19 ビッチの話が凄い!
書き始めた頃は、20話位で終わるはずだったのに…
ダラダラならないよう頑張って終わらせたいと思っていますので、もう暫くお付き合い下さい。
ミシェルに聞かされた話は、かなり衝撃的な内容だった。
「つまり、乙女の妄想を追体験出来る仕組みって事なんですよ!」
乙女ゲームを知らない相手に、そのシステムや内容を詳しく説明するのはかなり大変だったようだ。ゲーム機械自体や乙女ゲームの意義などを説明する為に、よく解らない例え話をふんだんに盛り込んで話してくれたのだが……。
ゲーム自体の説明だけでかなり時間がかかり、大切な現況説明まで中々辿り着かない。
それに、必死で説明してくれているミシェルには悪いが、多分ルイスには、話の殆どを理解出来なかっただろうと思う。ダニエルは……、どうだろう?
ダニエルだからって理由だけで、理解出来ていそうな気がしてしまうのが、不思議だ。
あと、ミシェルの話からわかった事だが、彼女の中の人はどうやら、俺が事故にあった時近くにいた女子高生の1人みたいだ。あの、ゲームの話をしながら、アンジェリカをディスってた女子高生。
俺は即死だった為、直ぐにカイルとして此方の世界で意識を持つ事が出来たが、ミシェルは、一月以上生死の境を彷徨っていたらしい。
その状況の中、あのゲームをプレイしている夢を、時々見ていたそうだ。
それが、最近夢がリアルに感じられる事が増えてきたなぁと思っていたら、気付いたらその世界が現実になってしまっていたと。
なので、まだかなり混乱しているとも言っていた。
さらに、もう1人の女子高生の生死がどうなったのかは知らないらしいので、もしかしたら転生人が増える可能性もある訳だ。
あの時、あの場所には、かなりの人が居たのを覚えてる。丁度通学時間だったからな。
その辺の事も踏まえて考えると、一体どれだけの人があの事故で死んで、どれだけの人数がこの世界に転生してきたのか、想像もつかない。
ミシェルもそう思ったからこそ、俺達を転生者だと思ったらしい。
さて、気になる現状の話なんだが……。
まず、あのゲームは3種類の基盤で発売されていた。家庭用ゲーム機2種類とパソコン版だ。全ての機体で全年齢用ソフトとして発売されていたのだが、先行発売されていたパソコン版にだけは、追加ソフトが3種類もあったらしい。
その追加ソフトは、全てR18。
1枚は全年齢用のゲームに、エロ要素とシナリオが追加された、補完版。
1枚は腐女子用で、ヒロインの働きで攻略対象達がカップルになっていくという、誰得なのか解らない、BL版
1枚は男性用で、鬼畜眼鏡or俺を主人公にヒロインやライバルキャラ達を、次々に喰い散らかすっていう、ヤリチン版
という、何とも言えない追加ソフトだったらしい。
俺の妹は、家庭用ゲーム機でプレイしていたので、そんな物がある事すら、俺は知らなかった。
ミシェルも自分ではプレイをしていないらしく、友人の“やっちゃん”とやらがプレイした情報を聞いていただけの様だ。しかし、結構詳しくアレコレと話してもらっていたので、シナリオの流れ自体は解るという事だった。
ただ、詳しいルートの分岐点や、ルートへの突入起点までは知らないので、自分の知っているシナリオの内容と現況を照らし合わせて、推測する事しか出来ないそうだ。
因みにやっちゃんとやらは、全ての追加ソフトも完クリしているらしい。
そして、気になる現状だが。
イベント展開から考えて、鬼畜眼鏡メインのBL版か、ヤリチン版のシナリオが動いている気がすると言われた。
今日のカフェテリアでの一件は、どうやらイベントだったらしいのだ。
色々とゲームとの齟齬はあった様だけど、あそこで「合流して話し合いの席を作る」という選択をしていたら、俺達の内、誰かがブラッドに美味しくいただかれる事になっていたらしい。
恐ろしい話だろ?
「なにそれ? 僕たちの内誰かって……、男でもイケるって事だよね……?」
「ゲームの中では、『眼鏡が鬼畜な両刀をかけている』と、言われていた様な人物だったので……」
話を聞いたルイスが、思いっきり顔を引きつらせていた。それに答えるミシェルの返事の内容も、なんかおかしい。
それじゃあまるで、眼鏡がヤツの本体の様に聞こえるぞ?
そうは思っても、突っ込まない、イヤ、突っ込めない。俺は、あまりの恐怖に声も出ないんだ。
あんまり怖いものはない俺だけど、唯一、ホモは怖い。生前にチョット、トラウマがあったりするんだ。
それにしても……。
ブラッドの視線を感じるとケツを隠したくなるのは、正しい反応だったって事なんだな……。
そしてミシェル自身の話だが。
彼女の現在いるシナリオは、ヘンリーエンドに進んでいる様な気がするらしい。しかし、鬼畜眼鏡にも狙われている気がするし、奴のターゲットが誰なのかハッキリ解らなくて、混沌としているという事だった。
自分の身の危険を感じ、この先どうするか悩んでいた所、今日の俺たちとのカフェテラスでのやり取りを見て、俺たちが転生者である可能性に思い至ったそうだ。
そして、同じ危険を感じている仲間だと思い込んで、思い切って声をかけてみる事にしたらしかった。
協力して貰うなら、一刻でも早いほうが良いと思って、こんな非常識な時間に訪ねて来たのだという。
それにしても……、恐ろしい話だよ。
ミシェルは、ゲームをしている時には特に何も思ってなかったのだが、転生してみたら自分がとんだビッチで、しかも詰みかけている事に鄂然としたと言う。
このままじゃ、転生→終了、となってしまうので、なんとか挽回しようと頑張っていて、だから協力して欲しいと。
気持ちはよく解る。俺がもしビッチに転生したら、発狂する自信があるもんな。
取り敢えず、今夜は情報のあまりの内容に頭がついていかない為、明後日の夜同じ時間に俺の部屋で集まる事に決め、今夜は解散する事にした。
ミシェルには明日、明後日と講義を休んで部屋から出ないよう、見舞いも断る様にとアドバイスをしておいた。
「ルイス、今日の話、理解できたか?」
「いや、殆ど何を言っているのかわからなかったよ。……君は?」
「……俺も、あんまりだな…。……お互い一度頭を整理して、明日の夜に話合わないか?」
「そうだね。頭を整理する時間が必要だね。」
ミシェルの部屋まではダニエルに送らせて、その間俺とルイスは明日、明後日の予定を決めた。
さらに、
「それよりも……。大きな問題があるよ、カイル。」
「ああ…。」
「2人になんて説明する?誤解される未来しか見えないよ……」
「……俺もだよ…」
アンジェリカとジェシカに、ミシェルに会う事をどう伝えるかで頭を悩ませるのだった……。
翌日、朝食を終えてから、俺達2人はアンジェリカとジェシカの元へ行き、素直に昨夜ミシェルに会い、奴らの情報を聞いた事と明日の夜にも会う予定である事を伝えた。
泣きそうな顔をされましたよ?
今なら軽く死ねると思った……。
俺たちはチラリとアイコンタクトを交わし、2人を芝生メインの中庭に連れて行き、目は届くが声は届かない程度の場所に分かれる。
そこからは必死だったよ?
「アンジェリカ、俺の心は何時も君にあるんだ。俺がしたくもないこんな事に手を出すのも、どんな小さな危険からも君を護りたいからなんだよ?」
アンジェリカの手を両手で握り、額に押し付ける。
普段彼女には使わない“俺”という一人称を使ってしまう程、余裕なく必死でかき口説いた。
どんなに大事に思っているか、好きなのかを言葉を飾ることも出来ず、ストレートに伝え続ける。
「カイル様……」
俺の必死な様子で気持ちが伝わったのか、優しく俺の名を呼ぶアンジェリカの可愛いい声が聞こえてきて、目を上げる。
すると、アンジェリカは顔を真っ赤にして、とろける様な笑顔を浮かべていた。
「解りましたわ。……私は……、カイル様の気持ちを信じます!」
女神のお許しが出ました。
コレでもう、怖いもの無しだ!!
やっとカードが出揃った感じでしょうか。
長かった。




