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35 自然体で最適解を得る男って、やっぱイケメンだと思う訳だ

なかなか話が動き出さない……。

翌日になっても、ルイスが部屋から出て来ることはなかった。


いつもはルイスと過ごす時間を1人で過ごすことになるのだが、俺のやるべき事は変わらない。

俺はいつも通りに、放課後を執務室過で書類の山に囲まれて過ごし、一緒に手伝ってくれたアンジェリカとアフタヌーンティーを楽しむ。親友が、未だ兄の部屋から出てこない事を気にしている彼女の気持ちを何とか慰めようと、花や香水、お菓子といった贈り物をしているのだが、効果は見られない。

あの事件の後、日に日に顔色が悪くなってきている彼女の為にも、そろそろルイスの部屋を訪ねてみようかと考えていた。


今日の夕食は、ダグラスと摂ることにした。

相変わらず上品で美味いけど、微妙に量の足りない夕食を摂りながら、こうしてダグラスと夕食を摂るのも、かなり久しぶりだという事に気付いた。


「ダグラス、なんか、こうしてお前と夕食を摂るのも久しぶりだよな」

「そうかな……、2週間、ぶり位か?お互いに、結構目紛しい日々を送ってるみたいだし、あんまり気にしてなかった」

「そうか?まあこの短期間で、お前がまた、そんな顔で笑うようになってることに、俺はビックリだよ」

「素晴らしい女性が、いつも側に居てくれれば、そりゃぁ笑顔にもなるでしょう」

「違いない」


俺と談笑するダグラスには、数週間前にあった、壊れてしまいそうな脆さは無くなっている。

どうやら、ダグラスのカウンセリングはかなり上手くいっているようで、自然な笑顔が見られるようになっていた。

纏う雰囲気も、柔らかくなってきており、一時期見られていた危うさも消えている。


カウンセリング、まじスゲー!!いや、エイプリルが凄いのか!?

ダグラスも言っているが、ホントにエイプリルは素晴らしいオカン……いや、女性だよ!

この調子なら、ダグラスの完全復活までは、そう時間も掛らないだろう。このままいけば、卒業までには間に合いそうじゃねぇ?これで、ダグラスを側近として考えられるぞ!!


俺は、肩の荷が一つ降りた事が嬉しくて、ここの所沈みそうだった気分が、幾分か浮上していくのを感じた。

あの事件以降、重くなっていた足取りもなんだか軽く感じる。そのまま軽い足取りで部屋に戻り、いつものようにダニエルに緑茶を入れて貰った。

淹れて貰った緑茶を啜りながら、お茶うけとして出された焼きおにぎりを齧る。少し物足りなく感じていたお腹に、焼きおにぎりがちょうど良い。

ダニエルが選ぶ緑茶のアテは、いつも完璧で、羊羹やおはぎは当たり前。この間などは『酢こんぶ』が出てきたのだ。驚いたなんてものじゃなかったが、かなり懐かしくて嬉しい一品だった。

……何処で手に入れてくるのか、激しく気になる品物だがな。


それにしても……だ。

こんなに薬の効果が続いているとか、ジェシカの身体は大丈夫なのだろうか?


焼きおにぎりを頬張りながら、未だ部屋から出てくる様子のない2人の事を考える。

いくら、効果のきつい媚薬を多量に使われたといっても、解毒薬を飲ませているにも拘らず、こんな風に何日も効果が抜けないのはヤバいんじゃないかと思うんだ。


後に残ったりしないんだろうな……。

あと、ヤリ殺したりしてないだろうな、ルイス……?


食事は運んでいると聞いてはいるが、3日も経っているのに薬が抜けていないという事実が、俺の不安を煽るんだよな。

そして、今回の事に責任を感じているアンジェリカの顔色が、日に日に紙の様になって来て居るのを見て、このままでは彼女が倒れるんじゃないかと、心配になってきている。

今日中に出てこないようなら、一度様子を見に行こう。きっと、医者にも見せた方が良いのかもしれない。

媚薬が使われたなんて、知られたくないだろうが、専門家に診てもらう事は必要だろうし。

そういえば、ダニエルも専門家みたいなものなのか?直ぐに解毒剤を用意してくれた事を考えれば、それなりの知識があるってことだよな?


「なあ、ダニエル。ブラッドの使った媚薬って、どういう物なんだ?」


気になるなら、取り敢えず聞いてみよう。

ここからは、『教えて?ダニエル先生!』の時間だ。気になる事を全て聞いて、ズバっ!と解決して貰おうじゃないか!


「揮発性の高い薬剤で、通常は気化した薬剤を嗅がせる物の様ですが、今回ジェシカ様には液体で飲ませることもしているようです。その為、効果と持続時間が飛躍的に上がっているようですね。後遺症としては、どうでしょうか……。解毒剤を飲んでいますし、後はルイス様がどのように対応されるかによって、変わって来ますね。」


ダニエルは、俺にお茶のお代りを給仕しながら、「まあ、ルイス様なら適切な対応をされると思いますので、後遺症の問題はないでしょう。」と淡々と笑みを浮かべて、答えてくれた。


適切な対応ってどんなだ?選ぶ選択肢に正解があるって事だろ?

で、間違えた時は自分にではなく大切な人に、後遺症という罰がくだる、と。こんな所もゲーム仕様な気がして、嫌な気分になる。

そしてもし、俺とアンジェリカが、今回のルイスとジェシカの立場に立ったとして、その時俺は正解を選べるのだろうか?


そう考えたら、背筋がゾッとした。俺の行動一つで後遺症が出るかもしれないとか、そんなの耐えられない。だから、つい聞いてしまった。


「なあ、ダニエル。……俺がルイスの立場だったとして、俺は“適切な対応”がとれると思うか?」

「殿下なら大丈夫ですよ。殿下とルイス様、お二人は大切な方への考え方が、とても良く似てらっしゃいますから」

「……そうか……」


頼りなく、弱音に近い俺のセリフに、ダニエルは優しく微笑んで答えてくれた。

その答えで、俺は自信を持つことができる。ダニエルがそう言ってくれるなら、きっと俺が間違えた答えを選ぶ事など無いのだと、信じられた。


前も今も、俺は“お兄ちゃん”の立場だが、兄がいたらこんな感じなのかもしれないな……。物知りで、頼りになって、何でもできる。まさに“理想の兄”だ。

俺も頼りになる“お兄ちゃん”になれるよう、さらに努力しなければ!


1人で密かに決意を固めていると、ルイスの訪室を知らせる先触れがやって来た。どうやら、長いお籠りからやっと出てきたらしい。


「やあ、カイル。久しぶり。僕がいない間に何か変わった事、あった?」


先触から少しして、ルイスが疲労を滲ませた表情で、やって来た。充足感を感じさせない事が疑問だったが、3日も籠っていれば疲労しかなくなるものなのかもしれない。


その全身から漂ってる疲労感は、いったいどういう事なんだろうね?


ついついゲスい感想を抱いてしまうのは、しょうがないと思う。だって俺、思春期真っただ中だし?頭の中は、ピンクなアレコレで直ぐに一杯になっちゃう訳だ。

だからついつい、からかってしまったんだけど、「じゃあ、カイルは理性なんて欠片もなくなって、身体に引きずられて泣き叫ぶアンジェリカを抱けるんだ?」って、ルイスに意地悪く聞かれて猛省した。そして、マジでルイスを尊敬した!


それは、疲労で一杯になるわ。ギリギリまで精神力を削られたんだろうな。

「無理」と答えた俺に見せたルイスの笑顔が、魔王のソレに見えたのもきっと、気のせいじゃ無い。


今回のルイスの行動は、確かに“適切な行動”だっんだと思う。

それだけ身体が引きずられた状態で事に及べば、ソレ無しじゃ居られない身体になってしまう。そして段々、精神が壊れていくんだろう。そうなれば、表には出してあげられなくなってしまう。

好きな娘が、目の前で壊れていく様を見るなんて、拷問だ。俺ならきっと耐えられない。閉じ込めておく事にも耐えられなくなって、自分自身も壊れてしまいそうだ……。


なんか……、自分が、まともな恋愛への思考回路を持っている事を、実感してしまったぞ……。良かった、俺がまともな人間で。

そして、ブラッドとヘンリー。お前らは何故、一生変態の国にいなかったんだ?



ルイスの部屋では、まだジェシカが寝ているらしく、現状の確認を済ませたら早く部屋に戻りたいと言われた。

次に目覚めたときに、ちゃんと求婚するつもりでいるらしい。だから目が覚めた時に、すぐ側にいたいそうだ。


優しくウットリとした顔で惚気てくれる親友に、俺の中の何かがゴッソリと削られた気がする。

なんだか、無性にアンジェリカに逢いたくなった。

天岩戸が開きました。

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