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17 そこは恐怖スポットだった

「カイル殿、少しあなたと話したい事があるのですが、時間を作って頂く事は出来ませんか?」


ヘンリーが俺に接触してきたのは、ビッチの人格が完全に変化したと感じた2日後、いつもの様に6人でカフェテリアで過ごしている時だった。

奴はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、俺達6人の元へ近づいてくる。

その様子は如何にも、「色々企んでますが何か?」といった感じで、小物臭がハンパない。王子のくせに小物臭が漂ってるとか、こんな王族が治めている隣国は、色々な意味で大丈夫なのかと心配になるよな。


ここは肩の一つでもすくめて見せて「怪しい人には、飴をあげると言われてもついて行くなって、ママから言われてるんだ。」とかウィットにとんだ感じで断りたい!

向こうの方で、鬼畜眼鏡が愉しそうに笑っているのが怖いんだよ!!

あれ、絶対に裏で糸を引いてるだろ!?

ヘンリー仕えている執事が、自分の主人に対する様に、ブラッドに紅茶の給仕をしている様に見えるのも、何だか意味ありげで不気味だし!


「最近は、周囲がゴタゴタしているので、僕たち別行動をしないようにしているんですよ。6人全員でお話をうかがっても良いのであれば、場所を移動しましょうか?」


俺がブラッドに対して、若干怯えている事に気付いているルイスが、(彼も同じ恐怖を感じたらしい)俺の代わりに笑顔で対応してくれる。

俺はワザと機嫌の悪そうな顔で、チラリとヘンリーに視線をやり、直ぐに興味がなさそうに顔を反らす。

この国の皇子として、隣国の王子に対する態度ではない事は重々理解しているが、「お前らが何か企んでるのは解ってるんだぞ。」という事を態度に出しておく事は必要だと思う。

すごい顔で睨まれた事もあるんだしね。


「別に皆さんでいらしてもらっても、此方は一向に構いませんよ。私は、カイル皇子とゆっくり話せる時間が欲しいだけなので、ね。」


ルイスからの遠回しなお断りに気付かないふりをして、ヘンリーは食い下がってくる。

その様子に俺達が渋い顔をしていると、ふと何かを思い出した様な表情をして、ビッチに向かって大きな声で話しかけ始めた。


「……ねえ、ミシェル! キミ、皇子とゆっくり話してみたかったんだろう? いつも「素敵だ、素敵だ」って騒いでいたよね? ……そう言えば……、最近は言わなくなったかな?」

「…そう、…ね! す、素敵!! カイル様とお話ができるなんて………!」

「ほら、ミシェルもああ言ってるし。この間の騒動に関する話もしたいんだよ」


ヘンリーは企み顔で、向こうにいるビッチに向かって笑いかける。突然話を振られたビッチは、呆気に取られていた表情を無理やりはしゃいだ物に変え、喜んで見せた。

ヘンリーはそんなビッチの反応に便乗する様に、更に食い下がってくる。

俺たちには話す事などないし、ヘンリーやブラッドといった変態に、近づきたくもない。

どうやって断ろうかと、ヘンリーに向けていた視線をビッチ達の方へ向けると……。


ビッチ、お前……思いっきり顔が引きつってるぞ?

キャラも作りきれてないし……。


そして、そんなビッチを見るヘンリーの瞳には、危ない色が見えているし、ブラッドの瞳には……。

俺は、何も、見なかった!!


何アレ! 下手なホラーハウスより恐怖なんですけど!?

恐怖の種類は違うけど!!


そっと視線を奴らから外しこちら陣営を見ると、ルイス、アンジェリカ、エイプリルの表情も引きつっているように見える。

ダグラスとジェシカは、そんな俺たちを不思議そうに見つめていた。


……やっぱ、鈍感と天然は最強なんだな……。

こんな時は、鈍感になりたいと思うよ、マジで。


さて、どうやって断れば、この場をうまく切り抜けられるだろうか?


「カイル様、確か今日中に確認しておく書類が数枚あった筈ですわ。今日はそちらを優先された方が宜しいかと存じますけど?」


俺が悩んでいると、アンジェリカが助け舟を出してくれた!!

ありがとう! 俺はその船に全力でしがみつくよ!!


「そうだったね。……と言う訳で、申し訳ないのですが、貴方の話は後日改めて聞かせていただくと言う事で、宜しいですか?」

「そういう事なら仕方ありませんねぇ。」


俺は立ち上がり、何時もの笑顔をヘンリーに向ける。ヘンリーは、含みのある笑みのままこちらを見ていたが、それ以上食い下がってくる事は無かった。


「それから、貴方のお話がロバートに関する事だというのなら、私に話せる事は何もありません。彼の事は、レッドフォード家と皇国の問題ですので、他人……況してや他国の方に安易に話せる事では無いのですよ」


奴らは、やたらとロバートの件でこちらに絡んでくるので、「お前らに話す事など何も無い!」と宣言しておく事も忘れない。

言いたい事は言ったので、皆を立たせてさっさとこの場を離れる事にした。


「じゃあ、執務室に戻ろうか。」


そう声を掛けると、奴らの方を見る事もなく、俺たちは足早にその恐怖スポットを後にしたのだった……。

断じて逃げ出した訳では無い! これは、戦略的撤退なのである!!

繰り返して言うが! 戦略的撤退なんだ!!



執務室に避難した俺たちは、夕食の時間になるまでグッタリとした気分で過ごしていた。精神的疲労がハンパ無かったんだよ。

ダニエルの淹れてくれるお茶にも、誰も手をつけられない様な有様だ。

……いや、違うな。ダグラスとジェシカはお茶を楽しんでる……。やっぱり、鈍感と天然は強い、という事か。

俺達とは精神の作りが違うのだろう。

でも……。二人は元々、“鈍感”でも“天然”でも無かった筈だ。なのに、どうしてこんな風になったんだ?

考えられる理由としては、傷ついた心を守るために、これ以上傷つけられない様にわざと鈍感になっているのかもしれない。人の心の自助作用というものなのだろう。



そうして数時間を執務室で過ごした後、女性達を寮に送り届け、くれぐれも1人で行動する事のないように言い聞かせてから別れた。


夕食はルイスとダグラスと3人で取り、その後はいつもの様にルイスと2人で、俺の部屋で食後のティータイムだ。

優秀なダニエルは、今日もしっかり緑茶を準備してくれていた。


「ありがとう、ダニエル」

「当然の事で御座いますよ」


心から礼を伝えれば、さすがの返答。

今日の緑茶は特に心に染みる。


だってさ……

今日はマジで怖かったんだ。

変質者に感じる恐怖って、理屈じゃないんだよ、ホントに。


大きく深く溜息を吐くと、向かいでルイスも同じような溜息を吐いていた。


「あれ、どうしようか? 本音で言えば、心の底から関わりたくないんだよねぇ。」

「……激しく同意する。俺も関わりたくない。でも……」

「そう、でも……なんだよな……」


ふぅ……。

2人で目を合わせ、大きな溜息を吐いた。


大切な人に害が及ぶ可能性がある限り、“関わらない”という選択肢は選べない。

どんなに恐怖体験確定な相手であっても、立ち向かわなければならないのだ。


俺の敵になる奴らは、どうして宇宙人ばかりなんだ?

しかも今回は、狡猾で人を食料にする様な、人類に対する害が大きいタイプのヤツだ。

なのに、こんなヤツと戦うには、圧倒的に情報が足りないときた。

戦いにおいて、情報は最大の防具であり武器だからな。

それが解っていても、更に奴らの事を探る事を、ルイスにはもうさせたく無いし、自分でするつもりも無い。

危険な事が解っているのに、させられる筈が無い。


「ダニエル……。頼んでも、良いか?」


半泣きでダニエルを呼ぶと、すぐ隣に現れ、「やれやれ」という表情をされてしまった。それでも。


「承知致しました。」


優秀な執事は、主人のこんな情けない頼みも、当然の事として引き受けてくれるのだ。俺の執事がダニエルで、ホントに良かったよ!


ダニエルの返事を、息を詰めて聞いていたルイスもホッとした様に笑顔を見せ、俺たちはやっと肩の力を抜く事が出来た。


そんな時、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。


こんな時間に誰だ?


夕食を終えたこんな時間に、約束も先触れもなくやって来るなど普通はあり得ない。

先触れは、それ専用の魔術具を使って侍女や従僕、執事の間で、静かに応対されるので、部屋の扉をノックする事などない。

扉をノックするという事は、直接学生か教師が部屋を訪ねてきたという事を意味するのだ。


そんな不審な人物に、静かにダニエルが動き、対応しに行く。


暫くして戻ってきたダニエルの後ろに居たのはーーーー


「こんな時間に、しかも突然申し訳ありません。」


思いつめた表情をしたビッチだった。

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