28 こんな時だって言うのに、男って生き物はどうしようもないな
昨日の閑話、加筆してます。
もっと恍惚とした感じの文にしたいのですが(異常さが際立つように)、あれが限界ですね。
精神力がガリガリ削られる……
そして、今回たいした山場もなく、さっくり解決しますw
どうするか悩んだのは数瞬。気がつけば走り出していた。
いつも生徒を連れてしけ込んでいるといるという、ブラッドの教員室にたどり着くと、隣には無表情のルイスがいた。俺と同じ様に息を切らせているから、ルイスもカフェテリアから俺と一緒に走って来ていたのだろう。
全く視界に入ってなかったよ。
しかし今は、そんな事よりもアンジェリカを変態の魔の手から助け出さねば!
その先に何が待ち受けているのかなど、何も考えずに扉を開こうと手を掛けるが、ダニエルに肩を掴んで止められてしまう。
「私が先に入って、仕掛けられている魔術具などを無力化致します。その後でお二人は、入室して下さいませ。入室後は、ご自分の宝物の奪還を最優先してくださいませ」
こんな時でも、いつもと変わりないダニエルの艶やかな笑みを見ると、根拠のない安心感に包まれる。
俺たちが無言で頷くと、ダニエルは扉をノックし、「失礼致します」と声をかけてから丁寧に扉を開いた。
その時、扉から「ベキョっ」というような普通じゃない音がした。
あぁ、鍵、掛ってたんだな……。ダニエルってば、力も入れずに普通に開けた様に見えたけど……。
ダニエルは中開きの扉を開いて、中へ進む。客の対応をする様に作られた、その部屋に仕掛けられている魔術具を全て無効化し、奥の寝室へ繋がる扉を静かに開く。
奥の扉を開いて見えた光景……。
それを見て、俺の背中に戦慄が走った。
全裸で床の上に拘束されているジャッキー。
その隣で身悶えて泣きながら、自分で服を乱れさせているジェシカ。
ブラッドの膝の上に抱き込まれ、前で一纏めに拘束された両手を必死でジャッキーに伸ばし、助けを求めて泣き叫ぶミシェル。彼女の制服の前ボタンは全て弾け飛び、胸を鷲掴みにされている。
そしてアンジェリカは……。
両手足を拘束され、全てが良く見える位置に座らされていた。衣類に一切の乱れもなく、口はふさがれてしまっているが、何かされた様子は、全く、ない……。
……こんな状況なのに、「アンジェリカに手を出されていなくて良かった」と思ってしまった俺は、ど畜生だ……。
そんな最低な自分を隠すように、アンジェリカの元へ走り、手早く拘束を解いてやる。そのまま何も言わず胸に抱き込み、力いっぱい抱きしめて、こんな光景も最低な俺の顔も見えないようにしてしまう。
君の無事だけを喜んでいる、最低な俺を見ないでくれ……。
「…あ、……カ、イル…さ、ま?」
何も声をかける事もなく、ただただ強く抱きしめるだけの俺に、アンジェリカが小さく声を漏らした。
小さく震えている肩が愛しくて、守れなかった自分が悔しくて、さらに抱きしめる腕の力を強くする。
背後では、「うぐぅっ」という呻き声や、激しい音が色々聞こえているが、何が起こっているか確認しようとは思わない。ブラッドの事はダニエルに任せた。なら、何も心配はいらないんだ。
どれぐらいの時間、アンジェリカを抱きしめていたんだろうか……?
1時間位とも1分程度とも思える不可思議な時の流れ。気がつくと、彼女の肩の震えは治まっていた。
なのにまだ、震えている感覚がする……。
不思議に思って、感覚を研ぎ澄ませてみると、震えてるのは俺だった。
これではまるで、アンジェリカを抱きしめているのではなく、抱き縋っていたようだ……。
どこまでも情けないな、俺。
本当なら、こういう時はカッコよく声を掛けて、彼女を安心させてやらなくちゃならないのに……。
パクパクと口を動かすが、気の利いたセリフは一言も出てこなかった。彼女の無事な姿に、かける言葉が何も浮かんでこないのだ。
こんな時に、イケメンなセリフの一つも浮かばないヘタレすぎる自分に、苦笑するしかない。
どうせヘタレるなら、もっと情けなくてもいいかな?
そう思って、抱きしめる腕の力を少し緩めた。アンジェリカが、緩まった腕の力に不安そうな顔をして、俺を見上げてくる。その仕草で現れた額に口付け、そのまま額をくっつけて、至近距離から彼女を見つめた。
「なんでこんな事になってんだよ? ……アンジェリカに何かあったら……俺、死ぬぞ? だから、……もっと気を付けてくれよ? ホントに………無事で……良かった……」
自分が守れなかった事を棚に上げて、みっともなく彼女を責めた俺。カッコ良いセリフは出てこないくせに、こんな情けない言葉ならいくらでも湧き出てくる。
しかし、彼女は嫌な顔をする事もなく、額を合わせたままふわりと微笑んでくれた。その微笑みが更に近付いてきたと思ったと同時に、唇に触れた柔らかい感触。
一瞬で離れたそれに、それがキスだと認識した時には、理性が弾け飛んた。離れた唇を追いかけ、しっかり重ね合わせる。そのまま、何も知らない彼女の口腔を蹂躙し支配していく。
「んっ……んんっ」
彼女から苦しそうな呻き声が聞こえるが、気にかけてあげることも出来ない。膝の力が抜けてしまった彼女を支えながら、その可愛い唇をむさぼり続けた。
ギリギリまで張り詰められていた緊張が、彼女からのキスで一気に弾けたのだ。ここが何処であるのか、今がどんな状態であるのか、そんな事は全て、どうでも良いことになってしまう。
何時もなら俺を諌めるはずの理性が弾け飛んでいるため、俺の行動を止めるものは何も無い。
彼女を支える腕を一本動かし、少しづつ下へ撫で下ろしていく……。
「殿下、そこまでですよ。」
俺の行動を止めるものなど、何も無いと思っていたが……。ここには、ダニエルも居たんだった。
肩に置かれた手の感触と、ダニエルの冷静だが逆らえない迫力を含んだ声で、俺は一気に現実に引き戻された。名残惜しい気持ちはあるが、そっと唇を離すと、お互いの唇から透明な糸が引かれていた。アンジェリカは焦点が合わない様子で、トロンと俺を見つめている。
その光景に更に煽られたが、そこはなんとか我慢して彼女の表情が見えない様に、自分の胸に抱き込んでしまう。
他の連中は大丈夫なのだろうかと、アンジェリカを抱きしめたまま体の向きを変え、背後の様子を見る。
そこでは、ルイスのジャケットを羽織らされたジェシカが、ルイスに抱きあげられキスされていた。
ミシェルも、衣服をしっかり整えたジャッキーに抱きしめられ、その胸に縋りついて泣いている。
そしてブラッドはーーー
手足を拘束され、ベッドに転がされた状態で、恍惚とした笑みを浮かべて、吐息を漏らしていた。
その姿は、どう見ても変態。
「彼には、幸せな幻覚を見ていただいております。このまま、皇国の騎士団に連絡し、引き取っていただきましょう」
奴の様子にドン引いてる俺に、ダニエルが微笑んで答える。
“幸せな幻覚”って一体、どんなものなんだ? 奴の様子を見るからに、その幻想の中では、奴の欲望が叶っているのだろう……。
そして、その欲望って……。
相手は一体誰なんだ!?
そんな俺の小さな恐怖には気づかぬ振りで、ダニエルは更に爆弾を投下してきた。
「ジェシカ様とミシェル様には媚薬が使用されているようです。なので、ルイス様とジャッキー様はそれを念頭において、彼女たちに適切な対応をとって差し上げて下さいませ。対応を間違えれば、彼女たちの今後に大きな影響を及ぼしますので、くれぐれもお気をつけ下さい」
爆撃を受けた2人は、俺に「先に失礼させていただきます」と声をかけて、彼女たちを抱きあげたまま足早に部屋を出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、「ちょっと羨ましい」と思った俺は、正真正銘の外道だったと思う。
主人公がヘタレ。更に外道。
でも、それで良い。