《閑話》 発情した彼女の慰め方(ルイスの場合)
R指定です。
ルイスの純愛?
少女漫画的な王道ヒーローはルイスが担当しております。
その部屋に入った瞬間、あまりの狂気に一瞬身がすくんだ。
何が行われようとしていたのかは明らかで、女性の泣き喚く声が室内にこだましている。扉を隔てた隣室では一切の物音が聞こえなかった所を見ると、防音の魔術具が使用されていたのだろう……。
なんだかやけに冷静に、室内を見渡しながら状況の分析をしてしまう。
でも、それは数瞬の事だった。僕の大切なジェシカを見つけたら、身体が勝手に動いていた。
明らかに発情してしまっている彼女は、初めての感触に戸惑い身悶えている。ジャッキーのすぐ側で、泣きながら自ら服を乱れさせていく姿は、見るのも辛いものだった。
直ぐに側へと駆けつけ、乱れた服を直してあげるが、そんな僕の仕草を嫌がるように首を振り、再び脱ぎはじめようとしてしまう。
そんな行動を何とか止めたくて、彼女に僕のジャケットを羽織らせて、身動きができないように強く抱きしめた。
しかし、どんなに強く抱きしめても、今度はそれが刺激になってしまうようで、切ない鳴き声をあげ始める。普段の彼女であれば、絶対に口にしないような言葉が次々に紡がれる事に耐えきれなくて……、思わず、キスで唇をふさいでしまった。
ジェシカに媚薬が使われていると聞いて、直ぐに自分の部屋へと連れ帰った。
だって、彼女の乱れた姿を、他の男に晒すわけにはいかないじゃないか。気持ちに関係なく、身体が引きずられている姿なんて、誰にも見られたくない筈だ。
本当は僕にも見られたくないんだろうけど、未来の夫になら、その痴態を目にする権利があるはずだ。
一人で置いておける状態じゃないんだから、当然の権利として、僕が最後まで付き合う。
部屋に入って直ぐに届いたダニエルからのメッセージで、ジェシカに対しては、結構な量の媚薬が使われているという事が解った。例え解毒薬を服用しても、明日一杯ぐらいまで効果は続くだろうとの事だった。
ジェシカにとっても、僕にとっても、辛い数日になりそうだ……。
そんな事を思いながら、僕はメッセージとともに届いた解毒薬を、急いでジェシカに飲ませる事にした。おかしな後遺症なんて残らないよう、心からの祈りを捧げながら、口移しで少量ずつ飲ませていく。
届いた解毒薬を飲ませ終わってから、背後に控えるドガーに寝室への扉を開いて貰い、誰の目にも触れないようジェシカを其処に運び込んだ。
僕のベッドに彼女を降ろし、頭頂部に口付けながら「少し側を離れるよ?」と、声をかけた。不安そうに僕を見上げて、縋り付くように腕を掴んでくるジェシカに微笑ってみせる。
「直ぐに戻るから……大丈夫だよ。絶対に手放したりしないから、……ね?」
そう、耳元で囁いてあげる。
その言葉で少し安心したのか、ジェシカが小さく頷いて、掴んでいた僕の腕を離してくれた。
いつも、ベッドサイドに準備されている水差しに、水が入っていることを確かめ、室内に防音の魔術具をセットしてから、僕は一度室外へ出た。
音もなく現れたドガーに、明日は講義を休む事、ジェシカの執事に今日の出来事の報告と、明後日まで僕が彼女の身柄を引き受ける事を伝える事、そして、僕たちの婚約を早急に進めておくよう指示する。
さらに、いつでも食べられるように軽食の準備を頼み、寝室へは絶対に入ってこないように言い含めてから、寝室に戻った。
「あ、つい……。た…すけ………。……るい…す……さ…まぁ……!」
寝室に戻った僕を待っていたのは、扇情的な姿で啜り泣くジェシカだった。
彼女は、きっちりと着せなおした筈の制服をまた肌蹴させて、焦点の合わない濡れた瞳でこちらを見つめ、必死で僕に助けを求めている。
僕は素早くベッドに戻り、正面から彼女を抱きしめる形で、一緒に横になった。
何かしてもしなくても、薬の効果が切れるまでは彼女の発情は止まらない。なら僕は彼女と一緒に、この責め苦を味わおうと思うんだ。こんな状態での初めては、絶対に嫌だった。
ジェシカには、彼女自信の意志で、僕との関係を望んで欲しいから……。
ジェシカは、自分に触れる全ての感触を快感と捕え、ただ抱きしめるだけの僕の腕の中で、身悶え、声を上げ続け何度も達した。
そんな彼女の姿に、僕の決して細くは無い筈の理性の糸は、何度も切れかけた。その度に唇をかみしめ、痛みと口の中に広がる血の匂いでなんとか自我を保つ。
「あぁぁっ! ……い、や……。ルイス……さ…、キ、ライに……な……ないでぇ!!」
「大丈夫だよ、ずっと側にいるから……。どんな君も、愛してる……」
すぎる快感に泣き叫びながら、不安を訴えるジェシカに、少しでも心がかるくなれば良いと、僕は愛を囁き続けた。
この状態の彼女では、何を囁いてもきっと覚えてはいないだろうけど、僕の気持ちがほんの少しでも彼女の心に残ってくれれば……。
ジェシカは何度も気を失い、目覚めればあえぎ始めるという事を繰り返していた。その合間に何度も口移しで水分を補給させながら、いつ終わるのか想像もつかない地獄の修練を耐え続ける。
しかし、これぐらいの修練は、僕にとっては何てこと無い。
だって僕は、何年も嫉妬と欲望を飼い殺して来たんだ。ロバートに恋をしてたジェシカ。2人は婚約しており、ミシェルが現れるまでは仲も睦まじかった。2人のキスシーンを目撃した事も、一度や二度じゃない。
何度、ロバートを殺してやろうと思ったことか。
失脚させてやりたいと何度も思い、実際、馬鹿なアイツは何度もその危機に陥っていた。その度にジェシカが心配して倒れるほどに泣くものだから、僕が裏から手をまわして何とかしてきたんだ。
ジェシカは、僕が妹を助けるような気持ちと、親友を救うために動いていると思っていたようだが、ロバートは僕の行動に、気付いてさえいなかった。
自分が何をしたのかさえ理解していなさそうな脳筋に、大切なジェシカを任せなければならない、あの苦痛。殺したい程に憎い男を、愛する人の為に何度も助けなければならなかった、あの屈辱。
あの頃の、心臓から血が噴き出すような苦しみに比べれば、こんなものは甘い睦言の様な物だ。
彼女の心にはまだ、ロバートがいる。それと同じ位にまで、僕の存在が大きくなってきているのを知っている。このチャンスに彼女を抱けば、初な彼女の心は僕一色に染まってくれるだろう。
でも、僕は正面から正々堂々と、彼女の心の全てを手に入れて見せる。
勝機はある、だから焦る必要はないんだ。今は彼女の心のケアにのみ、心を砕いていれば良いんだ……。
翌日の昼ごろから、やっとジェシカの身体が落ち着き始めた。気絶という名の睡眠時間も長くなってきた。
その間にそっと側から離れ、軽食で腹を満たし、水差しの水を取り換える。
汗やらで、ベタベタになっているジェシカを丁寧に拭き清め、彼女の部屋から届けられた夜衣に着替えさせ、シーツを取り換えた。
こんな一連の行動に、結婚後の自分たちを想像してしまい、ニヤニヤとだらしない笑みを浮かべてしまう。
ジェシカの理性はまだ戻らないけれど、目が覚めた時に僕の名前だけを紡ぎ、泣きながら探すその姿に、心が満たされる。
求められて与える口付けは、僕を馬鹿な男に変えていく……。
こんな地獄になら、ずっと滞在するのも悪く無い。
僕は、そんなバカなことを考えながら、思う存分ジェシカを抱きしめて甘やかし、あやし続けた。
……甘い地獄には、翌昼までゆっくりと滞在し、彼女に理性が戻ったのをきっかけに、チェックアウトしたのだった。
数日後の夜、久しぶりにカイルと悪だくみの会合を開いた。ジェシカへ婚約を申し込み、受け入れて貰えた事を報告した僕に、カイルから「ルイスはもう、大人の階段を登ってしまったんだな……」なんて、二ヤリと笑ってからかわれた。
何言ってるんだろうな、こいつは……。
苦笑してしまいながら、
「じゃあ、カイルは理性なんて欠片もなくなって、身体に引きずられて泣き叫ぶアンジェリカを、平気な顔で抱いちゃうんだ?」
黒い笑顔で笑いかけてやった。
もし、Yesなんて答えたら、婚約を破棄させてやる。
僕の言葉に目を見張ったカイルは、だが直ぐに苦い顔になる。
「無理。抱かない、てか抱けない。想像しただけで吐きそう……」
情けない顔で力なく笑って、「何その苦行……。お前は、真の賢者だよ……」と、何だかよく解らないお墨付きをくれた。
僕の妹は、ホントに良い男に惚れたよ。
親友の外さない答えに満足して、とびっきりの笑顔を披露したんだけど、何故か親友は戦慄して顔をひきつらせていた。
ロバートみたいな脳筋が、今まで問題を起こしてない筈がなかった。




