34 ミシェルの変身は後何回残ってるんだ?
体調、完全復活です!
ご心配おかけしました!!
ダニエルに連れてこられたミシェルは、最初、不安そうな表情をしていたが、ジャッキーが俺の部屋に居る事に気付くと、嬉しそうに笑みを浮かべた。そのままジャッキーに駆け寄り、当然のようにその胸に飛び込んでいく。ジャッキーの方も、そんなミシェルの行動を当たり前のように受け止めて、抱きしめていた。
ジャッキーに抱きしめられて、ウットリと嬉しそうに微笑むミシェル。
その表情とは今までの彼女には見られ無かったもので、“アンジェリカ命”な俺が見ても「可愛い」と思うような物だった。俺みたいに、心に決めた彼女でもいないと、一撃で落とされそうな笑顔。
これ……。やばくね?
ミシェルの悩殺フェロモンが、何故かパワーアップしてる?あの良く分からない、『男を虜にする力』が、強くなっているような気がするんだが……。
もしかして、ジャッキーがちょっとおかしくなったのは、『ゲーム補正』なんかじゃなく、『ミシェルパワー』が原因だったのか?
だとすれば、こんなのを城に連れていくとか、危険行為になる気が……。
ミシェルを中心に問題(主に恋愛面で)が起きて、城がカオスになる未来が見えるぞ?乙女ゲーム宮廷編開幕なのか!?
余りに当然のごとく、2人の世界に突入してしまったジャッキーとミシェルに、何も言うことができず、ぽかんと口を開けてその様子を眺めてしまう。
いつものようなギリギリとした『俺だって……』という感情すらも湧いてこないこの事態、何だか色々とマズイ気がする……。
意見を求めようと思って、チラリとダニエルに視線をやると、何だか驚いた顔をして楽しそうに微笑って2人を……いや、ミシェルを見てた。
マジかよ……。
ダニエルってば、何を一人で楽しんでるんだ!コレ、絶対に笑い事じゃねぇよな!?一体、何に気付いたっていうんだ??
少しムッとしている俺の様子に気付いたようで、ダニエルが楽しそうな笑みを俺に向けてきた。
「殿下。ジャッキー様には、先に出発の準備をしてきて頂いた方が、良いのではないですか?ミシェル様の方は、お迎えに行った際に、侍女に準備をしておくよう伝えて来ましたので、直ぐに荷物も届くと思うのです」
と言って、何故かジャッキーだけを部屋から出すように提案してくる。
理由は良く解らんが、ダニエルには何か考えがあるようだ。それなら、俺のとる行動も一つだけだよな。
「じゃあ、ジャッキーは今すぐ準備をしてきてくれ。その間にミシェルに色々と説明しておくから」
と、乗っかっておいた。
俺の言葉で、ダニエルの思惑通りに、ジャッキーも素直に部屋から退室していった。これで20~30分は帰ってこないだろう。
そして俺は、ジャッキーが部屋を出ていっってすぐに、ダニエルが何を見せたかったのかに気付くことができた。
ミシェルからあんなに出ていた、フェロモンが止まったんだ。
それはもう、見事なほどに!
そうすると、一つの仮説が浮かぶ。もしかしてあのフェロモンって、本気で誰かを落としにかかってる時に、獲物に向けて出すようなヤツなのか?
「恋する乙女は可愛くなるのよ」的なアレか?「好きな人の前では、一番可愛い私でいられるの」とか言うアレなのか!?
なんかそれって、「ぜってぇー逃がさなねぇ!」的な、肉食獣の意志が感じられるぞ!?
ミシェルってば、中身が変わっても“肉食女子”なのか?この間まで、インパラ臭くプルプル怯えてた癖に?
いや、でも……、この様子を見る限り、ミシェルは無意識っぽいよな……。
これをモロに向けられてるジャッキーは、もはや捕獲されて食べられる寸前って事か……。しかも、この武器のようなフェロモンは、“ライフル”ってよりも“散弾銃”だ。ライフルなら、獲物だけを狙い撃ちするからいいけどさぁ……。散弾銃って……。
周囲にも着弾するぞ、これ。
本命に向けて発射した弾で、無意識に他の獲物まで仕留めようとするだなんて。
ミシェル……、恐ろしい子!!
これは……、城に居る間は、ジャッキーとは別行動にさせた方が良いかもしれないな……。
「ダニエル、ミシェルとジャッキーは、城では別にするように伝えてくれ。あと、ミシェルに関する事は、全て女性のみで対応するようにと……」
「承知致しました。監禁場所が決まれば、城の優秀な執事を1名だけ付けて貰うよう手配しておきます。」
「……そうだな……。頼むよ。きっと長く別々にすると、違う問題が起こると思うから、できるだけ早く一緒に居られる環境を整えてやって欲しいと、伝えておいてくれ。」
俺達2人は、不安そうにドアを見つめているミシェルの後ろ姿を眺めながら、被害の拡大を防ぐ手立てを話しあった……。
周囲を女性で囲って、男を近づけなければ、流れ弾に当たる被害者も出るまい……。
そして、ミシェルの不安を下手に煽らないように、ジャッキーとは早く一緒にしてやらねば。
監禁場所には、小さめの家を用意して、優秀な、フェロモンに負けない執事と侍女を2~3名付ければ、問題なく対処できるだろう。
ジャッキーが帰ってくるまでに、先程決まった事をミシェルに説明していく。最初は不安そうにしていた彼女だが、ヘンリーの事がよほど怖いらしく、素直に俺の提案を受け入れてくれた。
監禁先では、暫くジャッキーと会えないということを説明したら、瞳の色が変な風に変わったのに気付いた。本能的にやばいと思った俺は、ミシェルから視線を外し、今のミシェルの状態と起こりうる問題を早口で説明する。
そして、できるだけ早く、2人で過ごせる監禁場所を準備することを約束したら、ミシェルは落ち着いてくれたようで、瞳も元に戻っていた。
そして、自分の変化を知り、戸惑っているようだった。
そんな俺たちのやり取りを楽しそうに見ていたダニエルは、「ふむ、魅了の力が強くなっているようですね……。これは中々面白い」などと呟いていた。
いや、ダニエル。全く面白くないからな?
早速学園側にも話を通し、誰にも気づかれないうちに、早急に2人を夜のうちに城へと送り出す。父と母には、ミシェルのもつ能力と危険性を伝え、十分な配慮を求めた。
そして、問題が起こる前に、2人の監禁場所を手配してもらうようにも伝えてある。
あのフェロモンをどうにかしない限りは、ミシェルを外に出す事は出来ないだろう。
どうすっかなぁ……。
あんまり関わりたくは無いが、この国で生活をさせるなら、どうにかするしかないよなあ……。
まぁ………、ダメもとで製造元にでも相談してみるか?
「なあ、ダニエル?」
「はい、なんでございましょう?」
「ミシェルの母親だったら、あのフェロモンの押さえ方、知ってると思うか?」
「……そうですねぇ。なんらかの解決は見られるようですよ?」
俺が問いかけると、ダニエルがどこか遠くを見ながら艶然と微笑んだ。
また何か見えてるみたいだな。
今度は一体何が見えたというんだろうか?嬉しそうにしてる所をみると、ろくでもない事の気がするが、俺への被害は無いって事なんだろうから、ここは放置で。
ちょっと呆れた顔で、ダニエルを見ていると、彼は『楽しくてしょうがない』という顔で俺を見ている。
「本当に殿下の執事をしていると、退屈致しませんね。」
いつもより弾んだ声でそう言って、ミシェルの母へコンタクトを取ってくる、と、ウキウキと部屋から出て行った。
あのいつもより浮かれて見える状態から見て、見えた将来はかなりのカオスになるのだろう………。
俺は、大きなため息を吐いて、残り少なくなった冷めた緑茶をグビリと飲みほしたのだった。
やっぱりミシェルは、フリーザ様なんでしょうか?




