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29 人生初の壁ドンが凄い

今回でシリアス回は終わり、のはず。凌辱系嫌いな方は、ブラッドの閑話からジャッキーの閑話まで飛ばしてもらった方が良いと思います。

それでも話は繋がるかと……

今日はもう一話更新していますので、ココから読み始めた方はバックしてください。

四人が足早に立ち去ると、俺、アンジェリカ、ダニエル、イっちゃってるブラッドの4人がその場に残された。

ダニエルは部屋に残された魔術具や媚薬を全て回収し、ブラッドの頭に片手をあてる。多分、奴の頭の中から直接、必要な記憶を読み取っているのだろう。


「ミシェル様に使われた媚薬量なら、解毒薬を使えば一・二時間程度の持続で落ち着くでしょう。しかし、ジェシカ様に使われた媚薬は、かなり量が多いようですね……。解毒薬を使用しても、明日いっぱい……下手をすれば数日は効果が持続する恐れも……」


ダニエルは、崩れる事のない美貌を痛ましげに歪めて、告げてくる。

その言葉に、どこかボンヤリとしていたアンジェリカが震え、泣き始めた。その姿を見て、胸が締め付けられるように痛む。

俺は堪らずに彼女を強く抱きしめて、旋毛つむじにキスを落とした。


「大丈夫だよ……。ルイスが……、君の素敵なお兄さんが、ジェシカの側にちゃんと付いてくれてるから、ね?」


何度も囁き、あやし続ける。

ルイスなら、例えジェシカがどんな状態であろうと、見捨てることなど無い。逆に、これを好機とばかりに、彼女を手に入れるのだろう。


「ルイスとジャッキーの2人にその情報を伝えて、解毒薬があるなら、それも届けてやってくれ。後、ルイスとジェシカの婚約を最速で進めるよう、あちこちに働きかけてくれるか?」

「承知致しました。早速そのように伝えておきます。……婚約の方は、夜迄に纏めてしまいましょう」


アンジェリカを抱きしめたまま、片手で背中をポンポンと叩いて、もう片手で後頭部をなでてあやしながら、ダニエルに指示を出す。


どんな状況であろうが、高位貴族の子女が婚約者でもない男の部屋に何日も入り浸りになるというのは、醜聞だ。ジェシカの名誉を少しでも守ろうと思うなら、今日中に2人の婚約を取りまとめておかなければ……。

この婚約は、内々にはもう決まっている事なのだ。ルイスが「ジェシカの気持ちが僕に向くまで待つ」なんて言うから、まだ話が纏まっていないだけ。

だから、後は少し圧力を掛けるだけで、簡単に纏まるだろう。

しかも、理由が理由だ。ローリング家にとっては願ってもない事の筈だし、フォンテーヌ家にとっても、ジェシカ以外とは結婚など絶対にしないであろうルイスの婚約を急ぐ事に、反対する理由もない。


ルイスにとっては多少不本意だろうが、場合が場合なので、我が儘は言わせない。と、言うよりも、部屋を出てくる頃には婚約を申し込んで、どんな手を使ってでも了承させている事だろう。

その辺りは外さずに決めてくる男なんだし、心配はいらない筈だ。


次にブラッドの処分だが……。

出来るだけ、真実を公にする事なく済ませたい。いくら貞操は守られたと言っても、これは醜聞だ。女の子たちの経歴に傷を付ける事になる。あいつの毒牙に掛った、他の貴族の子息・子女達の今後を考えてやる必要もある……。


全ての出来事を無かった事に……。ブラッドさえ何も言わなければ、全てを無かった事に出来る。

しかし、このまま騎士団にブラッドを引き渡して事情聴取されれば、全ての事が多くの人間に知られてしまう。

この場で殺すわけにもいかないし、それなら。


「ダニエル……。このまま……」


ブラッドの精神を壊し切って、廃人にする事はできるか?


アンジェリカに聞かれたくなくて、言葉に出来ない俺の考えは、正確にダニエルに伝わったようで。


「承知いたしました。殿下のお望みのままに……」


ダニエルは綺麗に微笑んで答えると、ブラッドの頭に当てたままの手に少し力を入れたようだった。

ダニエルの手が少し光った様に見えたと思ったら、それまで恍惚とした表情で笑っていたブラッドの瞳から、スッと色が消えた。

もう奴はこの先、言葉を話す事もないだろう……。今回の誘拐事件の全容は、俺達しか知らない出来ごとになった。あの凌辱未遂は、事実上無かった事になったのだ。

騎士団へは、ブラッドが4人を誘拐しようとした事と、俺が独断で助け出すよう指示した事、その際に事故で(・・・)彼が廃人になってしまった事を伝えれば良い。

後の報告を執事に全て任せてしまえば、俺達がこの件に関わる事は、もうない筈だ。


ブラッドは、残りの人生を白い壁に囲まれ閉じられた部屋で、静かに過ごす事になるのだろう……。


一つの人生を、仕方なかったとは言え、それ以上に多く含まれた私情で、潰した。

堪らない罪悪感はあるが、アンジェリカと親友を守れたと思えば、仄暗い喜びも感じてしまうのも確かで……。

耐えきれない自分の感情を誤魔化すように、アンジェリカの旋毛つむじに鼻を埋め、愛しい香りで胸を満たす。

どこか現実とは隔絶された空間で、問題の事後処理を進めながら、アンジェリカに確認しておかなければならない事があるのを、思い出した。


聞き出すなら、場所を変えて今日中に! だな。

気持ちが落ち着いてから聞き出すとか、こんな事件、何度も思い出させたい出来事じゃない。それなら傷が抉られようが、今日中に聞きだして、その後全ての時間で傷を癒せば良い。


「ダニエル。俺はソロソロ部屋に戻ろうと思うんだが、この場はどうする?」

「何も問題は御座いません」

「じゃあ、戻るぞ」

「承知致しました」


俺はアンジェリカを横抱きに抱きあげ、首にしがみついてもらう。その状態で何事もないように、自室に向かって歩き始めた。その後ろでダニエルが指をパチンとひとつ鳴らした後、何時もの様に存在感を空気に混じらせていった。

自室に戻るまで、幾人もの生徒に目撃され興味津々な視線を向けられたが、その全てを可憐にスルーしておく。明日には、色々な憶測を混じらせて噂話になっているのだろうが、真実に辿り着けるものなどいないだろう。



部屋に着くと直ぐに、俺はアンジェリカをテーブルセットに座らせ、ダニエルに紅茶を淹れてもらった。

俺は彼女から離れ、壁際に置かれた腰の高さのサイドボードに軽く腰を預けた状態で、紅茶を飲んでいる。距離は離れているが、視線は彼女に当てたまま外さない。


「アンジェリカ、教えてくれないか? どうして、ブラッドに捕まってしまったんだい?」


なぜ4人もの人間が、奴に捕まってしまったのか……。

アンジェリカとジェシカには、ブラッドに近付かないよう何度も念を押していた。講義後はいつも直ぐに、決められた待ち合わせ場所で落ち合う事になっていた筈だ。

今まではそれで問題がなかったんだ。なのに今日、こんな事が起きた。いったいどんなイレギュラーがあったと言うんだ?


俺が投げかけた疑問に、アンジェリカはとても話しずらそうにしていたが、諦めたように、決まり悪そうに話し始めた。

その内容はーー


アンジェリカ達一年生の本日最後の講義は、『礼儀作法)だったらしい。

講義が終了して、2人が荷物をまとめていると、ブラッドがミシェルに近付いていったとか。いつもなら気にしないが、今のミシェルの状況を俺達から聞いている2人は、気になって会話に耳を傾けてしまった。

どうやらブラッドは、講義室に隣接している教員室にミシェルを誘っているようで、ミシェルは「今日はジャッキーと(デート)の順番だから」と一生懸命断っていたらしい。

しかし、「ジャッキーも中で待ってるんだよ?」などと言って、半ば無理やりにミシェルを室内に引きずり込もうとしているブラッドに、正義感の強いアンジェリカは我慢が出来なかったようだ。

思わず止めに入り、ジェシカも巻き込んで室内に連れ込まれてしまう。逃げ出そうにも、何かの魔術具が作動していて、扉が開かない。焦っている間にまたもや変な道具を使われ、次々と女の子達は意識を失っていき、次に気付いた時にはあの状態になっていた、ということらしい。


………。

とても気まずい空気が室内を漂っている。

俺はどこにぶつけて良いのか解らない怒りに、拳を震わせた。爪が食い込んで血が滲むほどに拳を握りしめても、怒りが落ち着く様子はない。

思わず俺は、背後の壁に力任せに拳を叩きつけてしまった。


ドーーーーンッ

と大音量をたてて、壁が悲鳴を上げる。壁に掛っていた絵が数枚落下し、壁自体にも拳大の穴が開いた。


「アンジェリカ……。何度も何度も、アイツに近付かないようにって言った筈だよね?」


何度も深呼吸を繰り返す事で、ようやく落ち着いた声が出せるようになった。

ただ、落ち着いているのは話し方だけで、声は地獄から響いてくるように低くて迫力のあるものになっている。

壁に拳を叩きつけた状態のまま、俯かせていた顔もそのままに、視線だけをアンジェリカに向けて目を眇めて見せると、彼女の肩がビクリッと震えた。


その仕草に、堪らなく嗜虐心が刺激される。

あれだけ言っておいたのに、と思えば、言い知れない怒りが湧くが、アンジェリカの性格を考えれば、仕方ないとも思う。

約束を破ったことで怯えたように俺を見る、宝石のような紫の瞳がとても可愛い。自分のせいで、親友が今どういう状況になっているかを考えているのだろう、しゅんとした表情が可愛すぎて毒気が抜かれた。


結局俺は、アンジェリカには怒ることも出来ないし、彼女が嫌がる様な『ひどい事』なんて、絶対に出来ないんだよ……。

でも、凄く心配した事は解ってほしいから、彼女には一度も向けた事のない黒い笑顔を、さらに華やかにコーティングして向ける。その笑顔のままサイドボードから腰を離し、彼女にゆっくりと近付いていく。

俺の笑顔と行動に怯える彼女を可愛く思いながら、どんどん距離を詰め


「じゃあ、約束通りお仕置きしなくちゃね?………どんなお仕置きが……希望、なのかな……?」


甘く彼女の耳元に囁いた。

壁ドン違いでした。

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