勇者の飼い猫が言ってました。ピエロか!
魔王討伐から3年が経った。
魔王は倒れたが、世界には魔獣がいなくなる事はなく、各地の生態系は変わってしまった。
でも人間ていうのは、逞しい。自分達に有益な魔獣を飼い慣らし豚や牛のように食用にする者や、魔術師が集まり協会を立ち上げたり、人々の仕事の斡旋用のギルドを作ったり。
なぜか……飼い主が一番ギルド作るのに乗り気だった。『テンプレは・無ければ作るぞ・俺様が』とか言ってはしゃいでた。ちなみにこの言い回しは短歌とか言うらしい。
ギルドの基盤ができ、初代ギルド長を飼い主と共に戦った鎧のおっさんにダチョウ倶楽部方式・挙手型で押し付け、翌日には、自由への逃避行へと城を飛び出すはずだった。
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目の前に血にまみれ震える手があった。
「何故?」
見上げると酒瓶を持ち、冷たい目で見下ろす姫がいた。
「さすが勇者様ですわ。この猛毒を飲んでまだ生きているなんて」
「……何故?」
吾が輩はこの時動く事も出来ずに姫の顔を見つめていた。本当なら、あの顔に引っ掻き傷でも付けてやれただろうに。
「貴方がいたら、私の国を広げられないでしょう?」
何を言ってんだこの姫は?国を広げる?この疲弊した国を?
「私にはこの国は狭すぎますの。それに私が他の国も治めれば、誰もが幸せになれますのよ」
「そんな事の……為に戦争……起こす気か?」
「そんな事?」
本当に解ってないようだ。この姫さん。
3年間見てきたこの国の現状は猫から見ても酷いものだった。上に立つ役人や貴族が国民から搾り取り、ほとんどの人々が食うや食わずで痩せ干そっていた。
そこからある程度まで回復させたのは、飼い主の手腕だ。
その飼い主が居なくなるなら、この国はまた元に戻ってしまうだろう。
「バカな事を……」
姫さんは力なく倒れる姿を見ると、部屋を出て行った。
「ゴエ……モン」
後に飼い主の声が小さく響いた。
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雲一つ無い青空。
その下では湿っぽい葬儀が行われている。
『勇者が他国の暗殺者に殺された』
今、目の前で飼い主の棺を背に悲しげな表情を浮かべそう集まった人々に告げる姫。
「勇者様の無念を晴らすために戦わなくてはなりません!」
そう人々を煽る姫さんあんたに聞いてみたい。
…………姫さん。ピエロって知ってる?
皆さん、ポカーンと姫さんの背後見てます。
飼い主なら、言うだろう。
『志村~、うしろ~!』……と。
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「ゴエ……モン」
姫さんが出ていくと、“倒れた吾が輩”を抱き上げた飼い主が泣いていた。
ーー笑い過ぎて。
吾が輩はその頬をつねった。手で!
「イデデ!止めろ!ゴエモン」
なかなか伸びるぞ。この頬っぺた。
「ゴエモンちゃん解毒剤」
飼い主の背後から薬と水を差し出して来るのは、魔術師の女だった。
「ありがとう」
薬を飲み立ち上がると、女が飼い主と吾が輩を交互に見て、
「同じ顔が2つあるとやっぱり気味が悪い」
判るから言わんといて。
吾が輩は、どうやら人間に化ける力を手に入れていた。しかも飼い主以外にも化けれるが……そっちは微妙らしい。
それで、飼い主が裏でこそこそやるときは入れ替わっていた。今日もだ。
この日は、じゃんけんで負けるとは思わなかった。
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姫さんの背後で『前に進む格好で後に歩く』と言う訳の分からない行動をしている飼い主を皆さんが見ている。
さらにダンスとか言うやつを踊ってるのを見て、ざわめきだした。
飼い主よ~。お前がピエロか!
この後は、姫さんを初め、暗殺に関わった貴族を捕縛して終わった。
ーー現在。
「ゴエモン、助けて~」
仕事に忙殺される飼い主が青白い顔で呼んでいます。国の内部をひっくり返したので自由への逃避行はできなくなりました。当たり前だ!
吾が輩?飼い主の悲鳴を背にひなたぼっこしてますが、何か?
そいじゃ、おやすみ。……ZZZZ。
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ニャゴ。(アーシア先生。そんな夢見てました。)
グルニャ!(授業中にそんな夢見てたんかい!)
ううう(泣)。タンコブでけた。
『猫魔法:人化』継承。