子猫は弄ばれました。……猫じゃらしで。
今、俺は最大の敵と対峙している。
ニャガー!(野生のカン!)
目の前にユラユラしている猫じゃらしに飛びつく。
が、敵はひょいっと猫じゃらしを揺らし爪先さえかすらせない。
「へへ、あめえ。あめえ」
木のジョッキに入ったビールモドキを飲んで顔の赤いおっさんがニヤニヤしている。
ぐぬぬぬ……。テーブルの上にのせられ、かれこれ1時間はこうやってこのおっさん、正確にいえば飼われている家の主人に遊ばれている。
ナ~ゴ。(止めとけ)
ナー。(止めないでくれ。あの猫じゃらしを一回なりとも捕まえないと)
ナーゴ。(だから、止めとけって。猫じゃらしの達人には敵わんから)
猫じゃらしの達人? オカアサマ説明プリーズ。
猫じゃらしに飽きたふりしながら、母猫を見る。その横で猫じゃらしが……ウゼェ!
ニャー。(簡単に言えば、お前が3匹いたところでかする事も出来ないってことだよ)
そうこう言ってる間にも前足の届くとこまで猫じゃらしを持ってきて揺らしている。くっ、本能にうったえる絶妙な振り方だ。封印を施した右手が疼く! ここは我慢だ。落ち着け! 俺。
「ん~? もう諦めたのか~?」
顔にペシペシ当てんな!
「お父さん! ペケりんいじめないで!」
「ん~?」
少女の声にそちらを向く。今だ!
ニャガー!(封印限定解除!!)
目の前に止まっている猫じゃらしに飛びつく。
ーーヒョイ!
ヌガァァァ! よそ見してんのに、よけるな!
「それより、今日はゴブリンが出たぞ」
右! 左! 飛び付き!
「え~! ゴブリン? こっちまで下りて来るの?」
「お父さんがちゃんと倒しといたぞ。お父さん強いからな!」
話ながら、くの! 器用に……、この!
「俺とジンジョ、サンタナが5匹のゴブリンと対峙してだな。こう、こうやって来たから剣で突き刺してだなぁ……」
ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャガー!(オラ、オラ、オラ、オラ、オラ、オラ)
ナゴ?(頭の上で振り回されてる猫じゃらし見てそのかけ声どうよ?)
ニャガー!(うるさい! まだイメージに体が着いていかないの!)
「……で、最後のゴブリンをこうバサッて切り捨てたんだ」
よし、テーブルに付いた。
ナッ!(もらった!)
飛びつく俺の前で逃げていく猫じゃらし。
更に追いかける。後一歩! 後一歩! ……ん?
足元がすかっと空ぶった? おっ、落ちる!
テーブルに爪を立て、ブレーキをかけるが間に合わない。
ニャッ!(落ちる!)
首の後ろをつままれ、酔っぱらいの顔の前に吊り下げられる。
……ナー。(今日はこの辺で勘弁してやる)
その後床に下ろされた俺に、
ナゴ。(負け猫の遠吠えだ)
ニャオーーーン(泣)