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私はあの時、夢を持っていた。
本当にその夢が私は叶うと信じていた。
アルバイトをしながら、モデルになることを
目指していた大学生の真衣は自信があった
オーディションに落ち、深く絶望していた。
真衣はすべてを失った気になり、
「私なんか、生きていてもしょうがないんだ……」
自殺をしようと高いビルの屋上に立っていた。
真衣が意を決して、一歩を踏み出そうとしたその時……
真衣の横に二十歳くらいの男・秀平【しゅうへい】が
真衣と同じように立っていた。
『えっ? だ、誰?……』
真衣が秀平のことに驚いていると
「ここから吹く風が一番、気持ち良いんだ。」
秀平は隣にいる真衣に優しく声をかけてきたと
同時に真衣と秀平に風が心地よく、吹き抜けた。
秀平は真衣の手をギュッと握ると
「さあ。一緒に行こう!」
ビルから一歩を踏み出そうとした。
秀平のように今まで死のうと思っていた真衣は
グッと秀平の手を引っ張り、
「ダメ! 死んじゃ……」
秀平のことを強く引き止めた。
秀平は真衣の方へと振り向くとにっこりと微笑み、
「良かった!…… やっぱり、死ぬ気はなかったんだね!」
真衣と共にビルの縁【へり】から後ろへと下がった。
「あ、あぶないじゃない!…… 何をやっているの?」
真衣は怖い顔をし、真剣に秀平のことを怒った。
だが、まるで生きる気力を無くしている秀平は
夜空を見上げながら、
「別に良いじゃん…… どうせ、君も死のうと
思っていたのでしょう?」
と真衣に言った。
「……。」
真衣は秀平のその言葉に返す言葉がなく、黙り込んだ。
「ねぇ。君は何で死のうと思ったの?」
秀平は真衣のことを見ながら、真衣に死のうとしていた
理由を訊いてきた。
『え?……』
一瞬、驚いた真衣だったが
「実はね……私はね。自信があったモデルの
オーディションに落ちて…… もうどうでもよくなって……」
真衣は何故か、秀平に素直に死のうとしていた
理由を教えた。
「へぇ…… そうなんだ……」
秀平は真衣の死のうとしていた理由を笑うことなく、
真剣に聞いた。
「ねぇ、貴方は?……」
真衣も秀平に同じように死のうとしていた理由を
訊こうとすると秀平は急に立ち上がり、
「さあ。僕はそろそろ、帰ろうかな?…… じゃあね!」
というと真衣に手を振り、高いビルの屋上から
立ち去った。
『何だったの? あの子?……』
真衣は突然、目の前に現れた秀平によって、
死のうという気がすっかり失せてしまい、自殺をやめて、
真衣も高いビルの屋上から立ち去った。




