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15 謎は深まるばっかりだ

部屋に戻るとお茶の準備は既に整っていた。ルイスに席を勧め、自分も座る。

俺たちが席に着くと、いつの間にかテーブルサイドにいたダニエルが紅茶を淹れてくれた。

ダニエルはお茶を淹れると、再び空気のように存在感を消してしまう。


俺は紅茶を飲みながら、「ホントは食後には、緑茶が飲みたいんだよなぁ」なんてボンヤリと考えていた。


「申し訳ありません。」


先程存在感を消したばかりのダニエルが、再びテーブルサイドに立現れる。

その手に持っているのは、急須。

そっと、俺とルイスの前に魚の種類が漢字で書かれた湯飲みが置かれた。事前に温められていた湯飲みに、急須からお茶を注いでくれる。

ダニエル、マジエスパー。

しかも、この湯飲みのチョイスが堪らない。どこで手に入れたんだ? この湯飲み。


色々と突っ込みたいのだが、今日の俺はとてもお疲れだ。

だから、今日のところはスルーしておいてやろう!


俺は椅子に深く腰掛けて、久しぶりの緑茶を堪能する。この世界で緑茶を楽しめるとは思ってなかっただけに、その分感動もデカイ。

日本にいた時は、夕食の後は必ずほうじ茶か煎茶を飲んでいた。別に特別な拘りがある訳じゃないから、手順を踏んだ淹れ方なんてせず、急須に適当にお茶っ葉を入れてヤカンで沸かしたお湯を入れるってだけのものだったが。


「ふぅ……。やっぱり食後には緑茶だよな」


疲れた身体に、緑茶が染み渡るような気がするな。

俺は、幸せ気分で満足の溜息を吐いた。


俺の向かいでは、ルイスが不思議そうな表情で、恐る恐る初めて飲むお茶を啜ってた。飲んでみると以外と口に合ったのか、嬉しそうに微笑んでいる。


「初めて飲むお茶だけど、中々良いね。今の気分にピッタリ合う気がするよ」


イケメンな外人が魚湯飲みでお茶を飲んでる姿って、なんかシュールだよな。

……あっ、俺も今はイケメン外人だった!




緑茶で一息ついたあと、まずは、ビッチの新情報について話し合う事になった。


ダニエルの報告によると、ビッチのあの性格形成には母親が大きく影響しているらしい、という事が解った。


ビッチの母親は、所謂“高級娼婦”というやつで、しかも簡単には身を許してくれない、落とせた男はそれだけでステータスって程の有名人だったらしい。

その女性が現役の頃は、彼女を落とす為、色々な男たちが彼女を取り巻いたようだ。熱く愛を語り、色々な物を貢ぎ……。皆が必死で彼女の気を引こうとした。

そんな沢山の男の中から、彼女に選ばれた者だけが彼女に触れる事を許される。


顔を見れたら幸せ、会って話が出来れば幸運、一夜を共に出来れば果報者。そんな風に言われていたらしい。


彼女と一夜を共に過ごした、数少ない果報者。その中の一人が、ローン男爵だった訳だ。

しかし、彼女の母は失敗したのか、意図的だったのかは解らないが、ビッチを妊娠してしまった。その後ローン男爵に身請けされ、側女として迎えられることとなった。


色々な事を考えれば、ビッチはローン男爵の子供ではない可能性もある。しかし、ローン男爵は、これをチャンスとビッチの母親を手に入れたのだろう。

だからローン男爵は、妻の嫉妬と言い訳して他の男達から隠す為に、離れた場所にある別荘に彼女を囲った。

しかし、そこでも彼女の母は男達を翻弄していた。

何をする訳でもなくただただそこに存在するだけ。決して最後の一線を越えることも無く、微笑むだけで男達を傅かせ、思いのままに操る。いや、男達が勝手に動いてしまうのだろう。

別荘の中からは殆ど顔すらも出さないが、連日別荘には男達からの貢物が溢れ、彼女の気を惹くためにビッチにも傅いていたようだ。


それを目の当たりにして育ったビッチは、それが普通の事なんだと認識していたのだろう。母譲りの、しかし彼女より劣化した才能で、男達を陥落させていたのだ。

ビッチと彼女の母の大きな違いは、頭の出来だ。

母親は大きな問題にならない様にと上手く立ち回るが、ビッチは本能だけで動いているので、それが出来ない。結果、幾つもの問題を起こして今に至るのだ。




俺とルイスはこの報告を聞いて、ゲッソリとした。

そんな危険な特技を持つ娼婦がいた事にも驚きだが、劣化しているとはいえ、危険な才能だけ(それに釣り合う頭脳があれば……)しか受け継がなかったビッチが、野放しになっている現状。

学園でのビッチの影響を考えれば、下手をすれば国がひっくり返る事だってあり得るぞ……。


今の内に何か手を打っておかなければ、その内取り返しの付かない問題が起こりそうだ。ってか、もう起こってるか……。


「なんか……もうさ。隣国のヘンリー王子に、お土産として持たせてあげようよ、あの子。あの人に持ち帰らせたら、二度と表の世界に関わってくる事もないでしょ」

「ホント……、それが一番の方法に思えるよな?」


俺たちは瞳を合わせ、「ハハハ」と乾いた笑いを零した。




次にルイスの報告なのだが……。


「もうさあ、その時のジェシカの恥ずかしそうな顔が可愛くてさ、ついつい苛めたくなっちゃうんだよねえ」


デレデレな表情で、ジェシカと2人でビッチの噂を調べた時の様子を話し始める。


「こうやって少しずつ距離を縮めて行って、早くロバートより僕を好きになって貰うんだ……。そして、彼女が学園を卒業するまでには婚約出来れば良いと思ってるんだ」

「なんだ、気の長い計画だな? 邪魔者がいなくなったんだから、さっさと手に入れれば良いじゃないか」

「彼女の心を優先したいんだ……。ローリング家には話を通してるんだし、今まで10年以上もこの状況を待っていたんだから、後数年ぐらい、いくらでも待てるよ……」

「ルイス、お前……」


優しい眼差しでそう語るルイスは、ホントに男前だ。

相手が自分の腕の中に堕ちて来るのを待つなんて、何て気の長い男なんだ……。


俺は、ルイスの“愛”に感動していたのだが、奴はニヤリと悪い笑みを浮かべて俺を見ると


「でも、早くイチャイチャしたいから、全力で口説いてはいるよ? 獲物は追い詰めるだけじゃダメなんだ。常に逃げ道を見せてあげながら、ジワジワと囲い込まなくちゃ、ね?」


なんてぬかしやがった!


前言撤回! 俺の感動を返せ!!

そして、ジェシカ。逃げて! 全力で逃げて!!

魔王が猟犬の瞳で狙ってるよ!?


しかし、ルイスのことだ。きっと上手くいくのだろう。

ジェシカにとっても、それが一番の幸せに繋がるのだと思う。


傷ついたジェシカが癒され、親友の長年の恋が成就しそうな訳だから、いい事だとは思ってるよ?

でも、俺は忙しくてアンジェリカとデートも出来てない訳で……。毎日毎日ヘロヘロになるほどに疲れて……。

仕方ないとは思うよ? これも俺の仕事だしな、解ってる。


ここは、親友の幸せを祝ってやるところだよな……。


ルイス、おめでとう! そして、……爆ぜろ!!



その後も散々惚気を聞かされた後、ビッチの学園内での情報を報告してくれたのだが、その中に気になる事があった。


「なんかさ、時々フッと虚ろな目をしたかと思ったら、突然場所を移動するんだよね。そしたらその場所にヘンリーやジャッキー、ヒューイ、ブラッドがいるんだよ。まるでそこにいるのを知ってるみたいに行動するから、見ててチョット怖かったよ。「お告げ通りだわ!」なんて痛い事も言ってるしさ。でも、誰もいない場所に行く事もあって、その時は不思議そうに首を傾げて「最近お告げが外れる事多いな。」って。」


……これって……、どう考えたら良いんだ?

ずっと、もしかしたらあいつも転生キャラじゃ無いかと、心の何処かで疑ってた。

でも、あいつの行動は何かの“お告げ”による物だという。

ゲーム補正かとも思ったが、それなら誰もいない場所に導かれる事なんてないだろう。

本当に、どう言う事なんだ?

予想がつかない事に不安を感じる。これでは対策が立てられない。


じっとりとした不安に眉を顰めていると、そっと肩に手が置かれた。見なくても解る。ダニエルだ。

見上げると、ダニエルは何も言わずに微笑んでいた。

それを見ると、なんだか落ち着く。

何があっても、こちらにはエスパーダニエルが付いているんだ。そう思うだけで、根拠のない安心感が湧く。


ビッチの情報を知らない時は、わかっている事だけで対応してたんだ。マズイ対応もあったのかもしれないが、なんとかなっていた。

それに今は、俺1人で対応しなければならない訳じゃない。皆、力を貸してくれているのだ。


そう考えれば、どうとでもなる気がした。

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