26 体の力が抜けていく
今から書きあがり次第投稿していきます。
3話を予定してますが、睡魔に負けたらごめんなさい
「あちらの罠にワザワザ掛りに行かず、こちらで罠を張ってお待ちすればよいのでは?」
笑顔で爽やかに言ってのけたダニエルに、俺は目から鱗が落ちる気分を味わった。
まったくその通りだよ!無理ゲーを正面突破する必要なんてどこにもねーじゃん!!
土管ワープ並みに、ステージスキップしてやれば良いんだよ!
見れば、ルイスもジャッキーも口と目を大きく開いて、ダニエルを凝視している。まさしく、盲点を突かれたって感じだぜ……。
愚直に正面突破する事しか考えられなくなっていたとは、俺たちはよっぽど余裕が無くなっていたようだ……。
こんな時、やっぱりダニエルには敵わないと思うし、本当に頼りになると思う。
「確かにそうっすね……。……おれ、自分で上手い解決策を見つけられなかったんで、今日ここでダメもとで相談してそれでも何も案が出ないなら、もぅ、彼女を連れて逃げるしか無いかと考えてたんですよ……」
ジャッキーが気の抜けた様な表情で、茫然と呟いた。体中の力も抜けたのか、椅子の背もたれにズルズルと体を預けていく。そんな様子を見ると、彼がどんな気持ちで、今日この場へやって来たのかが痛いぐらいに解った。
どこか投げやりに見えていた彼の態度は、まさしく投げやりそのものだったらしい……。
連れて逃げるしかないと考えてはいても、逃げたその先をどうすれば良いのかは解らない。先ず、何処に逃げれば良いのかも解らないのだ。
だが、このままここにいることを選んでも、ヘンリーとブラッドをどうにか出来なければ、好きな女が地獄に落ちていく様を見なければならなくなる。
そら、投げやりにもなるわ。むしろ、今日の話合いまで、良く頑張ったよ。
「僕も、カイルにはあまり危険なことに首を突っ込んで欲しくなかったから、ちょっと安心したかな。……駄目だな、僕は。どうしても僕は、彼女が絡むと冷静な判断ができなくなるみたいだ……」
ルイスも体の力が抜けたようで、椅子に深く腰掛け、瞳を閉じて顔を上向かせ、大きなため息を吐いている。
その表情に浮かんでいるのは、安堵だろう。
ルイスは、子供のころからジェシカに惚れていた。しかし、自分の気持ちに気付いた時には、ジェシカにはもう、ロバートという婚約者がいた。もう絶対に手に入れることは出来ないと思っていたのに、今回の騒動がおこり、奇跡的に宝石を手中に収めるチャンスが巡ってきたのだ。
ルイスは今、ジェシカを手に入れるために必死で外堀を埋め、ジワジワと彼女が逃げ出さない様に口説いているところだ。
次こそは誰にも盗られるまいと、必死になってるんだよな……。
「……俺もだよ……。彼女が危険にさらされるかと思ったら、冷静な判断なんて全くできない。こんな時はホントに痛感するよ……。自分が、まだまだ糞ガキなんだって……」
俺も全身から力が抜けて、だらしなく机に懐いてしまった。思った以上に体に力が入っていたらしい。ホッっと息を吐いたら、肩が軽くなった気がした。
ここ数日の間の、想像を絶する変態との心理戦で、思った以上に精神が疲弊していたんだな。
マジで、優秀な側近達がいてくれてよかったと思う。
俺は一人じゃ何もできない自信がある。俺だけの考えで動けば、大きな間違いを犯すと思うんだ。だからこそ、信用できる優秀な側近が傍にいて意見してくれるのは、とても大切なことなんだ。
本来なら、穏やかな学園生活を送りながら、自分の側近を育てるってことが、王族が学園そ卒業するまでにしなければならない、一番の仕事だ。
俺は暴君になるつもりなんてない。優秀で信頼できる側近達に仕事を割り振って、隅々に目の届く国造りをしていきたいんだ。
だからこそ国を治めるときには、優秀な人材は何人いても良い。
自分の思想に是を唱えて、その為に一緒に国を導ける人材が必要なんだ。イエスマンはいらない。力を誇示する奴も、自分が一番正しいと思って政治を行う奴もいらない。共に考えることのできる人材が必要なんだよ。
今の所、優秀な側近はルイスとダニエルしかいないが、ダグラスだってこの先の回復次第では、充分な戦力となる。来年には、俺の弟やロバートの弟も、入学してくる予定だ。
聞いた話によると、彼らに対しては既に側近教育が始まっているらしい。
ジャッキーも、どうにか此方に組み込む事が出来ないか……。今、思案中だったりする。
こうして俺の側近育成計画は、進行中なのだ。
俺が、将来のことに思考を飛ばしている間、ダニエルは静かにお茶を入れ直す支度をしていた。
俺の意識が区切りを迎えたところで、タイミングよく今の話し合いの議題へと意識を引っ張ってくれる。こんな所も、本当に優秀だ。
「まあ私には、あの程度の魔力・魔術結界の魔術具は効果がありませんので、何かあれば対処はさせていただきます。なので皆さまは、思いっきり自分の力を試して頂ければ良いかと思いますよ?」
冷めてしまった紅茶を入れ替えながら、ダニエルの心強いお言葉。
ダニエルさん……、ちょっとチートすぎませんか?
“ダニエルのバックアップ”という最強のジョーカーを手に入れた俺たちは、次々と強気な作戦を立てていった。
まず、奴らの張り巡らせた罠の詳細だが……。
今日、ミシェルとジャッキーがこの部屋に訪れることは、奴らも知っているらしい。
ミシェルが俺と親しくなりたいと希望した事になっているらしく、ジャッキーは余分なライバルが増えないよう見張るために同席するという名目で、付いて来たそうだ。
他の連中では、俺やルイスと確執があって入室許可が出ないだろう事を危惧したんだと。そこで、殆ど俺たちと接触していないジャッキーが、ヘンリーに見張りを命じられた訳だ。
ジャッキーにはココで、ある程度俺たちと親しくなるように指令が出ているらしい。三日程かけて俺たちとの友好を深めて、嘘をついてヘンリーの部屋へ誘導する予定、らしい……。
ヘンリーの部屋にさえ入ってしまえば、奴の用意した結界と媚薬で、俺たちを捕えることは簡単に出来る。そして、捕まった俺達を誰かが助けに来れば、そいつらも一網打尽で捕えてしまおうなんて、考えているようだ……。
やっぱり、計画が小物臭い。
エゲツナイ計画を立てているかと思えば、計画の根底は小物臭がプンプンしていて、なんともアンバランスな気がする。
そこが気になるところなのだが、それが作戦の全容だというのだから、それに合わせてこちらも対応しなければならない。
これらの事を踏まえて、俺たちは裏をかくように綿密に計画を立てていったのだった。
話し合いが終わった時には、だいぶ遅い時間になってしまっていた。
俺との親交が出来た事を解りやすく示すため、ミシェルはダニエルに部屋まで送らせることにした。
「気をつけて戻るんだよ?……また、明日……ね」
「…………」
部屋の前で別れるとき、ジャッキーが甘くミシェルに声を掛けていた。
それに対して、ミシェルが不安そうな瞳でジャッキーを見つめている。
「大丈夫。俺が、絶対にあいつらから守ってやる。だから……、そんな顔、するな」
「うん……。絶対に、守って、ね?」
まあ、こいつらはコレが平常運転の様だから、これぐらいはやっておかなければ怪しまれるんだろ。
それは解るんだが……。
しかし、俺たちの目の前では辞めて欲しい!
ミシェル! 頬を染めてポーッとするのはやめなさい!!
ジャッキーも! その雄丸出しの視線は、禁止ですよ!?
別に! う、羨ましくなんか、ないんだからな!!