《閑話》 プライドの在り方(エリウス)
また間が空いちゃいました(汗
この話、スゲー重くて、書くのかなりしんどかったです…
執事には、絶対に無視してはいけないとされる“領分”と言う物があるーーー。
俺は、代々優秀な執事を輩出する家系に生まれた。その中でも俺は、血族から歴代最優秀と言われるほど、強い能力を持っていた。
物心が付くころには、執事になる事を当たり前の様に考えていた俺は、当然の如く執事教育の学校へ入学した。
そこでも俺は「優秀だ」と皆から持て囃されていたのだが、2学年上にも優秀な奴がいるらしく、いつもそいつと比べられている気がしていた。
「君も、ダニエルくんもとても優秀だから、将来が楽しみだよ」
「ダニエルも、歴代で一番優秀だって話だぞ」
周囲から聞かされるそんな話に、俺はいつもイラついていた。
俺は、その男と直接会った事は無かったが、とてもそいつが嫌いだった。
“優秀”と認められるのは、俺だけで良いのだ。俺以上に優秀な奴等、いる筈が無いのだから……。
その男が卒業する時に「歴代最優秀」の肩書を貰ったと知った時、俺は二年後にはその肩書が自分の物になると信じて疑っていなかった。
いくら優秀と言っても、血統の良い俺より優秀な筈が無いと思っていたから。
まあ、たった二年でも「歴代最優秀」という肩書に陶酔して、誇りに思っていればいいさ。
その良い気分は直ぐに、俺が砕いてやるよ……。
その男が仕える事にしたのが皇国だと聞き、二年後には「歴代最優秀」の肩書を奪い取って、同じ皇家に仕えてやろうと思っていた。
スグ側で、「歴代最優秀」の肩書を奪ったヤツと同じ皇家で働く事で、ヤツのプライドをボロボロにしてやりたかった。
なのに……。
「なぜ、俺が“歴代最優秀”じゃないんだ!!」
卒業式の後、自室に戻った俺は大声をあげて室内を破壊する。今、この破壊衝動を押さえる事は、とてもできなかった。
卒業の日、学年最優秀には選ばれたが、それだけだった。
なぜだ!?
俺の方が優秀な筈だ!
なのに、何故認められない!!??
……認められないなら、認めさせるまでだっ!!!
周囲に俺の優秀さを認めさせるためには、どうすれば効率的だ?
どうすれば、奴より俺の方が優秀なのだと、周囲に知らしめる事ができるんだ……?
同じ皇家に仕える気持ちなど、すでになかった。
そんな事は、俺のプライドが許さない……。
例え現段階であろうと、俺より優秀と言われている男と同じ場所に居るつもりはなどないのだ!
配属先を選ぶ為に、依頼書に目を通す。
何処を選ぶ?あの男より優秀だと証明できる場所は何処だ??
王家と言うのは外せない。
その上で、あの男と縁を繋げる場所……。
探せ!必ずある筈だ!!
あの男より俺の方が優秀だと示せる配属先が!
次々と依頼書に目を通していれば、一つの書類が目に付いた。
それは、ある王室からの依頼書。その依頼書を手に取った時、あるビジョンが見えたのだ。
皇国にある学園で、あの男が皇子に仕えており、一つ上の学年にこの依頼書が出ている王国の王子がいた。
王子2人の関係は良く解らない……。
未来が何通りにも分岐し、運命が定まらないようだった。
コレだ!
この王子に仕えて、あの男と同じ様な土俵と立場に立てば、俺の方が優秀だと言う事を証明できる筈!!
ヤツの仕える皇子より、俺の仕える王子の方が評価されれば……。
俺が仕えれば、どんなボンクラ王子でも、優秀な人物に仕立て上げる事が出来るだろう。
そしてこの王子を上手く利用して、あの男の仕える皇子を失脚させれば、俺の方が優秀だと皆が認める筈だ!
俺の仕える先が決まった瞬間だった。
予定通り、俺の仕える王子は学園に入学した。
元々出来の良い王子じゃなかった事もあって、今のところ目立って優秀さを表出させる機会がない。
出来は良くないくせにプライドだけは高い王子は、油断すれば何かと問題を起こしてくれる。それを防ぐだけでも、執事にはかなりの優秀さが必要だ。
可も無く不可も無い日々。
当初の予定とは違っていたが、あの王子をここまでコントロールできる執事はいないと、自負していたし、周囲からも評価されていた。
「やはり、エリウスは優秀だな」
そんな評価が、俺の自尊心をくすぐってくれる。
俺だからこそ、この王子を抑える事が出来ているのだと、自信を持ってそう言える。執事になる事を決めてから、初めてこの仕事を楽しいと感じるようになった。
あの男の事は気になってはいたが、最近では、昔程の憎悪を感じなくなってきていた。
そんな生活に変化が訪れたのは、王子が、今年入学した一人の新入生と急接近してからだった……。
俺の仕える王子は、その新入生の女に異常な程の興味と執着を見せた。
その女は俺から見れば、節操のないバカな尻軽女にしか見えなかった。しかし不思議な事に、この売女のような女に誑かされた男は何人もいたのだ。
女が目を付けて誘惑した男どもは、見事な程に女の虜になっている。……たった1人を除いて……。
そのたった1人が、あの男の仕える皇子だった事が、俺のプライドにヒビを入れた。
何故だ。俺の仕える王子より、ヤツの仕える皇子の方が優れていると言う事か?
それとも、ヤツが皇子に上手く仕えているから、あの程度の女に引っかかる事がないのか!?俺が王子に上手く仕えられていないから、あんな女に引っかかったとでもいうのか!?
それでは、俺よりヤツの方が優秀だと言う事になってしまう!そんな訳が無いだろ!?
きっと、ヤツが“領分”を無視して切っ掛けを潰しているんだ。そうに違いない!!
そうでなければ、俺はヤツに負けていると言う事だ!そんな訳が無いんだ!!
今までにない、何かドロドロとしたもので心が満たされるのを感じた。
どうすればヤツの皇子を、俺の王子の位置まで引きずり落とす事ができるのか。俺の頭の中はその事で一杯だった。
その時、俺の中に今までとは違うビジョンが浮かんだ。それは、明らかに“領分”とは違う。
もっと高次元の物……。そう、それはまさしく“神”の領域。
俺は、“理”が見える様になったんだ!
神が定めしこの世の理。
そんなものが見える様になった俺は、もう只の執事ではない。神の使者として、活動する必要があるんだ!その為なら、“領分”を侵す事なんてどうでも良い!!
それからの俺は、理の中で活動した。
皇子とその婚約者の仲をさき、皇子の目が売女に向くように色々画策する。その為に、領分など積極的に無視した。
女の取り巻き共を上手く誘導し、色々な計画を実行したが、どれも思うような結果を出さなかった……。
全てアイツと皇子に邪魔され、阻まれてしまったのだ!
何故だ!!俺より、ヤツの方が優秀だと言いたいのか!!??
俺には理が見えている!俺の方が優れている筈なんだ!!なのに、何故!!!
そうか……、“バグ”だ。
あの皇子は“バグ”なんだ。
神の理から外れてしまった存在。それは、“バグ”でしかない。
だから、俺の計画が邪魔されたのだ。決して俺よりあの男が優秀だった訳ではないのだ。
あの男は、バグである皇子を利用して、神の理を無視しているだけに過ぎないのだ。
それなのに……。
「君も執事として、主の行きすぎた行動はしっかり諌める様に。」
バカな俺の王子が、カフェテリアでヤツの皇子に暴挙を起こした際、ヤツに言われたこの言葉。
この言葉で、俺の執事としてのプライドは粉々になった。
もう、王子が破滅しようと構わない。それで俺がどう評価されようと……。
しかし、お前達の事は絶対に許さない!!
バグは消滅させる必要がある。理から外れる存在など、俺は絶対に認めない!
あいつらの所為で俺の全てが狂ったのだ。その責任は取ってもらわなければいけない。
俺の事など、眼中にも入れていないあの男も、何時でも飄々と危機をかわしていく皇子も!!
必ず、思い知らせてやる!
選民意識って、突き抜けると怖い…。
 




