


「私は、大切な用事があるので、医務室まで連れて行って差し上げる事は出来ません。なので、何かあればそのダニエルにお願いしてくださいね?」


やり手の営業マン並みの笑顔と声色で、物体にそう告げると、後ろを振り返りアンジェリカに手を差し伸べ立ち上がるよう促す。

後ろで物体が何か言っている気がするが、俺には聞こえ無い。


「アンジェリカ、一度寮に戻ろう。制服のスカートに、足跡が付いてしまっている。もしかしたら、痣ができているかもしれないからね? どこも痛くない? 一応、ちゃんと、医師に診てもらって?」


アンジェリカは大丈夫だと主張するが、それだけじゃあ俺的に納得できない。医師に診察してもらって、大丈夫だと言われるまでは安心できないんだ。

眉間にシワが寄りそうになるのを必死でこらえ、少し悩んだがアンジェリカを抱き上げてしまうことにする。

靴の跡が付いていたのは、肩と太ももの辺り。もしかしたら、痛めてしまったかも知れないと思うと、とても歩かせることは出来なかった。


「お、降ろして下さいませ!私、歩けますわ!」


なんて声が聞こえるが、勿論却下だ。歩けるかどうかなんて、今はどうでも良いんだ。俺が(・・)、歩かせたく無いんだから。

無言で女子寮まで運び、寮の前で連絡を受けて待っていた侍女に、アンジェリカの部屋まで案内して貰う。

そっと、彼女をベッドに横たえさせ、侍女に先程の出来事を説明し、念のため医師に診てもらうよう指示しておいた。

今日の説明会には無理して出席し無いように伝え、後ろ髪を引かれる思いのまま、俺は彼女の部屋を後にした。


本当は、医師の診察にも立ち会いたかったのだが、説明会の時間が迫っていたので諦めた。

必ず結果を知らせる様に、何度も念を押してしまったが、それ位は勘弁して欲しい……。



アンジェリカは、俺が薔薇を渡してからずっと、部屋に戻ってきてからも、大事そうに胸に抱えていたのだが、その姿が何だかとても印象に残った……








くそ! くそ!! くそ!!!

何であんな大事なこと忘れてたんだ、俺!

今朝、”隠しキャラ攻略or逆ハールート”に入ってるのには気づいていたのに!


説明会の会場まで足早に歩きながら、自分を罵る。

自分の迂闊さが呪わしい。

さっきのは、カイルとビッチの出会いイベントだ!


確かゲームでは、あの場所で昨日のパーティーでのアンジェリカの言動を軽く注意し、言い争いになってたんだ。

そこにビッチが木から降ってきて、カイルはアンジェリカを置いて、ビッチを医務室に運ぶ。

其処から2人が微妙にすれ違い始め、嫉妬したアンジェリカが徐々に壊れていき、ビッチをいびり出すんだったよな……。


……あれは、見ている俺の方が心が痛んだ。ゲームだって解っていても、だ。


怒りと共に、その時の胸の痛みも蘇る。


ゲームでも、カイルは用事があって歓迎会に出席出来なかった。だから、ロバートから伝え聞いたアンジェリカの言動を真に受けて、諌める様な事を言ったのだ。

あの(・・)ロバートの言葉を間に受けて、だ。考えられないだろ?

今の俺からすれば当然と思うアンジェリカの行動を、ゲームのカイルは、当然とは思っていない様だった。

納得がいかないアンジェリカが、カイルに反抗して言い争いになる。

「木でも登ってみようかしら」なんて電波な選択肢で木の上にいたビッチは、下で始まった言い争いに興味を惹かれる。よく見ようと身を乗り出して、木から落ちるんだったよな、確か。(今回は、下で始まったイチャイチャを、デバガメしようとでも思ったんだろうな……。)

カイルは、アンジェリカと気まずくなった空気を壊すように現れたビッチを、その場所から……アンジェリカから離れる口実として利用した。

あの出会いイベントは、そんな流れだったと思う。


多分、出会いイベントは中途半端だった為、成立して無いと思うが……。

っていうか、医務室まで運んだのはダニエルなんだし、このまま”幻のダニエルルート”に突入してくれないだろか?

そんな馬鹿な事を考えてみる。

もし成立していたとすれば、次の大きなイベントは確か……五日後のアレだな。


回避したいが、アレにはアンジェリカが関わっている。彼女の性格からして、スルーは出来無いだろう。その間の、学園内での遭遇・親密度を上げる為の会話は、遭遇場所を避ければスルー出来る筈だ。

なら俺は、五日後までの彼女のフォローと、五日後の事後処理の手配をしておこう。


そして一番大切なことだがーーーー

アンジェリカを口説き落とし、彼女の気持ちを確認する!

俺の愛情に不安を持た無いように、デロデロに口説いてみせる!!



俺はそう決意すると、眉間に寄っていたシワを消し何時もの貼り付けた笑顔で会場の扉を開いた。

ビッチ登場ですが、主人公は彼女が嫌いなので、名前すら出してくれません。

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