42 ヤンデレがツンデレになると、デレが消える
本日、もう1話更新してますので、最新話に飛んできた方は、1話戻って下さい。
アンジェリカ達と合流した後、俺達は直ぐにヘンリーの元から逃げ出した。
イングリッシュガーデン風の中庭でティータイムを楽しんだ後は、それぞれ目の届く範囲でデートを楽しむ。
俺達は恋人繋ぎで手を繋いで、薔薇のアーチを潜り、東屋へ向かう。
なんか、ギリギリした表情で此方を睨む亡霊を見た気がするけど、きっと気のせいだ!!
見つけた時は、思わず「ひっ!」とか言って、アンジェリカに抱きついてしまった。
俺は女子か!!
俺は声を掛けられても、ホイホイ付いて行く事はないから、大丈夫だ!
だから怯える必要はない!!
………でも、もう少し勇気を持てる様に、アンジェリカを補充させて欲しい…。
アンジェリカは、俺の様子がおかしい事に気付いているようで、彼女を抱き締めている俺の背中に手を回し、背中をポンポンしてくれる。
アンジェリカは、俺の背中を慰める様に軽く叩いた後、俺の胸を軽く押して2人の間に少し距離をとった。
「どうされたのですか、カイル様?」
胸に手をついたまま、下から俺の顔を覗き込んで優しく聞いてくる。様子のおかしい俺を心配している事が、その表情と仕草で伝わってくる。
「ん……。最近、いろんな事があり過ぎて、ちょっと……、疲れてるんだ。だから、少しでも元気になれる様に、アンジェリカ分の補充をしたくて……」
もっと、癒して……。
再び抱きしめて小さく囁くと、胸についたままのアンジェリカのから、力が抜けたのが解った。
だから俺は、甘える様に、彼女の旋毛に額を擦りつける。
暫くそうしていたら、再び胸を押されてアンジェリカが俺を見上げて、目を伏せた。口にはしなくても、その意味は理解できるし拒否する理由も無いので、そっと唇を重ねた。そのまま、頬に、鼻先にと唇を落とし、最後に額に口づけてから、もう一度抱きしめた。
すこし屈んで、彼女の肩に額を乗せる。
「俺、情けないな……。ごめんね、アンジェリカ」
彼女にしか聞こえない様に囁く。
アンジェリカは、俺の腕からそっと抜け出し、片手で俺の頬に触れてくる。
「甘えん坊のカイル様、なんだか可愛らしくて……。私は、好きですわ」
はにかむみたいに微笑って、そんな事を言ってくれた。
そんな、可愛い事言いやがって!
俺の方が、もっと好きなんだからな!!
優しくて、可愛いアンジェリカ。大好きだーーー!!
アンジェリカに勇気を補充してもらったから、さっき亡霊がいた辺りに、もう一度視線を向けた……、ら。
あ、目が合った……。
え、なに?こっちに寄って来るの!?
「カイル殿、こんな所でイチャイチャと……。君は卑劣なだけではなく、破廉恥なんだな!!」
近付いて来たと思ったら、いきなり貶された。
いや、破廉恥って……。
そう言えば昔、そんなタイトルのマンガあったよな……。
さっきの俺達、あのマンガみたいにエロス満載な感じだったのか?
ヘンリーの感性が謎すぎる……。
「卑劣な皇子の婚約者が、破廉恥な淫乱女とは何ともお似合いだな!」
ポカン顔で何も反応を返してこない俺に焦れたのか、今度はアンジェリカを攻撃し始めた。
何てことを言いやがるんだ、こいつは!
こんなに貞淑な女性を捕まえて、淫乱呼ばわりとは何事だ!!
コイツの心無い言葉で、アンジェリカが傷つけられたら困る。慌てて彼女の顔を見ると、傷ついている様子は無い。それより、突然現れて喚き出したヘンリーに対しての驚きの方が、強いみたいだ。
一応抱きしめて、ヤツの視線から少しでも隠しておこう……。
……しかし、ヘンリーの選ぶ言葉のチョイスって、なんか古臭い。そして、目的が良く解らん。
どうしたら良いんだ?
取り敢えず、抗議はしておこう。ついでに、軽く嫌味もかましておくか!
「お似合いな俺達は今、楽しいデートの真最中なんだけど……。それを邪魔するとか、隣国はずいぶんと無粋な習慣があるんだね?」
「んな!君は、私の国をバカにするのか!?……君が皇子でなければ、不敬罪で罰しているところだぞ!!」
ダメだ。話にならん……。
それに、どっちが不敬なんだか……。
もう放置しようと思ってたら、ヘンリーの大声に気付いたルイスたちが、此方にやって来た。
心配そうに此方を見るルイスに、小さく頷いて「大丈夫」だと伝える。
「カイル、ソロソロ戻ろうか?」
「そうだな。お互いそろそろ人目のない所に移動したいよな」
ルイスの助け船に乗っかり、ついでにヘンリーも軽く挑発しておく。
破廉恥な俺は、人目の無い所に移動して、婚約者と破廉恥な事をしますよー
って事だ。
案の定ヘンリーは、凄い目で俺を見てる。
俺の事、「どうやって監禁しよう」とか考えてるんだろうな……。
こ、怖くなんて、ないんだからな!
ヘンリーには一言も声を掛けず、俺達は女子寮に向かった。
アンジェリカの部屋で、再び4人でティータイムを楽しんだ。
流石にヘンリーも、女子寮には用事もなく入ってこれるわけもなく、俺たちは、夕食の時間までのんびり穏やかに過ごす事ができたのだった。
「君達は、本当にいかがわしいね。」
食堂でルイスと夕食を摂っていると、またもやヘンリーがやってきた。
もう、勘弁してくれないかなぁ……。超うぜぇよ、コイツ。
俺が、誰かと仲良くしてるのが気にいらないのは、良く解った。
「監禁したい」って思ってるんだろう事も、察した。
俺にアピールする為に、目一杯ツンを体現しているのも気付いた。
でも、うぜぇ。それしか言えない。
だから、無視する。俺には、ヤツは見えないし、声も聞こえない。
「そういえばルイス、あの中庭でジェシカとデートするのは、何回めだったんだ?」
「ずっと忙しくて、そんな暇無かったからね。今日が初めてだよ」
「なら……。あの中庭のジンクスは知ってるか?」
「ああ。あそこでキスしたカップルは、永遠の幸せを手に入れる事が出来るってヤツ?勿論知ってるし、永遠の幸せも手に入れてきたよ。……でもそれは、カイルも、でしょ?」
「まぁ、もちろん外すわけ無いよな」
「だよねぇ」
ルイスも俺と同じ気持ちらしく、俺達はヘンリーには一切反応せず、今日のデートの話や、どうでも良い世間話をする。
「なに、無視してるんだ!自分の態度が、どれほど失礼なのか解ってるのかい!?」
何か喚いてるけど、無視だムシ。
……でも、この調子じゃ、明日の朝も絡んで来そうだよな。
「なあ、ルイス。明日の朝食は俺の部屋で摂らないか?」
「そうだね。その方が良さそうだよね……、食事くらいは、静かに食べたいし、ね。じゃあ、いつもの時間に行くよ」
「な!!部屋でソイツと2人で食事だなんて、なんて爛れた関係なんだ!!!」
もう、なんて言えば良いのか……。
取り敢えずヘンリー、うざすぎる。
もう、夕食いらねぇや。さっさと部屋に帰ろう。
俺とルイスはお互い、目をみかわして席を立った。
「俺の部屋で口直ししよう。お茶請けで、何か軽くつまめる様なものを、用意させるから」
「……そうだね。」
後ろで、ヘンリーが「いかがわしい!破廉恥だ!!」とか騒いでたけど、俺にはきっこえっませーん!
ヘンリー、うざい。




