《閑話》 予測は予想であって、確実ではありません(ダニエル)
お久しぶりです!
体調不良で、寝込んでましたw
あの部屋の様子は常に窺っておりました。
ヘンリー王子の殿下への執着の種類は知っていましたので、命の危険が無い事は解っておりました。さらに、その執着から、他の人物が居る場所で、見せつける様な行為を避けるだろう事も計算しておりましたので、殿下に直接的な被害は何もないだろうと踏んでいたのです。
あのタイプは、“お気に入り”は誰にも見せずに、自分だけで楽しむものですから……。
それに、あの小物臭溢れる王子には大した事など、出来はしないだろうとも思っておりました。
その侮りが、今回の失策となってしまったのでした……。
殿下の運命は見る事が出来ないので、今回の事も予測だけしかできませんでした。しかし、彼らがどんな魔術具を使用するのかは知っておりましたし、性格から行動の予測もたつので、私の予測が外れる事など考えてもおりませんでした……。
なので、アンジェリカ様の部屋へ向かう際に、殿下を“餌”として残したのです。スムーズに彼らを“完全排除”するために……。
まさか殿下に“停止の魔術”が効かないとは……。
殿下の大切な方々へ向け、いつも、わたくしは魔力で網を張り巡らせております。
あの方達に何かあれば、一番ダメージを受けるのは殿下ですので。
殿下にお仕えする上で、一番気にかけて置かなければならない事が、殿下の周囲の人物の安全なのです。
殿下に気付かれないよう、脅威を排除した事も一度や二度ではありません。特にジェシカ様とアンジェリカ様には、ヒューイ様からの魔手が何度も延ばされました。
どうやらヒューイ様は、アンジェリカ様だけではなく、ジェシカ様の事も懸想していたようで。お二人を手に入れようと、それはそれは色々と画策しておいででした。
どれも幼稚すぎる上、力ずくな計画ばかりでしたので、執事間で情報をやり取りする程度で、難なく防げたものばかりだったのですが……。
しかし、その計画にヘンリー王子が絡むようになって来てからは、中々侮れなくなって来ていました。
ヘンリー王子が、侮れない人物だと認識したのはその時なのですが、その後の言動を見ているとどう見ても、“幼稚な精神構造をした金持ちのバカ息子”といった風にしか見えなくて、大いに混乱したものです。どうにも漂う小物臭、穴だらけの計画、なのに隙のない計画準備と実行、これらのアンバランスさが、彼の評価を歪めておりました。
今考えれば、全て執事のエリウスの采配だったのでしょうね……。
カイル殿下が時々「ゲーム補正か……」等と、ブツブツ言っている時があのですが、最初は何の事だか理解できませんでした。しかし、殿下がその様におっしゃる時と、そのとき起きた出来事を照らし合わせていると、段々どういう事なのか解ってきました。
恐らくその『ゲーム補正』の影響なのでしょう。全く、運命の中に見えもしなかった出来事が起こる事があるのです。
殿下に関わる運命は、元々見えないものが多いのですが、それでも多少は前後の状況等で見えるものなのです。
なのに“全く”予期しない出来事が起こる。
例えば、この間のブラッド教師による誘拐や、今回のアンジェリカ様の部屋の異空間転移のように……。
原因は恐らく、この世界における“理”。
ミシェル様の話では、この世界は彼女が以前生きていた世界で“創り出された物”らしいですので、“神”の定めたシナリオがあるのでしょう……。
その辺りの事を考えると、何故だか、カイル殿下は“理”から、外れている様に感じます。
殿下が理から外れている理由。
隠しておられますが多分、殿下もミシェル様と“同じ”なのでしょう。そう考えれば、殿下の存在が急に面白くなったのも、あの預言者の様な言葉も、ミシェル様の話への理解が早かったのも、全て納得がいきます。
そして、彼に近しく接している者達も、理から外れやすくなっているようです……。理から外れるという事は、神の定めたシナリオから外れるという事。
ただ、それでもどうしても起こってしまう出来事は、逃れられない運命なのだという事でしょう。
そして、理から外れてシナリオを妨害するものは、世界から異端文章と認識されてしまいます。
今、殿下が危機に面しているのは、世界がバグの排除に動いているせいなのかも知れません。
わたくしは、アンジェリカ様の部屋を、異空間から元の空間に戻す作業を行いながら、殿下の部屋の様子を常に監視しておりました。
わたくしの意識は、常に殿下の近くに置いておりますので、殿下の様子は全て解ります。
なので、殿下に“停止の魔術”が効いていない事を知った時には、とても驚きました。さらに、「気持ち悪い」という理由でヘンリー王子を叩きのめした時には、思わず「何をしているのですか!?」と声を出してしまいました。
大人しくしていれば、危害を加えられる事も無いのに、一体あの方は何を考えているのでしょうか……?
わたくしの予測では、殿下は停止の魔術で捕えられ、身動きが出来なくなる筈だったのです。そうすれば、安全に時間を稼げて、“皇国に仇なす隣国の問題王子”を速やかに排除できる予定でした。
殿下がヘンリー王子に危害を加えた事により、エリウスは殿下を“排除すべき脅威”と認識したようでした。
それでも、本来なら拘束して終わりの筈なのですが、殿下はあの通り飄々とした所がありますので……。
窮地に立たされても、その状況を楽しんでいる様な……。
それが、エリウスには堪らなく腹立たしかったようで、殿下に暴力をふるい始めたのです!その際に、「バグは消えろ!」と言っていたので、彼も殿下が理から外れている事に気づいているのでしょう。
このままでは、エリウスは殿下を殺すまで殴り続けるに違いありません!
わたくしは、取り急ぎ作業を速めて、急いで殿下の元へ向かいました。
「遅いぞ、ダニエル。」
戻ったわたくしに向けた殿下の第一声、しかし、その言葉を発した殿下は何時もの飄々とした様子を崩す事もありません。
殿下のその言葉を聞いた時、わたくしはとても微妙な気分でした……。
予測を外した、執事として不甲斐ない自分への怒り。執事の領分を弁えない、エリウスへの怒り。
そして、殿下のわたくしを責める様な言葉には、全く責める気持ちは籠められておらず……。自分の容姿を気にしているだけ。
そんな、ある意味暢気な殿下に呆れてしまい……。
正に、身体から力が抜けるようでした。
しかしそんな暢気に見えた殿下ですが、受けた暴力の影響はやはり大きかったようで、アンジェリカ様の無事を確認すると、そのまま気を失ってしまったのです!
わたくしは、慌てて殿下をベッドに運びました。
内臓に大きなダメージが無い事を確認し、自己回復の魔術を殿下に掛け、室内に治癒の促進を図る魔術具を設置し、医師の手配をしました。
意識の無い殿下の顔色は、紙のように白くなっていて……。
わたくしは、自分でも今の自分の表情が、凶悪になっている事が解ります。
隣室に戻ると、ルイス様がヘンリー王子を魔術具で拘束している所だったのですが、コチラの表情もまさに“魔王”。
「ダニエル、カイルの様子は?」
「大きな問題は御座いません。自己回復の魔術と、治癒促進の魔術具で対応しております。医師の診察も手配致しました。」
「そう………。」
わたくしの言葉で、幾分か安心した様子のルイス様ですが、その笑顔は魔王のままです。
きっと彼の考えている事も、わたくしと同じなのでしょう……。
自分の不甲斐なさに怒りを感じ、そのはけ口を探している。そして、はけ口として丁度良い人材が、直ぐそこに……。
さて、どうやって償って頂きましょうか?
エリウス視点の閑話も考えてるのですが、入れるかどうするか悩み中です。