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《閑話》甘い恐怖 (アンジェリカ)

あともう一話更新予定です。

お騒がせな4人が立ち去った後、カイル様にローズガーデンの散策に誘われました。


スッと私に向けて差し出された手に、羞恥を感じているのを表に出さない様に手を重ねる。カイル様は、そんな私の様子に、何もかもを見透かす様なエメラルドの眼差しを向け、優しく微笑みながら流れる様にスムーズにエスコートして下さいます。

この中庭は、学園の中でも特に庭師が力を入れている様で、様々な種類の薔薇が美しく咲き誇っています。なので、学生の間でも人気のデートスポットとなっているのです。


そんな場所を、カイル様と2人きりで散策するだなんて……。


嬉しくて……、それ以上に照れくさくて……。そして、先ほど頂いた薔薇の意味を思うと、カイル様の顔をまともに見ることも出来ません。

カイル様はそんな私の様子にも気づいている様で、私を見る瞳に揺らめく物を感じるのですが……。それが、どんな感情からくるものなのかは、解りませんでした。

でも、悪感情では無いと思うのです。


「アンジェリカはどんな花が好きなのかな? 次に贈る時の参考にしたいから、教えてくれないかな?」


少し変わった形の薔薇の花を2人で眺めている時に、不意に聞かれました。

私は視線をカイル様に向け、その私を見つめる甘い眼差しに、ここ数日頂いた花を思い出しました。

先程頂いたピンクの薔薇。お見舞いにと頂いたピンクのチューリップを中心として纏められた、可愛らしいブーケ。

それらの持つ意味を思うと、身体が甘く痺れるような感じがします。

カイル様が花を贈ってくださる様になってから、私の一番は……。


「以前は百合の花が一番好きでしたが、今はカイル様の気持ちが詰まった花なら、何でも好きですわ」

「ーーーーーーーーっ!!」


甘く微笑んでいるカイル様をウットリと見上げそう答えると、私を見るカイル様のエメラルドの様な瞳が少し見開かれたように感じました。そして、私の手を握る力が少し強くなった様です。


どうしたのかしら?


そう思って、首を傾げながらカイル様を見上げました。でも、カイル様は一度目を閉じた後には、ここ数日で私にいつも向けてくださるようになった、優しく甘い眼差しに戻っていました。

ただ、何だかカイル様の纏う空気が、少し粘度を持つ物へと変わったような気がします。その空気は、ただでさえ早くなっている私の鼓動を、更に速くさせるものになったようでした。


「じゃあ、次はもっと気持ちをこめないといけないね?」


蜂蜜の様な甘ったるい微笑みで私を捉え、カイル様は、今まで以上に私の心臓を困らせる、という宣言をされました。

その上


「……その内、私の気持ちを受け止めることの出来る花が無くなってしまいそうだよ。その時は……君が受け止めてくれるかな?」


甘い上目遣いで私を見つめ、最後の言葉と共に繋いだ手を引き寄せられ、手袋越しに口付けられたのです。

カイル様の瞳には、私を落ち着かなくさせる何か熱いものが滲んでいるような気がして……。

私は、その熱に堪らなく不安と期待を感じてしまいます。

ソレが何かは解りませんが、それを知った時、私は確実に今とは違う自分になってしまいそうな気がします。

私が思わず俯いてしまうと、クスッと笑い声がし、再び歩き出すよう促されました。


歩きながら、カイル様が色々な話題を話してくれるのですが、その内容が全く頭に入ってきません。せっかくカイル様とお話ししているのに……。

カイル様が素敵すぎて、私は目が離せなくなってしまいました。

気を抜くと不躾なほどカイル様を見つめてしまいます。その目が潤んでいる自覚はあるのですが、私は一体どうすれば良いのでしょうか……?

目が合う度に、カイル様の空いてる手が私に向かう様に少し動き、繋いだ手にも力が籠ります。その度に『抱きしめられたい』と思ってしまう自分に、戸惑ってしまいました。

これではまるで、はしたない女の様です。

私は、どうなってしまったのでしょう? こんな事を考えているだなんてカイル様に知られてしまったら、キット呆れられて、嫌われてしまいます……!


でも……。

そんな意志などものともせず、私の感情と身体は、カイル様を強く求めてしまうのです。


そうして、東屋に着いた頃には、カイル様を取り巻く空気が、むせかえるような甘さへと進化し、私を甘い恐怖で満たしていくのです。

嫌われたく無いのに、はしたなくもカイル様を求める気持ちが止められません。

カイル様の姿を視界に入れてしまうと、自分が止められなくなりそうで、彼から視線をそらしていたのですが……。


「アンジェリカ……」


カイル様の声に、つい視線を向けてしまいました。

名前を呼ばれただけだというのに、私は導かれる様にカイル様を見上げ、そっと瞳を閉じてしまいました。まるでキスをねだる様に……。


「ーーーーーーーーーっ!!!!」


グッと息をのむ音が聞こえ、カイル様の顔がそっと私に近づいてくるのを感じます。

でも、唇に触れると思っていたソレは、「チュッ」という音と共に、軽く額に触れそのまま離れてしまいました……。


「……ぁ…………」


物足りない感覚に、思わず強請る様な声が出てしまいました。

私は自分のそんな声に驚いて、閉じていた瞳を開き、カイル様から表情を隠す様に俯きました。

そんな私の視界に、カイル様の体の横に垂らされた腕が見えるのですが……。

手は強く握り締められ、何だかプルプルと震えている様な……?


どうされたのかしら??


不思議に思い、先程まで感じていた恥ずかしさも忘れて、カイル様を見上げました。

カイル様はそんな私と目があうと、毒気を抜かれた様な情けない表情で、笑ったのです。


「アンジェリカ、マジ小悪魔なんですけど……」


カイル様が何か呟いた様ですが、私には聞き取れませんでした。

なので、カイル様を見つめたまま、尋ねる様に首を傾げたのですが……。優しい微笑みに、誤魔化されてしまいました。


一体、カイル様は何とおっしゃたのでしょうか? 気にはなりますが、あの様に誤魔化されてしまうと、問いかけることも出来ません。

少しモヤモヤするものは有りますが、追求するのは諦めましょう。


その後は、アフタヌーンティーを楽しんでいた場所まで、再び手を引かれて戻ったのですが……。

私の足元はフワフワと頼りなく、まるで、夢の中に迷い込んでしまった様な気がしていました。

こんな幸せな時間、現実とはとても思えなかったのです……。


テーブルへ戻る間中、これが……、カイル様の私への甘い眼差しや仕草が夢だったら……と、恐怖を感じてしまいます。

もし夢なら、覚めないで欲しい……。

それでも、夢では無いと確かめたくて、何度も何度もカイル様を見上げ、その度に甘い微笑みを向けられる事で、私は何とか落ち着きを取り戻す事が出来たのでした。


書いてて恥ずかしいです。もだもだします。

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