36 毎回問題が起こるのを待つのにも飽きてきた
今回は、どんなイベントが起こるのか……
ルイスに現状を簡単に説明して、明日の朝にでも今後の方向性を話し合う事を提案した。ヘンリーについての対応も考える必要があるからな……。
短時間の話し合いでは、何も決められないだろう。ジェシカの事で頭が一杯のルイスに、意見を求めることも無意味だ。なら、早くジェシカの所へ帰してやった方が、お互いに有意義な時が過ごせるだろう。
「じゃあ、明日の朝食は俺の部屋で。ジェシカの事は、アンジェリカに頼んであるから、酷い悪意に晒される心配は無い筈だから……。」
「ん、ありがと。アンジュに任せておけば、ジェシカは大丈夫だね。……ちょっと悔しいけど……」
学園での今後について、根回しはしてある。アンジェリカにもフォローを頼んでいるので、ジェシカの事は心配いらないだろう。それをルイスに伝えると、なんだか複雑な顔をしていた。
まあ、気持ちは解る。好きな女を守るのは、自分でありたいもんな。でも、自分のプライドよりも、彼女の心の平穏を瞬時に選ぶ辺り、やっぱりルイスは良い男だと思う。
「ルイス様、お土産です。是非、ジェシカ様と食べてくださいませ」
「え?ありがとう……。中身は、何?」
明日の約束をして、部屋に戻ろうとするルイスに、ダニエルが何やら袋を手渡した。
手渡されたルイスも不思議そうに、中身がなになのかを聞いている。
そらそうだ。突然渡されても、意味わかんないよな。今まで『お土産』なんてもたせた事も無いんだし。
俺だって中身が気になるよ。
俺とルイスの不思議そうな視線を受けて、ダニエルが艶然とした笑みを浮かべている。
「ただのドライフルーツですよ。疲労回復には果物が良いと言いますし、トマトもいれているので、気休めですがそれなりの効果はあると思いますよ?それに、ジェシカ様には、甘いものの方が食べやすいのでは無いかと思いますし……」
ダニエルの言葉に呆然とした。
なんだ、この女子力の高さは!?
疲労回復にトマトが良いとか、初めて知ったぞ、俺は。それに、ジェシカの食べられそうなものを考えて、従者の手を借りずにいつでも手軽に食べられる物をチョイスするとか……。流石、ダニエル!
ルイスも驚愕の視線をダニエルに向けている。ジェシカに関わる事だと恐ろしく狭量になるルイスだが、流石にダニエルには張り合う気にはならないようだ。
「あ、ありがとう……。部屋に戻ったら……、2人で食べるよ」
もう一度小さく礼を言って、帰って行った。その直後にドガーが現れ、ダニエルに深く頭を下げ「ご配慮、ありがとう御座います」と丁寧に礼を言って、ルイスの後を追って行った。
さて、ヘンリーについてだが。
最初の俺達の予定では、ブラッドとヘンリーが俺を嵌めた時に一網打尽にして、向こうの国に宣戦布告をチラつかせながら、失脚させるように促す予定だった。一応ヘンリーの国と我が皇国は友好国だ。だが、国力は皇国の方が大きく、軍事力も強い。
そんな国の後継者を害そうとしたのならば、向こうの国としてはヘンリーの王族としての立場を排し、皇国への誠意を見せるしかなくなる。
たかが第5王子の立場でしかない、問題児のヘンリーではその後の人生は詰む筈だったんだ。そうすれば、ミシェルの安全確保ができて、さらにジャッキーの妹の未来に奴が関わってくることもなくなる。という、予定だったんだよな……。
今回も魔術具と媚薬を回収して、奴が持ち込んでブラッドに渡した事の裏付けは取ってある。
ジャッキーの身柄を確保して、証言を取ってある事は向こうの国に伝えた。しかし、王族から追放させるには、まだ弱い。
そう、ヘンリーはブラッドに渡しただけなのだ。それをどう使うのかまでは、ヘンリーには責任が持てない。そもそも、渡した品物も違法なものだったわけじゃ無い。
さらに実行犯であるブラッドは、俺が命じて精神をぶっ壊してしまったので、何も証言が出来ないのだ。
現状としては、今回の事件にヘンリーが関わっているという確たる証拠が無いので、王族を処分する理由としては弱すぎて、「滅多な者に、魔術具や媚薬を渡すな」と、注意する事位しか出来ないのだった。
でもまぁ、昨日・今日の俺に向ける奴らの視線から、まだまだ何かやらかしてくれそうな気がするので、そこに期待だな。
今の俺の気持ちは、「オラ、ワクワクすっぞ!」って感じだ。
俺としては、変態BL要員のブラッドがいなくなった事で、あのゾワゾワするするような不安感もなくなり、かなり過ごしやすくなった。例えヘンリーが俺に何か仕掛けてくるとしても、暴力的なものがメインになるだろうし、尻の危機は去ったのだと思いたい。
あと、気をつけなければならないのが、アンジェリカがターゲットになる事か……?
アンジェリカってば、結構トラブル体質で「フラグは回収してなんぼだろ」とか「仕掛けられた地雷は取り敢えず踏んどけ」ってタイプだから、注意が必要だ。きっと俺にゲーム補正がかかりにくい分、アンジェリカに色々なしわ寄せがいってるんだろうとは思う……。
彼女を巻き込まない様に考えたって、どうせ裏をかかれる。それなら、「アンジェリカはトラブルに巻き込まれるのがお約束」と考えて、対応と根回しをする方が確実だろう。
それに、俺的に今一番気になるのは、ヒューイなんだよ。あいつの俺に対する目つきが、スゲー気になる……。
あれは、自国の皇子に向ける目じゃない。
俺の感が正しければ、何かややこしい事をしでかしてくれそうな気がするんだ……。小物臭溢れているくせに、今までも小賢しく動いていたようだし、そろそろ何かでかい事をやりそうなんだ。
こういう嫌な予感ってあんまり外れないから、事が起こる前にこのフラグは叩き折っておきたいと思っている。
まったく……。
ヒロインが退場したのに、俺にはまだまだ平穏が訪れる気配がないとか、どんな糞ゲーだよ……。
翌朝、朝食の時間になると、幸せオーラ全開のルイスがやって来た。
昨夜はあの後、ジェシカに求婚し良い返事を貰って、消灯までの短い時間を甘く過ごしたらしい。その惚気話ときたら……。
向こう1年は砂糖が必要無くなるほど、甘ったるいものだった……。口からザーザーと、砂糖を吐かせて貰ったよ……。
でも、特にジェシカに薬の後遺症は見られないようだし、その事については安心した。後で一応ダニエルに診て貰う予定ではいるが。
幸せそうなルイスを見ていると、心から「おめでとう」と言ってやりたくなる。ジェシカの為だけに、脳筋バカなロバートの尻拭いを、時には俺に頭を下げてまで、何度も行ってきたルイスを知っているだけに……。
見返りを求めない純愛って、貫けば幸せが訪れるんだと、ルイスは身をもって証明してくれた。
目の前で、恋愛ドラマや映画を見ている気分だ。
親友の幸せそうな姿をニヤニヤと眺めながら、ジャッキーとミシェルの事、ヘンリーとヒューイの不穏な表情について説明する。
朝食を摂りながらする話としては、不穏極まりないが、ブレックファーストミーティングだと思えば、まあこんなもんだろう。
今のところ城から、「問題が起こった」という知らせはない。監禁場所も、1週間以内には整うと報告が来ている。執事と侍女の手配も出来ている。
ミシェルとジャッキーに関しては、報告だけで済む問題だが、ヘンリーとヒューイに関しては別だ。
ルイスも、アンジェリカのトラブル体質には気付いているようで、それに巻き込まれるジェシカが心配でしょうがないらしい。
次はどんな問題が起こるのか、考えても無駄だと判断した俺達は、「此方から仕掛けてみようか」と、不穏な計画を立てる事にした。
冬休み編の伏線をあちこちで張ってるのですが、書くかどうかは悩み中です。
伏線の張り逃げになるかも……