27 早朝デートは理性を鍛える修行場だった
糖分増量中。
昨夜の話し合いで、3日後にヘンリーとブラッドが張っているという罠を逆手にとり、こちらの罠に誘導する事が決まった。
その計画を実行するために、アンジェリカとジェシカにも現状の説明と、3日後の作戦の詳細について説明する事にした。
まぁ、なんだ……。朝からプチデートを楽しめるって事だ!
べ、別に昨夜のジャッキーとミシェルの、イチャイチャした空気が羨ましくて「俺もアンジェリカとイチャイチャしたい!」って思った訳じゃ……、ないんだからねっ。
俺だってリア充なんだって、ちゃんと再確認したかったって理由も有るけどさ? それ以上に、現状がどれ程の危機に直面しているのかを、伝えておく必要があるって思ったんだ。
だから、ルイスと二人で相談して、こうして二人に会いに来た。
ただ、ルイスにもジェシカと2人の時間が必要だろうと思ったので、いつもの中庭でお互いの声が聞こえない程度の距離に離れてデートを……イヤイヤ、説明を楽しむ……じゃなくて、行う事にした。
「……って事で、3日後は危険な事が起こる可能性があるんだよ。だから、十分に気をつけて過ごしてほしい。出来ればその日は、一日中自室にいて?」
入学式の翌日に、初めてこの中庭でデートした時と同じ木の下のベンチに並んで座る。向き合う様にアンジェリカの方へ体を向け、彼女の手袋に包まれた手を両手で包み込むように握りしめ、アメジストのような瞳を覗き込む。
覗き込んだ彼女の瞳には、情けないぐらい真剣で余裕のない顔をした男が、彼女にすがりついている様子が写りこんでいた。
あー、俺いっつも彼女にこんな情けない表情を見せてるんだ……。
地顔はイケメンなんだし、もっとキリッとした顔をした方がいいよな……。いつもこんな表情ばかり見せて、彼女に愛想尽かされなきゃいいけど……な。
なんてことを考えながら、アンジェリカの瞳の中にいる俺をボーっと見つめていると、彼女の瞳がだんだん蕩けてきたのに気付いた。彼女の瞳はウルウルと揺れ、そんな瞳の中にいる俺自身も、そのまま溶けてしまいそうだ。
思わず、彼女のそんな様子に見とれてしまい、そのままジッと見つめていると、その視線に耐えきれなくなったように、彼女の瞳がそっと閉じられた。
その表情はまさしく、『キス待ち顔』ってヤツで……。
思わず引き込まれるように唇を重ねそうになったけど、俺は何とかギリギリの理性で、唇の向かう先を額へと進路変更させた。
今キスなんてしたら、絶対に色々止められなくなる!
俺は皇子である前に、健全なる思春期男子なんだ。一度暴走を始めたリビドーを、制御できる自信などない!!
こんな所で始める事は絶対にしないけど(その時は、抱えてでも場所を変える!)、多少の“お触り”位はしてしまうだろう……、てか、するね。
彼女の兄が見える範囲にいるというのに、そんなことは絶対にできない!
でこチュウしている所ですら、ルイスには見られたくないのに!!
だって、今の俺、かなり鼻息が荒くなってると思う。そんな興奮気味で余裕のない姿を、親友に見られるのって嫌じゃね?
俺は賢者だ。俺は賢者だ! 俺は賢者だ!!
キツク目を閉じ、アンジェリカの額に唇をつけたまま、興奮が落ち着く様に心の中で繰り返し呪文を唱える。
少しずつ気持ちが落ち着いてきた所で唇を離し目を開くと、うっとりとした顔でアンジェリカが俺を見つめていた。
やめて! これ以上誘惑しないで!!
小悪魔なの? いや、大悪魔なんだな!?
抱きしめてしまいたくて震える手をなんとか誤魔化し、もう一度、今度は軽くリップ音をたてて額に口付けた。
朝からこんな精神修行が待ち構えているなんて……、大歓迎です! 毎日でも鍛錬したいよ!!
そんな事を思いながら、盗み見る様にルイスの様子を伺うと、あちらでも、ルイスが見えない何かと戦っているのが解った。
アンジェリカやジェシカは、俺達を誘惑しているつもりなどさらさらない事は、勿論解っている。ただ、俺たちが思春期過ぎるだけだ。
それでも、大好きな彼女の『好き好き光線』が溢れる瞳や表情には、煽られて当然だと思うんだ。
転生した直後に「やっぱ、この子好きだなぁ」とか思ってた気持は、共に過ごす時間や小さな触れ合いが増えると共にドンドンと育っていき、今ではすっかり溺れてしまっている。いや、気分的にはもう、溺死寸前だ。
前世では、それなりの女性経験があった。なのに今更、中学生以下な“お付きい”で、これ程溺れてしまっている自分に驚きだ。でもそれが、たまらなく幸せだったりして……。
はぁ……。
早く、思う存分抱きしめられるようになりたい……。俺のハリボテ理性じゃ、直ぐに限界がきそうだよ。
……だからアンジェリカ……あんまり煽らないで……?
俺が自分の煩悩と戦っている中、デコちゅうだけでは物足りなさそうなアメジストが、不服そうに俺を見つめている。それだけで、俺の頭の中は18禁なアレやコレで一杯になってしまって、自分を抑えるのがホントに大変な事になってしまう。
でも……、スゲー幸せ。
「取り敢えず。何が起こるか予想もつかないから、絶対に! ブラッドとヘンリーには近付いたりしたらダメだからね? あと、計画実行の日は、出来れば講義にも出ないで、自分の部屋に閉じこもってて欲しい。……約束してくれるよね?」
「はい……、解りました……」
脳みそ解けそうな幸福感に包まれながら、小姑のように何度も同じ注意を繰り返す俺に、アンジェリカは、トロンとした表情で了解の言葉を発した。
ホントに理解してるのか?
あまりにウットリしている彼女の様子に、チョット心配になってしまう。
なので、彼女から一歩離れて、真剣な表情で彼女を見つめた。
そんな俺の変化に気付いたのか、アンジェリカも真面目な顔で俺を見つめてくる。
「絶対だよ? もし、俺との約束を破って危険な目に遭ったりしたら、本気でお仕置きするから……、な……?」
思わず、素の話し方で言ってしまった。
そんな、いつもと違う少し乱暴な俺の言葉にアンジェリカは最初、驚いた様な表情を見せていた。だが、直ぐに頬を染めて小さく頷くと、再びウットリと俺を見つめてくる。
「はい……。もし、私が約束を破った時には、お仕置き、して下さいませ……」
ウットリとした表情で、そのセリフ。
アンジェリカさん、反則です!!
気持ち前屈みになってしまったのは、健全な男の子として当然の反応だと思ってる!
幸せな朝のひと時のおかげで、俺はその日、一日中ご機嫌に過ごしていた。
同じくらいご機嫌なルイスと連れだって、いつも通り放課後のカフェテリアを訪れた時、何時も俺達より早くに来ているアンジェリカとジェシカがまだ来てないなとは思ったが、たいして気にしていなかった。
直ぐにやってくるだろう。なんて暢気に考えていたのだ。
よくよく考えれば、こんなのフラグでしかありえない。なのにこの時の浮かれきった俺には、何を感じることもできなかったんだ。
しかしいくら浮かれた俺でも、いつもミシェルたちが陣取っている場所に、ヘンリーとヒューイしかおらず、2人がソワソワしているのに気付くと、背筋に言い知れない悪感が走った。
妙に心臓がバクバクして、変な汗が次々と噴き出てくる。脳内の危険信号が、すごい速さで赤く点滅してる。
ドンドン大きくなる不安にルイスを見ると、奴も同じ表情で俺を見ていた。
今すぐ迎えに行ってみよう。きっとまだ講義室にいるはずだ……。
そう考えて立ち上がったその時、
「殿下……。アンジェリカ様・ジェシカ様・ミシェル様・ジャッキー様の4人が、ブラッド様のあの部屋に囚われてしまったと、お二人の執事から連絡が来ました」
いつもとは違う、無感情なダニエルの声が背後から聞こえてきた。
「楽しみにしている人がいるはずだ!!」と、萎えた気分をふるいたたせて書いてます。この山場を越えたら、2人のイチャラブを存分に書けるはず!
頑張れ!自分!!
凌辱系が苦手な方は、この後からジャッキーの閑話まで飛ばしてお読みください。