18 ビッチの秘密
2/3まで書いてた内容が吹っ飛んでしまい、今日は書くの止めようかと本気で思いました(泣
俺は、ビッチを伴って部屋に戻ってきたダニエルに、驚きの目を向けた。
俺がビッチを嫌悪している事を、知っているはずなのに……、何故?
優秀な執事ならこんな時、スムーズにお引き取りを願うはずだ。時間も時間だし、婚約者でもない女性を招く時間じゃない。
俺の視線に気付いたダニエルが、控えめな笑顔をこちらに向けてきた。
その無言の笑顔は、ビッチの話しを聞く様に促している。
なるほど……。こいつの話は、今の俺たちに必要って事なんだな?
ダニエルには、俺たちには見えないものが見えている。ビッチがこの部屋に来た事で、近い未来に俺に関係する何かが見えて、その事が今の俺たちに重要な何かだったんだろう。
そういう事ならしかたない。
「こんな時間に、男性の部屋を女性一人で訪ねてくるなんて、何かあったのかな?……まあ、取り敢えずお茶でも飲みながらゆっくり話を聞こうか? ……ダニエル、そちらのお嬢さんの席を用意してくれ」
俺の言葉を待つまでも無く、ダニエルは手早く俺とルイスが囲んでいるテーブルに、ビッチ分の席と紅茶を用意する。俺達の飲んでいた緑茶も下げられ、新しく紅茶が用意された。
なら俺は、出血大サービスで、貼り付けた笑顔を披露してやろう。まあ、嫌味ぐらいは言わせてもらうが? それぐらいは当然だろう。
こんな時間に突然訪ねてきやがって、アンジェリカに変な誤解をされたらどうしてくれるんだよ!
ルイスも俺と同じ様に、表面上だけはウェルカムな作り笑顔を見せている。
「あ、ありがとう……ござい……ます」
ビッチは俺達の作り笑顔に気まずそうな顔をして、テーブルに着いた。チラチラとこちらを見るビッチの瞳は、怯えているのか潤んで揺れている。
どうやら、笑顔を向けている俺たち二人が、彼女を全く歓迎していない事に気付いているらしい。
どうやら人格が変わった事で、空気を読む事が出来る様になったらしい。
「……………」
「……………」
「……………」
き、気まずい。
ビッチは何か言いたげにチラチラとこちらを見ているが、何も喋り出さない。
ビッチが何も言わないので、俺達がしゃべり出す事も出来ず、自分の心臓の音が聞こえそうな位静かな部屋に、それぞれが紅茶を飲む音だけがやけに響く。
ビッチ! お前、話があってここに来たんだろう? なら、この空気をなんとかしろよ!?
少し厳しい視線をビッチに送ってみた。
すると、ビッチは意を決した様に顔を上げ、俺たちを見つめてきた。
「……あの……、お二人は、もしかして転生者ですか!?」
空気に耐えられなくなり、ソワソワし始めていた俺に、とんでもない爆弾が降ってきた。
転生、やっぱり来たよこの展開!
硬直しそうになるのを、意志の力で無理やり押さえつけ、訝しそうな表情を作ってみせる。
「転生?」
俺は「何だそれは、訳がわからん」と言いたげに、ビッチに短く尋ねる。
ビッチなんかに、俺の秘密を握られるわけにはいかない。ルイスにもアンジェリカにも、誰にも知られるつもりはないんだ。
……ダニエルには、バレてるような気はするが、それはまぁ、ダニエルだし……な。
チラリと、ルイスの反応を確認する様に視線を向けると、彼は不審そうにビッチを見ていて、俺に注意を向けている様子はない。
「え……? 違うんですか?」
俺達の様子に、ビッチは当てが外れたようにオロオロしはじめた。
「転生者じゃないのに、あのフラグ回避率ってどういう事なの? ……この世界って……、まさか違うの? ……でも、これだけ類似性があるのに……? しかも、今の状況ってヤッちゃんが言ってたアレだよね、絶対。」
何だかブツブツ言い始めた。どうやらビッチは、この世界が『君のために全てをかけて』の世界だと、確信が持てなくなってしまった様だ。
ルイスのビッチを見る目は、不審者を見るソレになっているが、俺はビッチの言葉に固まってしまった。
ビッチの言った“今の状況”って言葉に引っかかったんだ。
それは、このカオスな現状にビッチは心当たりがあるって事だろ?俺が知らない何かを、ビッチは知っているって事だ。
あのゲームって……、色々な隠しルートでもあるのか?
「いえ、あの、私の行った事、忘れてください! すみません! 訳の解らないことで、こんな時間に押しかけてしまって!!」
「いや、それはきにしなくても良いんだよ。……それよりも、今の状況って言ったけど、何か知っているなら教えてもらえないかな? 話によっては、力になるよ?」
ビッチが当てが外れた様子で、何とか誤魔化して帰ろうとし始めた。なので俺は、何とか“今の状況”について話をさせる為に、協力を匂わせる。
まあ、俺だったらこんな所で転生の話なんかしないが、ビッチならどうだろうか?
「いえ、本当に何でもないんです。ただ……、お、お2人と話してみたかっただけ、なんですよ!」
わざとらしく笑いながらそう言ったビッチを見て、中身は常識とそれなりの観察眼を持った人物に変わっている事を確信した。まぁ、多少迂闊なところがあるのが気になるが、入れ替わる前の人格と比べれば、見逃せる範囲だ。
それなら、こちらも態度を改める必要がある。
「ダニエルが此処に招き入れたという事は、例え君の話がどれだけ嘘くさかったとしても、今の私達には必要な情報だと判断したって事なんだよ。だから……、どんな事でも良いから、是非、教えてくれないかな? お願いだ……」
真剣な顔でお願いして、頭を下げた。
頭まで下げた俺を見て、ルイスもビッチもかなり驚いた顔をしている。
でもここは、重要なターニングポイントの筈だ。絶対に外す訳には、いかないんだ。
この情報を得る為なら、俺の頭くらい、いくらでもビッチに下げるつもりだ。
俺の真剣さが伝わったようで、ビッチ……いや、ミシェルは暫く黙って俯き、考え込んでいたが、何かを決意した様に顔を上げた。
「解りました。……今から私は、ファンタジー小説のような話をします。とても信じられないとは思いますが、少なくとも私にとってはこの話は現実として起こっている事なんです。そして今の状況は、私とあなた達の未来に大きく影響がある事です。お2人に、私の話が何処まで理解できるか解りません。この世界では、見た事も聞いた事もないような文化の話なので……。私も、上手く説明できる自信はないです。それでも、良いですか?」
しっかりと“理解できないだろう”と前置きをし、俺たちに確認を取ってきた。ミシェルが向けてくるその瞳は、真剣そのものであり、また、どこか縋りつくようなものでもあった。
その様子から、現状の彼女がよっぽど追い詰められているのだという事が、察せられる。
彼女が追い詰められている原因は、間違いなくヘンリーとブラッドの執着のせいだろう。彼女が転生者なら、今の状況の異常さと、詰んでいる現状を理解している筈だからな。
「ああ、なんとか頑張るよ。」
「僕も……、良く解らないけど……、頑張って理解出来るよう努力するよ。」
だから俺は、真剣さが伝わる様にミシェルの瞳を見据えて、しっかりと頷いてやる。ルイスも戸惑っているようだが、前向きな返事をしている。
俺達の反応で少し安心したのか、ミシェルの表情からこわばりが消えてきた。そして彼女は、気持ちを切り替える様に一度大きく息を吐いてから、徐に話始めた。
のだが……。
その内容はとんでもない物だった。




